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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 極点候補者と深刻な問題
36/111

34 - 最近のバレー部事情

 1月27日、金曜日。

 演劇部とバレー部の兼部も演者となると流石に色々と忙しいもので、バレー部でボールに触れたかと思ったら剣道部で殺陣の立ち回りについて助言をしたり、助言ついでにと脚本について祭部長から調整が入ったので手直しをするセットについてを考えたりと、なかなかのハードワークと化していた。

「それでもきっちりでたらめリベロはでたらめリベロのままなんだよなあ。羨ましい才能だよ、本当に」

 あんまり羨ましく無さそうに、部室で着替えつつ言ったのは鷹丘くん。

 最近は練習も真面目にやっていて感心感心、といってもその理由は単純で、バレー部の人数的な問題と鷹丘くんの利害が一致したと言う話である。

 現状バレー部に所属している二年生は土井先輩、風間先輩、漁火先輩、水原先輩の四人。一年生は僕と郁也くん以外に、咲くん、鷲塚くん、鷹丘くん、古里くんとなっている。

 僕達がやっているバレーボールは六人制にリベロを採用している形なので、実力順でスタメンを選んだとき、リベロにまず僕が登録され、僕がいない場合でもフィールドで一定以上の防御力を持つ風間先輩と水原先輩が登録。漁火先輩のアタック能力はオポジットとして元々鍛えられていた上、新たにエースと呼ばれるようになってからはますます磨かれ――但しレシーブ能力は殆どないけど――、それを差し引いても重要な得点源であることから登録。

 残り三人の内、少なくとも一人はセッターが居るべきで、セッターが出来るのは土井先輩と郁也くん。このどちらか一人をスタメンに入れる以上、体力の温存や怪我時のフォローを考えるともう一人は温存しておく事が多いため、残り二人。この時点で残っているのが咲くん、鷲塚くん、鷹丘くん、古里くんの四人なんだけど、この中ならば咲くんがもっともバランス良く、真面目で器用なので、最近では殆どスタメンとして考えられている。セッターを二人置く戦術も最近は研究しているとは言え、やっぱり滅多に無いので、残り一人スタメンに枠がある。

 鷲塚くんと鷹丘くん、古里くんの三人をパフォーマンス面から評価していくと、鷲塚くんは170cmを超える高身長が最大にして最高の武器となり、鷹丘くんは身長には恵まれていないとはいえ反射能力が高い。そして古里くんは器用なサーブの打ち分けが得意で、レシーブもそこそこ上手だけどもスパイクが途方も無く苦手、というラインナップで、殆ど評価的には横並びになっていた。相手によって変えるべきなのだ。

 けれどそれはあくまでもフィジカル、身体的なパフォーマンス面に限った話。メンタル面、モチベーションの類いで言うと、鷹丘くんが最も高いので、僅かにリードという感じになっている。

 よって、しっかり練習を真面目にこなしている限り、鷹丘くんがスタメン枠を取る可能性が高いのだ。以上、洋輔向けの解説おわり。

(え? わりい、聞いてなかった)

 …………。

 まあいいや。二度三度と説明する意味もあるまい。

「羨ましく思って貰えるのは嬉しいけれど……実際、どうなんだろうね?」

「ん? どういう意味?」

 と、僕の言葉に引っかかりを覚えたようで聞いてきたのは咲くん。

「自惚れみたいになっちゃうけどさ。僕がフィールドにいる限り、ボールを自陣に落とさせないって自信はあるよ。ブロックだろうと何だろうと……けどそれは、皆がちゃんと僕のために進路を開けてくれてるからだ。それに、たぶん僕みたいなのはレアケースもレアケース。バレーボールの選手としては変だろうからね。僕みたいなのと一緒にプレイしてると、どんどん防御力が落ちると思う」

「それはコーチも言ってたね。『渡来佳苗というリベロは特別だ。彼が味方である事は、チームとしては幸いで、彼を敵に回したチームは不幸だろう。けれど一選手として考えた時、本当に不幸となのは君たちの方かも知れない。なぜなら実戦で彼を起用する以上、君たちは実戦における防御力を鍛えられないから』……一語一句とは言いかねるけど、こんな感じ」

 タオルで身体を拭きつつシャワー室から戻ってきたのは郁也くん。まるでお風呂上がりのような感じだ。いや実際シャワーあがりなのだから大差は無いのか?

「郁也。シャツくらい着てこい」

「パンツは履いてるし……」

「…………」

 風間先輩と郁也くんのやりとりには何か奇妙なすれ違いがあるような気がするけれど、まあ、このあたりは一度心を許すと突如頓着しなくなるのが郁也くんなのだとこの前鷲塚くんが諦め半分に言っていたのでそのあたりだろう。

 と言っても、大半は郁也くんと同じ感じだ。かくいう僕もシャワーあがりはパンツだけで戻ってくることが多い。専用のラック演劇部の備品からという体でシャワー室の通路に配置しておいたけど、濡れないとも限らないし。

 何より、漁火先輩とかは平気で全裸で戻ってくる。そしてそのたびに風間先輩にぴしゃりと怒られている。漁火先輩が改善するのが先か風間先輩が諦めるのが先かという賭けをしている僕と咲くんが居たりもするけどそれはそれ。ちなみに僕は風間先輩が諦める方が早いとみていて、咲くんは漁火先輩が改善するのが早いとみている。

「話を戻すけど、佳苗と一緒のチームで活動していると、確かに守備面はあんまり上手くなった実感が持てないんだよね。ボクの場合は元々レシーブが苦手だっていうのもあったけど……、佳苗がフィールドにいる限り、油断してる部分はあるんだろうなあ」

「いや、郁也はそれを踏まえてもあんまりにもレシーブが苦手な部類だと思う。安心しなよ」

「風間先輩。それって慰めてくれてるんですよね? それとも貶してます?」

「え? ……あ。慰める意味しか無いつもりだった……ごめん」

「いえ、そこで謝られると却ってやりにくい……」

 妙な空気になりかけた、のを破壊したのは、シャワーから出てきた漁火先輩だった。

「いい湯、だ、」

「パンツ履いてこい」

「……最後まで鼻歌の一ついいじゃねえか。それにお前の股にも付いてんだろ」

 何を恥ずかしがるんだかね、と漁火先輩は風間先輩の突っ込みに全く堪えた様子も無くロッカーへ。

「それに銭湯とかだって一緒に行くだろ?」

「それは銭湯だからいいんだよ。ここは学校だ」

「けれど部室でシャワーだぞ」

「シャワーでも学校は学校だって」

「プールの授業のことを忘れてんぞ、なお」

「…………」

 そして論破されていた。

 けれど思春期って感じだ。気にし始めると気になるし、気にし始めるまでは気にならないし、気になった後も吹っ切れちゃえばどうでも良くなるみたいな。

 尚、口に出していないだけで、鷹丘くんとかが風間先輩派。別になんともない程度ではあるけれど、裸を見たり見られたりはあまり好ましくないそうだ。僕もそう思うけど、それ以上にここにいる仲間相手ならばどうでも良い。

(俺はあんまりよくないと思う)

 ならば視界を共有しなければ良いんじゃ無いかな。

(ぐうの音も出ねえ)

 洋輔が黙り込んだ丁度その頃、漁火先輩も言葉を続ける。

「まあ、良いんじゃねえの。何でもかんでも完璧なんてやつはそういない……攻撃型、攻撃に寄らせたセッターとして見るなら、郁也のスペックは十分だろ。そりゃ改善できるならした方が良いだろうけどな」

「そういうお前も改善しろよ、勉」

 土井先輩が目を細めて漁火先輩を咎めると、漁火先輩はお手上げのポーズを取った。尚、既に下着は身につけている。けど、また随分と派手な柄だな……。

「おれとて最低限は出来るように頑張るつもりだがね。このチームに居る限りはともかく、進学後も続けるとなればやっぱり必要になるだろーし」

「分かってるならいい」

「ふふん。地広とは別の学校に行ってもぼっこぼこに殴り勝ってやるぜ」

「じゃあ俺は勉を狙ってサーブ打つことにするよ」

「ごめんなさいチョーシのりました……」

 ……頑張るつもり、とは?

 そんな小芝居を挟んでいる間に、シャワー室から最後の一人、水原先輩が帰ってくる。パンツははいているけれどシャツは着ていなかった。

 にしても、水原先輩って線は細いのに、こうやってみると筋肉が凄い付いてるんだよな……。理想的なアスリート体型、みたいな。

「え、何? 渡来、用事?」

「いえ、すいません。筋肉付いてていいなあ、って」

「筋肉量なら勉のが多いよ」

「はっはっは褒め称えるが良い!」

「漁火先輩は僕と体型が離れすぎてるので参考にしてません」

「佳苗ー、先輩は悲しいぞー」

「いや実際問題、僕が漁火先輩くらいまで身長伸びる未来、想像できます?」

「…………」

「…………」

「…………」

 いや。

 一人くらいフォローを入れてくれてもいいんじゃないかな、ここは。

「こほん。全員着替えが済んだらちょっと待機な。コーチが来たら移動だ」

 結局そう風間先輩が仕切ったことで場が正常化、ゆっくりと着替えが始まってゆく。

「ところで佳苗。今週の土曜日、というか明日だけれど、先約はあるかな?」

 僕もさっさと学ラン着るか、とロッカーから取り出すと、スラックスに脚を通しながら郁也くんが聞いてきた。はて、先約。

「明日はお昼過ぎから、前多くんと一緒にお出かけ予定」

「前多と遊ぶのか。ならいいや」

「メインは将棋だよ」

「ああ」

 納得、と郁也くんはベルトを通し始める。その手つきには普段との違いが無いようだ。

 つまり割とダメ元の提案だったんだろう、けれど、何だろう。

「そういう郁也くんは用事、あったの?」

「用事が無いから誘ってみたんだよね。明日はあきちゃんも都合付かないし」

「ならオレとちょっと遊ぼうぜ、郁也」

 横から声を掛けたのは咲くん。

「咲から誘ってくるのは珍しいね。何かあったの?」

「例のアーティストのライブ、ブルーレイが届いてさ。一緒に見ようぜ」

「お、それは良いね」

「ウチで良いか? それともそっち行った方が良い?」

「たまにはボクが遊びに行くよ」

「オッケ。じゃあ時間とかは後で調整しよう。メッセージとか」

「うん」

 ふむ。

 郁也くんも五月頃と比べれば大分社交的になったもんだな、と感心しかけたけど、咲くんとは小学校からの付き合いだもんな……、元々か。

「遅くなった。ごめん……って、まだ着替え中か」

「もう少し掛かります。コーチ、すみません」

「いやいや。ゆっくりで良いよ。まさか下着姿で帰らせるわけにも行くまいし、ましてやこれからお店なんだから」

 さて、コーチが登場したところで今日のこの後について。

 バレー部は活動終了後、一定周期で喫茶店(パステル)を利用する事になった。

 当初はその条件が練習試合などを終えた後、と設定していたんだけど、練習試合がない週だって当然あり、ならばそういった週は最終日、つまり金曜日に、あらかじめ声を掛けておけばオッケー、という決まりになったのである。

 実質的に週一、というわけだ。

 更に言うと、喫茶店(パステル)には僕が運び込んだホワイトボードを二階に設置して貰っており、また喫茶店(パステル)が設備として持っていたシアター機能を使って作戦会議が出来るようになっていたり。

 ……なんでここまで喫茶店(パステル)が協力してくるのかというと、当然僕を捉えておきたいというのもありそうだけど、それ以上に商店街という環境がそうさせているらしい。

 本町会館や商店街が管理する体育館の利用権など、商店街は結構な投資をこのバレー部にしてくれている。本来はそこまでの投資に値しないはずなのに、突然ここまでやってくるのは、商店街として支援するという経験が殆ど無かったこと、そして最初に喫茶店が結構な額の寄付をしたせいでつり上がったんだろう、とは喫茶店(パステル)マスターの談。

 結果、商店街としてこれほどまでに大々的に支援するのだから、当然その発起人とも言える喫茶店(パステル)も大きく支援するよね? という同調圧力が働いているらしかった。大人の世界はできることならば理解できるようになりたくない世界だった。

「そうそう、渡来。この所やたらと忙しそうだけど、大丈夫か?」

「体力的だったり集中力的な問題ならばありません。ただ時間的な問題だけはどうしようもないですね……。練習試合はフルで出られるように調整してますけれど、すみません、コーチ。基礎練はいつも遅れてしまってます」

「いやあ。それは確かにあまり良くはないが、君が無理してるんじゃ無いかと不安でね」

「無理は無理だと先に言いますよ。自分で出来る範囲は、わきまえてるつもり、です。つもりなので、偶に読みっちゃうけども」

「良くはないけど、それもまたそれで良いんだよ。子供のうちから完全なんてものにはなるべきじゃない」

 ……うん?

 なんか妙なニュアンスだな。

「隣町……といえば、ギリギリ、隣町なのかね。ある街に、渡来ほどじゃないけれど、あるは渡来以上に目立つ奴が居るんだよ」

「目立つ奴?」

「ああ。入学してすぐに『全部の部活に所属』して、その『全部の部活』で圧倒的な成績を収めてる奴。もっとも、その学校には男子バレーボール部が無かったから、とくに接点も無かったんだけれど……」

「また無茶なことをする子も居るんですね……。二つ掛け持ちするだけでも結構大変なのに、全部って」

「だろう? もっともその子、小学生の頃から曰く付きだったんだけどな。小学校の仲間と一緒にサッカーで、ジュニアユースを打ち倒したり」

 …………、うん?

 なんか思わぬ方向に繋がったな。

 そんなエピソードがそうそうあるとは思えないし、ということは、あの子なのだろう。

「あの天才くんのことか」

「なんだ。知ってたのか?」

「別口ですけどね。珍しい苗字の子じゃないですか?」

 その通り、とコーチが言ったところで、校内放送。

 下校時間、簡単に言えば早く帰れという合図である。

「ほれ、そろそろ撤収しないとな。準備を巻いてくれ。美味しいサンドイッチが待ってるんだからね」

こぼれ話:

 彼らは出てきません。

 しかしこの地球にも居るようです。少し、様子は違うようですが。

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