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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 変わりゆく年度末
62/111

60 - 前向き検討

 2月23日、木曜日。

 とりあえずは普段通りに登校し、授業が始まった頃に洋輔と情報の共有を本格的に開始していく。

 まず何があったのかと言えば、僕はソフィアによってソフィアの居る地球上に呼び出されていた。方法は明示されなかったけど、神智術だろう。

 そして次に、その神智術はかなり不安定か、もしくは危険なもののどちらかだったと思う。洋輔から得られた情報も含めると、恐らく魂や意識と呼ばれるものだけを一時的にたぐり寄せた感じだろうし、それは錬金術でも魔法でも危険な行為に違いは無い。

 尚、そんな事が可能なのかと言う点においては、神智術には『精神の情報化』という技術が存在するのでたぶん出来る。

 次、いつソフィアがそれを実行したのかについては、まるで不明。『猫と少年』という絵を送りつけてきたのと同時にかも知れないし、つい最近になってからかもしれない。確認漏れだな。

(まあ、他の確認の方が重要だったと思えば良い)

 ん。

 今回の僕の移動……仮に神智術による精神移動だとしておくけれど、この精神移動によって、僕は一時的にこの身体から精神だけが引っ張り出されて、ソフィアの居る地球へと遷された。その上でソフィアの性格から推測するに、呼びつけた僕の精神を入れる『入れ物』としての人形を用意していたはずである。

 けれど、その入れ物に僕の精神は入らなかった。それは精神移動がそれほどまでに不安定な技術だったということだろうなあ……あるいは同じ地球上に居るならば綺麗にできたのかもしれないけれど、僕とソフィアの居る地球は別で、パラレルワールドにしてもやたらと齟齬が多い始末だ。結果、僕の精神は少しでも安定する器を求めて――つまり、その世界における『渡来佳苗』と同じIDの理極点に迷い込んだ。

 その理極点としての僕は、どういうわけか鶴来佳苗で、洋輔はといえば渡来洋輔だった。僕は眼鏡を掛けておらず、猫も飼っていない。一方で洋輔は眼鏡を掛けていて、餌をやらないと、という台詞からして犬か猫、恐らくは猫を飼っていたと思う。

 鶴来佳苗としての僕には猫寄せの力がそれほど強くないのか、ちょっと猫の気配が掴みにくいんだよね。

(いやわりい、突っ込みたくなるからそこは流してくれ)

 オッケー。

 ちなみに眼鏡を掛けているのが僕じゃ無くて洋輔というだけで、鶴来佳苗の身体は僕の身体がベースで、渡来洋輔の身体は洋輔の身体がベースだったように見受けられた。ベース、というのは、僕の身体にはない傷跡がいくつかあった事、それと筋肉が今の僕よりも多かった点からの判断だ。洋輔もあの分だと差違があったはず……視力に問題があるかどうかは別としてね。

 あとはなんだろう、鶴来佳苗はどうやらナイフを集めていたようだ。結構な業物も持っていたし、あれは何度か人を斬ったことがある感触だ。どうやら鶴来佳苗という僕は人を斬ったことがあるかもしんない。のうのうと生活してる時点でそれは露見していないのか、あるいは僕の勘違いか……だけど。

(血の匂いは?)

 ほとんどわかんなかった。それは僕の可能性なんだろうけど、僕の身体じゃ無かったからね、感覚が薄かったのかも知れない。

 あとは、えっと、学生服がちょっと違った。学ランに赤いラインが引かれている感じ。但し、造りそのものには特に変化は見られなかった。

 さて、ここまでを踏まえて、更に大きな違いについて。

 鶴来佳苗が生活している地球において、第一次世界大戦、及び第二次世界大戦が発生していない。それらと比べれば小規模な戦争はちらほらと起きているけれどそれだけで、なので世界地図の勢力圏がまるで変わっている。

 そもそもソフィアと初めて会った世界での会話を思い出してみても、微妙に国名のニュアンスが違ったりしてたんだよね。あの時は単にドイツと日本の差かとも思ってたけど、そもそも国のありかたが違かったというわけだ。

(第一次世界大戦が起きなかった状態の世界地図なんて言われても咄嗟に出てこねえけど……えっと?)

 日本帝国は今の台湾とかを支配下に置いてるね。独逸帝国もポーランドの北部とかが領土の一部で、当時の独逸にとって露西亜は不倶戴天の敵だ。

(ポーランド……)

 そ、僕達からしてみれば『ポーランド在住ロシア系ドイツ人』という謎でしかないけど、ソフィアの世界に当てはめてみると……、

(いややっぱりおかしいよな。露西亜は不倶戴天の敵……だろ?)

 そのはずだけど……、第一次世界大戦が起きていないくらいだからね。

 独逸と露西亜の間に確執がないのかもしれない。だとすると、別に露西亜系の独逸人が居たっておかしくは無い。

 ただ、ソフィアにロシア人の血が入ってるかは微妙だけど。

(それは逆なのかもな。こっちで「猫と少年」を寄贈した奴も元々ドイツ系なのかもしれねえぞ)

 ああ、ドイツからロシアに渡って、国家崩壊に伴いドイツに戻ったと。

 可能性としてはあるな……ま、ともあれ。

(ああ。その線で考えていくと、お前が鶴来佳苗であったように、ソフィアもソフィア・ニコラエヴナ・ウラノヴァって名前でこの地球に存在している線が強くなった)

 その辺の答え合わせも含めて、なんとか猫と少年を確保しないとね……。

(ただ、疑問も残るぜ。どうやって『猫と少年』なんて代物をこっちに生成したんだ?)

 自分自身を理極点と見做して、自分自身を要に呪文(スペル)と神智術を混ぜて行使したんだと思うんだよね……『自分に該当する理極点の周囲にそれを発生させて、かつ寄贈させる』とか、そこまで含めて。

 理極点の単純な利用ならばソフィアの方が得意だもん。

(だとしてもかなり無茶をしないと……)

 僕達にとっては無茶でも、ソフィアにとってはそこまでの無茶でもないのかもね……。

 陰陽互根。僕達は二人で揃ってようやく一つの完成形だけど、ソフィアは単体で完成しちゃってるし。

(まあ……冬華の成功例、みたいなもんだしな)

 うん。

 まあその辺も一度置いて、だから現状で分かったことを改めて整理しよう。

 ソフィアが暮らしている地球は僕達が暮らしている地球とは別だ。

 そして僕達が以前やりとりをしてた『他の地球の僕達』が居る地球とも明確に別。

 使い魔の契約が一時的に寸断された所も考えるに、あの地球は異世界、ないし並行世界上に存在すると思われる。

 よって、ソフィアとのやりとりをするためには理極点を介する、極点干渉を利用した方法を取らざるを得ない。

(ん。けどそのためには神智術が必要で、更に神智術を発展させるためにはソフィアが必要だが)

 『猫と少年』に仕込まれている神智結晶を何としてでも手に入れる必要があるね。

 基礎中の基礎が出来れば実行できるとソフィアは言っていた、恐らく展開の補助機能を付けてくれているのだろう。その上でそれを実行すればより安定するとも言っていた。

(どうやるんだかな……)

 さあ。神智術だけでは『異世界』レベルへの通信ができるようになるとは思えないからね……。

(となると、神智術に関するハウツーでも送ってきたか。それを錬金術やら魔法と組み合わせてなんとかしろと)

 半々だね。

 ソフィアならばそれをしてもおかしくないし、呪文(スペル)を組み合わせることで異世界との通信を実現してもおかしくはない。

 あるいは……異世界とは言っても、完全な異世界では無い可能性もある。

(…………? 完全な異世界?)

 歴史は違ったけれど、地球は地球だった。

 それに僕や洋輔だって、苗字が入れ替わっていたけど存在していた。

 理極点がある程度共通しているならば、それは並行世界としての異世界だ。

 並行世界上に存在する地球であるならば、とりあえず僕達が『僕達』と無理矢理通信が出来たように、きっちりと条件や道具を整えれば可能だと思う。

(その肝心の実例であるはずの『俺たち』とのやりとりが出来なくなってるのに、か?)

 …………。

 そうなんだよねえ。

 でもまあ、今のところ出来るのはそれくらいだし。

 それに日常でもなく非日常でもない、異常の中での出来事だ。こっちにリソースを多少なりとも僕と洋輔が割けば、他人から心配される回数は減ると思うよ。

(それが最大のメリットだな……)

 そういうこと。

(で、時期の目安は?)

 朝も言ったけど、とりあえず半年は覚悟して、って伝えた。『時差』もどうやら無さそうだから、二年生の間に解決できればオッケー、でいいんじゃないかな

(りょーかい。にしても精神移動ねえ)

 洋輔は呆れるように思考を巡らせる。

(ソフィアの奴、後先を考えないならば異世界から都合の良い意識を連れ去れるわけだよな)

 ……そうなるね。

(口寄せつーか、イタコの領分つーか。イタコ。イタコねえ……)

 偶然なのか、どうなのか。

 確かにその辺も調べてみてもいいのかもしれない。

 ま、方針は決まった。あとは少しずつ進めよう。

(だな。急いては事をし損じる)

 というわけで授業に集中……とはいえ、テスト直前の授業は退屈なんだよな。

 それでもまさかサボるわけにも行かず、普通に授業は進行して、と。

 三時間目の授業も終わり、休憩時間に着替え。

 四時間目は体育、今日はハードル走をやるらしい。

「ハードル走ってさ。全部蹴飛ばしても反則じゃ無いんだっけ?」

「『やむを得ず』ならな。最初から蹴飛ばして進むようなら反則」

「そりゃそうか」

 そして葵くんが徳久くんと妙な会話をしているのを聞いて、ふと思う。

「じゃあさ、ハードルの上をぴょんぴょん飛ぶのは?」

「えっと……あの不安定極まるハードルの上でジャンプするって事か?」

「うん」

「ルール上は……どうだろうな、違反しそうなきもするし、そもそも出来るのか、それ」

「さあ。やってみないとわかんないけど……」

 僕なら出来るとは思う。

 なんせ理想の再現があるし。

(おいそこ、主旨、主旨)

 わかってるよ。

 しかし、

「やめておきなよ、佳苗。……なんか出来ちゃいそうだけど、失敗した時に怪我するよ。擦り傷くらいなら勲章かもしれないけど、捻挫とか、骨折したら馬鹿らしいしさ」

 と諭してきたのは葵くんだった。

 呆れ半分といった様子だ。もう半分は『佳苗ならやりかねない……』だろうか?

 よくわかっているようで。

「でもさ、前多くん、徳久くん。その手の曲芸は僕じゃ無くて、洋輔の方がやりそうじゃない?」

「いや。あいつは壁を駆け上がったりするだけで、曲芸とは違うからな」

「うんうん。鶴来はどっちかというと忍者だよ忍者」

「…………」

 え、俺そんな風に思われてるの、という視線を洋輔が向けてきている。

 無視。

「忍者といえば水の上を走るとかあるけど、あれ、佳苗にならできる?」

「え、何その無茶振り。…………。さすがに無理だ、と思うけど……道具使って良いならなんとかいけるかな?」

「水蜘蛛だ!」

「いやあれは浮き輪だからね」

「え、そうなの?」

「浮き輪というかボートというか。少なくともアレを足に付けてすいすいと進むやつじゃないよ」

 なんかイメージ的にできそうだというのは分かるけど、あんなものを付けるくらいならばまだ普通に走った方が進めると思う。

「じゃあ、どんな道具を使うんだ?」

「大量の片栗粉……」

「まさかのダイラタンシー効果……」

 実際には別の道具を使うつもりだけど、ま、そんな事を言ったってしょうが無い。

 ちょっとしたボケという形でこの場は収め、着替えを終えた子たちがまちまちと校庭に向かい始めるのにあわせ、僕もいざ校庭へ。

「ん……」

 下駄箱で外履きに履き替えて、ふと。

「どうしたの?」

「……いや」

 ちょっと首周りをストレッチのように軽く回すようにほぐして、スポーツ用の眼鏡をきちんとかけ直す。運動靴のつま先でとんとんと二度三度地面を叩いて、一度ジャンプ。

 んー……?

「あれ……? 今日の僕もしかして体調悪いのかな……?」

「え?」

「いつもよりも身体が重い……ような」

 ハードル走くらいで明確に見える支障は無いだろうけど……、今のジャンプも、普段ならバック宙なりなんなりに出来たよな。

 それが出来なかった。

 理想の動きを使えばそりゃできるけど……。

「気のせいか。なんでもないよ」

「そう?」

 徳久くんは心配の色を浮かべてのぞき込んで来た。

 大丈夫大丈夫、といつものように笑って答えて、けれどやっぱり身体の奇妙な重さは間違い無くある。

 これは……どれが原因だろう。

(精神が剥がれた副作用、ってのが真っ先に思い浮かぶが、あんだけリザレクションしてるんだよな)

 そうなんだよね。賢者の石も効果適応中、一応エリクシルも飲んでおいたはずなんだけどな……。

「一応、自分でも気にしておくか。今日は無茶しないようにしよっと」

「今日『は』じゃなくて『これから』にしてくれ、頼むから」

「前向きに検討させていただきます」

「お前政治家にでもなるつもりか……」

「いやあ。僕なんかが政治家になってみなよ、半年で国が滅ぶよ」

 国は国でも諸外国も含めた全部がで、滅ぶと言うより滅ぼすだけど。

 一つの国家にした方が管理楽だし。

(おいそこの魔王。勇者に討伐されるぞ)

 だから政治家にはなりたくないのだ。

(いや滅ぼすという選択肢をまずは捨てろ)

 前向きに検討させていただきます。

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