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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 天秤は日常に傾けて
47/111

45 - 2月1日の朝

 2月1日。

 今年ももう一ヶ月が終わったのかという気持ちと、この一ヶ月は短いからなんか損な気分になるんだよなーという気持ちと、そして今年度、つまり中学一年生としての一年があと二ヶ月ほどで終わるのかという気持ちにエトセトラ、妙な感傷があったりなかったり。

「ふぁあ」

 そして今月は短い割りに、忙しい。

 目を覚ましてカレンダーに視線を向ける。

 寝る前にめくって予定を書き込んでおいたので、今決まっている範囲でのイベントを考慮しつつ行動予定を決めなければなるまい、だ。

「にゃあ?」

「ああ、おはよう、亀ちゃん。ごめんね、ご飯はちょっと待って……ほら、おいでー」

 亀ちゃんは若干残念そうににゃあと鳴き、けれど僕の懐へと飛び込んできた。キャッチ。

 しっかり撫でつつ予定の再確認、だ。

 まず二月も土曜日は家庭教師、香木原さんが来る。年度末テストに向けての追い込みもあるけど、来年度のための足下固めの意味もあるとか言ってたな。

 平日は原則、毎日部活あり。演劇部もバレー部も実際には毎日あるわけじゃ無いけど、演劇部が無い日でもバレー部の活動があったりその逆があるのだ。ましてや演劇部では次の演目、時代劇の殺陣を試行錯誤中で、剣道部とも調整をしているためまた厄介だった。

「そろそろ昌くんたちに着てもらう衣装も準備しておくかあ……」

 殺陣の練習ではまだ模擬刀は使っていない。スポーツチャンバラで使われているエアーソフト剣を原型にしたもので代用している。僕がどんなに『当たらないように理想の動き』をしたところで、それを妙に避けようとすると当たったりするし、それをもあたらないように常に更新することは出来るけど、そうするとテンポはもちろん、殺陣とは名ばかりの『ただの長物つきダンス』になってしまうので却下。

 多少スパルタチックながら効果は相応で、既に『それっぽい動き』はものにしはじめている剣道部……だけどまあ、昌くんが主導して自主練習もやってくれてるんだろうな。今度お菓子でも持って行こう。尚、演劇部が手伝いをしてくれる部活に対して『差し入れ』としてお菓子やジュースを持っていくことは五年程前、僕の前任者である卒業生、茱萸坂先輩が緒方先生と共謀して学校に黙認させた。『黙認させた』という癖に、何故か明文化されている上当時の校長、副校長、そして過半数を余裕で超える数の教師から署名と押印のされた契約書があるのは謎だった。

 話が脱線したような気がするけれど、ともあれ殺陣の基本は形になりつつある。問題はそれがまだ動きやすい体操着でしか行っていないと言うことで、衣装として和装をお願いする以上、いくら普段から動きにくい防具や袴を身につけている剣道部の面々とはいえど勝手が変わるだろう。なので早めに衣装は用意する……その上で、調整を描けていく必要もあるかも知れない。

 今回参加して貰う子たちに着て貰う衣装はそのままプレゼントすることになっているので、ある程度しっかりしたものにしたいしね。

 昌くんの分だけでもとりあえず作っておくか。

 ふぁん。

「にゃ?」

 小首を傾げる亀ちゃんの首元を撫でて誤魔化し、目の前に顕れたスーツケースは机の上に移動。

 何はともあれ演劇部に関してはそれなりに順調と言ってよさそうだ。このペースで準備が進めば、卒業生を送る会までには形になると思う。いや、形になるのは前提で、どこまでそれを高めることが出来るか……ってのが演劇部の課題なので、そこがスタートラインなんだけども。

 一方でバレー部はというと、来年度新入生の先行体験入部に備えての準備が思ったよりも進んでいない。そもそも男子バレー部がその行事に参加すること自体が初めてで、それに加えて僕を可能な限り参加させたいんだけど、僕を参加させるとゲームがゲームとして成立しない問題が発生する。

 昨日の時点でも全く進展しそうに無かったので、僕の方からカードは一枚切っておいた。

『いざとなったら、僕がこの眼鏡を外して参加するって方法もありかもしれませんね』

『ん……? そういや渡来って、視力が悪いわけじゃないんだっけか。……ずっと眼鏡掛けてるもんだから、てっきり視力が悪いもんだと思い込んでたが』

『両目共に人並み以上にはありますよ。レンズに度も入れてません』

『でも、佳苗が眼鏡に拘ってるのって確か……』

『なんかね。これを掛けてるかどうかで、心持ちが全然違うって言うか……』

 最初の失踪以前、僕は眼鏡を掛けていなかった。

 最初の帰還をしてからも、最初から眼鏡を掛けていたわけではない。

 それでも眼鏡を、たとえば体育に参加するためにスポーツ用の眼鏡を用意してくるほどに掛けたがる僕の行動は当初、周囲を大きく困惑させた。その上で、『どうしても掛けていないと落ち着かない、うまく動けない』という理由になっていない理由を、失踪という事件に関連付ける形で押し通し、事今に至っては既に僕に眼鏡は当然のものとなっている。

 ちなみに眼鏡を掛けていないとうまく動けない、というのも『理想の動き』の機能が眼鏡に統合しているからでたらめでも無いため、単に真偽を疑う程度ではバレないようなカモフラージュになっていたりもする。

『眼鏡を掛けてないと、たぶん僕は怖くて、きちんと動けませんから。それがハンデには為るかも知れません。もっとも』

『もっとも?』

『ハンデどころか、ほんっとうに動けなくなる可能性も高いんですが』

 ともあれ、それこそが僕が切ったカードである。

 眼鏡を掛けない、単純な身体能力のみによる行動……『理想の動き』も『剛柔剣表示』も『時間認知間隔変更』もその他諸々も使えない状態であれば、普段の怪物リベロとは行かないのだ。

 但し身体能力の強化は眼鏡に依存しない単純な強化魔法の効果によるため、実は理想通りに動きにくいだけでそれほど問題がなさそうなのは内緒。

 あとアドリブとしての理想ができなくなるだけで、これまで何度も繰り返してきた動きは文字通りに身体が覚えてることもあり、そこまでの弱体化にはならなさそうというのも内緒。

 更に言うなら別に理想の動きにせよ何にせよ、眼鏡に付与した効果は何も眼鏡の形をしていなければならないわけでもないため別個に同じ性質の違う道具を作ってやって持っていれば適応できる……とか、その辺もあるけれど、一応それに対する回答としては『明確な弱体化をあえてする』わけで、その理由付けとして丁度良さそうなのが眼鏡だったという話である。

 もっとも、バレー部の面々は僕にそれをさせたくないようで、なんとか知恵を振り絞るつもりらしい。お昼休みとかにも集まって色々と考えてみようという話になっていた。

 と、思考が一段落したところで亀ちゃんがうずうずと僕の手の中でうごめいた。いい加減飯を食わせろと言う抗議ぽかったので、大人しく一階に降りて「おはよう」と挨拶。

 お母さんはいつものように朝ご飯の準備、お父さんは……、あれ?

「お父さんは?」

「今日はもう出社したわ。その分早く帰ってくる、とか言ってたけれど」

「ふうん……? また忙しいのか。身体、大事にして欲しいな」

「あなたがそう心配してくれているかぎり、あの人も無理はしないわよ」

 苦笑交じりのお母さんの言葉に、そうだろうか、とちょっと疑問符。

 お父さんについてのことはお母さんの方が詳しいか。

「そうだ、前に話してた、『だれかが平日に泊まりに来るかも』って話だけれど、何日くらいになりそうなの?」

「前多くんの事だね。今も調整して貰ってるけど、九日か、その次の週になると思うよ」

「なんだ。てっきり七日に呼ぶのかと思ってたわ、誕生日会、誰も呼ばないの?」

「中学生にも為ってやるものかなあ……って思っちゃってね」

「遠慮なんてらしくないわよ、佳苗。ずうずうしいくらいで丁度いいわ、いっそ部活の先輩も誘ってしまいなさいな」

「うーん……、祭部長なら、ありかもね。それと水原先輩とか、漁火先輩も付き合いは良いし、呼んだら来てくれるかな? どうだろう」

「そうそう、その調子その調子。今日のトーストはどうするの?」

「お砂糖まぶして食べるよ」

「じゃあ紅茶かしらね。三分ほど待ちなさいな」

「はあい。その間に亀ちゃんのご飯準備しようね」

「にゃ」

 まってました、と亀ちゃんは僕の手の中から抜け出すとすくっと床に着地し、ご飯の定位置へと移動。

 誕生日会か。どうしようかな。

 誰か呼んでみるか、それともやっぱりやめておくか……、洋輔には当然来て貰うけど。

(そりゃまあ、そうだろうな。前多とか弓矢とか村社とか、その辺は呼んでやれよ)

 んー……、そうだね、声を掛けるくらいはするべきか。

 女子は……さすがに遠慮しよう。うん。

「たまには小学校が同じだった子を呼んでも良いんじゃ無いかしら。今はクラスが違うとか、別の学校に行ってる子とかでもね」

「あー。それもアリだね……」

 他の学校に行ってる子で今もそこそこやりとりしてるといえば足立くんとかが筆頭になるのかな?

 他のクラスの子とかは、まあ、これを機にするのもありかもしれない。

 一組の市川(いちかわ)くんとか二組の四方木(よもぎ)くんとか、廊下ですれ違ったりするときにちょっとした世間話をするくらいだもんな、最近は。

「ま、相手の事情次第でもあるけど」

「そうね」

 亀ちゃんの前に朝ご飯を展開すると、亀ちゃんは待ってましたと言わんばかりに食事を開始。

 僕もダイニングテーブルにつけば、お母さんがトーストとお砂糖、バター、そして紅茶一式を出してくれた。

「ありがとう」

「どういたしまして。めしあがれ」

「いただきます」

 そんなわけで、朝ご飯。

 それでも時間はまだ七時ちょっと過ぎ……余裕はありすぎるくらいだな。

「あなたの誕生日とは別の話題だけれど、今週の日曜日。ちょっとお母さん、用事があって夜は出かけることになったのは……話したっけ?」

「ううん。今初めて聞いた。どうしたの?」

「かつての級友が近くに来るから、折角だから食事でもしましょうって流れになったのよね」

 なるほど。

「お父さんは居る、んだよね。ならご飯は僕が用意するから、気にしないで」

「ごめんなさいね。任せるわ」

「うん。気が早いけど、お母さんも気をつけてよ」

「もちろんよ」

 ふと話題になるかとテレビに視線を向ける。朝のニュース番組、特に妙なニュースも無し……と思えば、特集に入った。ええと、これは……、ライブ映像?

 なるほど、アーティストがライブしてたのか。で、その映像がちらっと流れたと。

 ライブと言えば軽音部と吹奏楽部の間の調整は上手くできてるかな?

 特に躓いてるみたいな話は聞いてないけど、今日のうちに確認しておこう。

「さてと、私もいただきます」

「うん。……お母さんは今日、何時頃になるのかな、帰り」

「八時過ぎかしらね。ボードには書いておくけれど」

「じゃあ、今日の夕飯も作っておくね」

「楽しみにしてるわ」

 肉じゃがでも作るか。

 確かじゃがいもが大分余ってたし。

「……それにしても、今日は洋輔くんが静かね」

「そういえばそうだね。まだ寝てるのかも……、食べ終わったら起こしに行くか」

「そうしてあげなさい」

 お母さんが苦笑交じりに言う。僕もそれに合わせるように苦笑で答えて、「ごちそうさま」と食べ終わり、食器は一度洗面台へ。

 亀ちゃんは……まだまだゆっくり食べているようなので、一端自室に一人で戻って、と。

 窓から覗いた洋輔の部屋はとても静かだったので、窓をたどって洋輔の部屋へ移動。

 案の定ぐっすりと眠っている洋輔のほっぺたをつねって、と。

「いっ……おい。どういう起こし方だ、これは。ふぁー……」

「なんとなく?」

「なんとなくでつねるな……」

 滅茶苦茶眠そうな洋輔だった。

「普通はさ、こう、『朝だよ、オキロー』とか、そんな感じだろ?」

「僕が普通に起こすと思う?」

「どっちかというとヒップドロップをしてくる印象だな」

「その上でその起こし方とほっぺたつねるのならどっちが良い?」

「…………」

 普通に声でお願いします、と洋輔が思考を漏らした。

 拒否。

「おはよう」

「おはよ。わり、ぐっすり寝てた」

「昨晩はお互い遅かったからね……」

 何せ僕でさえも色々済ませてベッドに入ったのが二時頃だったと思う。

 洋輔はもうちょっと起きてたみたいだから、四時間くらいしか寝てないんだろうな……、いや、お互いにノリノリになっちゃって、ふと気付いたら一時過ぎてたんだよね。

 一度改善を始めると終わらないのだ。どんどん直す案ができちゃって。

「大丈夫? エリクシルならいくらでもあるよ」

「身体的にはリザレクションで十分さ。ふぁあ。起こしてくれてサンキュー」

「どういたしまして」

 ああ、それと。

「今度の誕生日さ、お母さんが誕生日会をやる気満々だった。何人か呼ぶことになると思う」

「呼びすぎるなよ。あんまり手狭になると大変だ」

 それはもちろん。

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