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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 変わりゆく年度末
63/111

61 - 考査が終われば演劇の

 3月2日、金曜日。

 学年末テストの全日程が終わり、生徒としては年度末の各種イベントへの対策を始める、そんな頃合い。

 僕と洋輔はその日、お弁当を持参して教室で食事を済ませ、十二時半に体育館へと向かうなり二人で一気にセットの展開と最終調整を実施。

 今日は二時から、演劇部として通し練習を行うのだ。

 かなり早めに来ているのは、要するに他の人達が来る前に錬金術やら魔法やらで楽をするためにである。

「身も蓋もねえな……」

「でも、事実だもの」

 ということで色々とずるをしつつも大型セットを片っ端からも組み立てて、洋輔と手分けしてあらかじめ準備されている設計図通りにまずはテープで正確に目印を開始。

 今回の演目は検討の結果、スムーズな場面転換がどうやっても不可能という場面が一カ所あったため、祭部長やナタリア先輩、緒方先生はもちろんのこと、オブザーバーとして招いた茱萸坂さんの意見も絡め、技術的に実現可能であるのかどうか、そして応用がどの程度利くのかなどの確認をした上で、一つの決断が成された。

 張り出し舞台及び花道としてのランウェイ導入である。

 幸いどちらも過去に行った事があり、道具も残っていたので微調整のみで済んだのは有りがたい。

 で、技術的な確認とは場面転換をこの張り出し舞台や花道の『分離』によって行えるかどうかという点で、やれば出来ることは間違い無かったんだけど、安全確保の面で緒方先生が待ったを掛けた。で、これに対して茱萸坂先輩が二階キャットウォークからのの吊り下げを利用する事で解決できるとアイデアを出してくれて、これを行うことで緒方先生を納得させた。

 次に応用がどの程度利くのかという点、これはその劇をこの学校内で行う分にはどうにでも調整が出来るけど、学校外の別の舞台で行う際はどうなるのかというものだ。

 結論から言えば、その際は『各舞台ごとに再構成するしかない』となった。

 そもそも論として元から在るならばまだしも、存在しない場所に張り出し舞台や花道を準備することが他の舞台では困難だろうし、ともなれば殺陣のシーンをどこで行うかなどの問題も出てくる。なので当面はこの学校内でのみ行う芝居として完成させる、それが祭部長の決断で、僕達はそれに同意した形になる。

「佳苗、白テープ追加」

 ふぁん。

「サンキュ」

 張り出し舞台と花道を設置し終えれば、次は位置確認用のテープ貼り。

 但しテープは貼りっぱなしに出来るわけもなく、撤収時に剥がす必要がある。だからといって何度も張ったり剥がしたりするのは面倒だ。そう判断した僕の結論はと言うと、

「しかし思い切ったな……。全面にシート敷くとは」

「発想自体は茱萸坂先輩の時代からあったんだよ。実現するとなるとどうだろう、ってなって見送られてたそうだけど」

 バレエシート。

 主にバレエ……踊るほう、球技じゃ無い方のバレエやダンスなどのフロアに使われるもので、滑りにくく若干の衝撃吸収が出来るというものである。

 尚、滑りにくいというのはセットや小道具が動きにくくなるなどのメリットとして使える反面、演劇表現としての『滑っての移動』が難しくなるというデメリットも持つ。だからこそ茱萸坂先輩は導入を最終的には諦めていたんだけど、僕が入ったことで『靴』に細工できるようになったため、導入しても問題は無くなったわけだ。

 ちなみに靴に限らず、ほぼ全出演者の全衣装と靴は僕が作った物をベースにして、ディティールの調整を裁縫部や工作部に手伝って貰っている。さすがにそこまでこり始めるとセットが間に合わない……こともないんだけど、怪しまれるしね。

 ともあれ、濃いグレーのバレエシートを敷き詰めていき、舞台にぴったり敷き詰め、あまりは斬り、逆につなぎ目は中心に近い、頻繁に演者が移動する場所については溶接棒できっちり繋いでおき、逆に隅っこなどは透明なテープで誤魔化しだ。

 敷き詰めが終われば位置確認用のテープを指定通りに張っていき、また一部の半自動で動かすライト用のセンサー類も設置、さらにフットライトに埋設型のスピーカー……。

「…………。いや、手伝ってる俺が言えた義理じゃねえけど、これ、中学生の演劇部の仕込みじゃねえよな」

「それは僕もちょっと思った。でもここまでしても実は茱萸坂先輩が本気を出した舞台の半分くらいしか手間が掛かってないんだよ」

「あの人も趣味の人だよな……」

 言えてる。錬金術も無しに良くやるよ。

 さて、位置確認用のテープを改めてチェックして問題が無かったので、いざ大型セットの導入を開始。

 今回は大転換を何度か挟まなければならない事から紗幕スクリーンへの投影なども視野には入ったのだけど、ステージの奥行きが圧倒的に足りず断念したという経緯がある。いつかLEDなり液晶なりの大型スクリーンを導入してやろうというのは僕の野望だ。商店街名義ならセーフだろうし。

「いやアウトだからな」

 洋輔の突っ込みは横に置いて続き、大転換ではない、通常の転換で用いるギミック用の仕掛けの補助レールを敷く。

 発想それ自体は至って単純、『レイヤー構造』だ。

 アニメのセル画のような形で『層』を重ねることで場面を細かく変化させる。一番奥にあたるのが空で、手前のほうに建物とかがある感じ。

 また、各層は少なくとも二つ、最大で五つのブロックに別れていて、たとえば二つのブロックから構成されるやつはロックを外して両サイドに引っ張ることで舞台袖に一気に撤収させたり、逆に両サイド、両側の舞台袖からセットを中央で追突させ、その衝撃でロックを行うなんていうことも出来るようにしてある。補助レールを使っているのは、キャスターだとまず間違い無く上手く追突しないため。

 それと万が一でも人間が挟まれてはいけないので、その辺の安全処置として、特に追突合体を行うレイヤーにはそもそも『侵入ができないように』、透明なアクリル板で仕切りを入れている他、実運用時は常に洋輔が剛柔剣で監視することになっている。

 剛柔剣(ベクトラベル)による監視と最悪の場合の救助などができるからこその仕掛けであって、通常はまず使えない手なんだよね。まあそれはいずれ何とかしよう。液晶で。

「ああ、うん……まあそれならまだそっちのがいいな」

 でしょ?

 さて次、張り出し舞台や花道側の仕掛け。それぞれ分離が出来るようにしてある……とはいえ基本的には固定して使うので、固定がきちんとできているかどうかをまず確認。

 次に花道のセットを切り離してキャットウォークで回収する仕組みの動作チェック……っと。これは布に絵が描かれているものだけだ。当然だけど。

「洋輔、上お願い」

「ん」

 洋輔は二階、キャットウォークへと続く階段まで行くのがめんどくさかったようで、思いっきりジャンプしてダイレクトにキャットウォークに着地。そういう事をしているから忍者扱いされるんだけど、まあそれはそうとして、動作チェック。

 一階側で演者がペダル操作、をするとパージ状態になり、これをキャットウォークがワイヤーで引き上げる。僕や洋輔なら手動でもいけるだろうけど、普通は無理なのできちんと滑車で緩和しておいた。それでも二人がかりかな。ちなみにキャットウォークに引き上げられたセットはそのままくるんと芯に丸め取られるようになっていて、別のロールをセットしておもりを垂らせば、その自重ですすっと巻かれている布が降りていき、重りが花道の床面にくっつきマグネットで捕捉、簡易固定。同時に一階側で小物の台車だとか椅子だとかを展開しつつ、布のセットをきちんとペダルスイッチにカチッとはめ込む。

 うん……まあ、何度か実際に確かめれば問題は無いと思う程度に簡略化してるけど……ま、その辺の訓練も兼ねるのが通し練習と言うことで。

「後は照明機材が入った後に調整だな」

「うん。ありがと、洋輔」

「どういたしまして」

 すとん、とキャットウォークから飛び降りてきた洋輔と拳を併せて一段落。

 ……当然だけど、同じ体育館でもバレー部として使う時とは全然違うんだよな。

「ほんっとうに当然だな……」

「違いない。さてと、あとは――」

 セット類と一緒に体育館に運び込んだ無数のトランクケースの内、銀色の縁取りがされてるものだけをピックアップ。これが全部で十二箱、全て鍵が付いている。

 それと色つきのタグの中で、緑色のタグがついているものも集約しておく。こっちは全部で七箱で、鍵は掛かっていないけど、南京錠を通すことが出来るようにしておいた。

 ちなみに緑色のタグにはそれぞれ通しの番号とイニシャルが刻印されている。剣道部、殺陣に参加する用の衣装だ。で、銀色の縁取りの方は同じく殺陣でメインに使う事になる模擬刀セットで、中身は全て打ち刀と脇差のセット、及び下着の上から着用する衝撃吸収用の防具だ。

「火縄銃はねえのか?」

「無いよ……」

 洋輔まで見たがってるのか、火縄銃の早撃ちガンマン。

「火縄銃って言うと弱そうだけどさ。マスケットって言えばまだ強そうじゃねえ?」

「僕はライフリングまで一気に研究するから」

「あー……」

 文明的なゲームの話にすり替えて話題を一旦強制終了。 

 理由は単純。

「お、かーくんによーくんっすか。ちーっす」

「こんにちは、祭部長」

「こんにちは」

「早入りするって話は聞いてたっすけど。うわあ。もう殆ど準備できてるっすね……」

「まだ照明器具類は入れてません。ただ、セット類は全部スタンバイ済み。舞台と花道もご覧の通り設置済みです。それと、祭部長には軽くしか説明していませんでしたが、今回はバレエシートを導入しました」

「バレエシート? ああ、立ち位置の目印っすね」

「はい。それに加えて、一応、ステージに直よりかは多少の衝撃吸収も見込めるので」

「グッジョブっすよ」

 親指を立てて祭部長はキザに笑った。

「とはいえ、椅子がないっすね?」

「あ。」

「そういや出してねえな」

「すみません……」

「いやいや、舞台関係を二人だけでやらせちゃったっすからねえ。椅子出しは残りのメンバーで適当にやるっすよ、二人はちょっと休んどいてほしいっす」

 はい、と二人で揃って答えると、祭部長は暫く舞台を眺め、そしてその後、僕達の近くに置かれたケースに視線を向けると眉間にしわを寄せた。

「それは衣装っすか」

「ええ。剣道部向けのものです」

「ああ、なるほど。裁縫部に手伝ってもらうにも、殺陣での動きを阻害しないように……は、辛いっすからねえ」

「そうですね。それに加えて、簡易防具帯との兼ね合いもあったので」

 ま、裁縫部の手が入っていない分だけどうしても華々しさは少なくなっていて、どちらかといえば地味な物になってしまっていると思うけど……殺陣なんてそんな物でいいと思う。うん。

「そうだ、祭部長。このケースを」

「これは? 鍵……が、ついてるっすね」

「暗証番号は0103です。中身は長物、本番でも使う事になる模擬刀の打ち刀と脇差、それと簡易防具帯が入ってます」

「……なるほど。持ち出し厳禁ってことっすね」

「そうです。緒方先生と調整したんですが、常に管理することが義務になりました」

「やむを得無いっすよ。ちなみに打ち刀と脇差って言ってたっすけど、太刀とか短刀は無いっすか?」

「短刀は二振りだけ持ってきてます。太刀はないですね……、振ってみたいですか?」

「まあ、ちょっとは。おれも男っすから」

「なら今度、持ってきますが。重いですよ」

「…………。やっぱりいいっす。おれはかーくんみたいに力持ちじゃ無いし……」

 僕規準で言うならば誰も持てないと思う……。

 ちなみに太郎太刀やら次郎太刀よろしく、真柄兄弟が使っていたとされるような大太刀でも僕ならば振り回せた。もしかしたら真柄兄弟は僕と似て筋力強化の魔法が使えたのかもな。

(ねえよ)

 でもでも、上杉謙信……、えっと、長尾? なんとかって人、

(長尾景虎か?)

 そう、その人のエピソードで銃弾が当たらなかったみたいなのがあるじゃない。

 あれってもしかしなくても剛柔剣だったんじゃない?

(だからねえよ)

 むう。

「ちなみに、祭部長。今日の通し練習、上手く行くと思いますか?」

「最初から上手く行くと思うほど、楽天的では無いっすよ。今回はまず、課題を確認するところからっすね……」

 本番は決して遠いわけじゃ無い。

 とはいえ公演の具体的な日時は決まっているのだ、あまり悠長にもしていられない。

「それに先行体験入部の件もあるっすし」

 演劇部が行う先行体験入部は、二度目の通し練習の見学という形で行うことが改めて決定されている。その結果、ちょっと他の部活よりも大分遅いし、体験入部と言うよりも先行見学会という意味合いが強くなっていた。

「ま、楽天的では居られなくとも、悲観的というのもだめっすからね。各々ベストを尽くすとするっすか。かーくん、よーくん、よろしくっすよ」

「はい」

「もちろん」

 洋輔と僕が祭部長に答えると、祭部長もにこりと笑う

 間もなく人も集まり始める時間。

 なんとか上手く、行かせたいものだ。

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