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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 極点候補者と深刻な問題
34/111

32 - 騒動の後、表は殺陣で

 フォスターさん、ではないんだけど、本名も分からないのでとりあえずフォスターさんと呼ぶことにする彼は結局、保健室の先生が観た結果『寝てるだけ』、とはいえ起こそうとしても起きなかったので、そのまま救急車で運ばれていった。

 尚、現場に居合わせた事もあって校長先生が同伴。来賓客が倒れた、いや、寝ただけなんだけど、ともあれそういう自体に対応するのも校長先生のお仕事なのだ。

「それで緒方先生。僕達はどうすれば良いんですか?」

「ああ、うん……もう良いんじゃ無いかな。あの人も一体何がしたかったのやら」

「さあ……」

「とりあえず授業に戻りなさい。……ああ、でも警察を呼んでいたんだっけ。事情の説明をしておくべきだろうね、私も手伝おう」

「それには及びません。三好さんたち、来てませんから」

「はい?」

「それはハッタリです」

 あるいは口から出任せか。

 状況として本当に呼んでも良いんじゃ無いかって話にはなってたんだけど、どうせ僕達が呼び出せば十分そこらで駆けつけられるような場所で地道に作業をしているという嫌な信頼もあったしね。

「君たちは、何というか。あの人を騙したんだね」

「あの人だって僕達を騙そうとしていましたから。大人に対する不審を抱いたこの時期の子供は厄介ですよ?」

「全く以てその通りだね」

「授業、戻る。良い?」

 と、僕達が雑談モードに入ったのを見て冬華が提案。

 緒方先生はあっさり頷き、その場はお開きとなった。

 僕と洋輔、冬華は三人揃って廊下を歩く仲、渡鶴で聞いていたことについて冬華がぽつりと呟いた。

『心当たりは無いわね。この世界の地下組織について知識があまりにも無い』

『それもそうか』

『けれど、私たちと全く関わりのない者がああも大胆に工作をしてくるとも考えにくいのよね。この国の上層部に圧力を掛けられる程度の力は実際に持っているわけで、それは多いにヒントになるんじゃないかしら?』

 …………。

 それは、たしかに。

『別人ではあるが同じ組織、つまりCIAだかどこかの、より専門的な技術を持つ奴をルイス・フォスターとして派遣してきた。もしくはルイス・フォスターが今回の細工をした上で俺たちと接触する事を知った別の誰かが、ルイス・フォスターに成り代わった。後者の場合は組織が変わってる可能性もあるな』

『現状では僕達がどうこうできる検証も無さそうだしね……。調べようと思えば手はありそうだけど、目立つ。幸い、あっちはカメラと集音機を持ち出してた。僕達と会談している間に突如実行者が眠ったという点で、当然毒や薬品を疑うだろうし、そこで何も検出されなかったとしても僕たちを怪しんでリアクションを起こすはず……、起こさずに手を引くようならばそのまま放置かな?』

『そうね。それで良いと思うわ。付け加えるならば、想定外が起きた時の対処だけれど。渡鶴で知らせれば良いのよね?』

『うん。僕達もそうする』

『じゃ、そういう事で』

 話題が一段落したところで一年生のフロアに戻ってきた。

 授業中なのでかなり静かなんだよね。

 僕と洋輔は廊下で冬華と別れ、そのまま三組の教室へと戻る。

「戻りました。詳しいことは緒方先生に聞いて下さい」

「そうか。わかった」

 というわけで、普通に授業再開。

 クラスメイト達の大半は我関せず、まあ救急車の音も聞こえてただろうからな。未だ何が起きたのかまでは分かって無くても、また厄介事がおきたくらいは理解してるんだろう。けれどやっぱり好奇心を抑えられない子、たとえば葵くんとかも居たりはして、休み時間にそれとなく聞かれたのでそれとなく誤魔化しておいた。少なくとも緒方先生のスタンスが知りたいし、学校としての対応が決まるまで僕達も不用意に広めることが出来ないわけだ。

 で、帰りのホームルームにおいて、その学校としての対応やスタンスがようやく、緒方先生から発表された。

「今日はまあ、色々とあったんだが。来賓客が突然眠ってしまううっかりさんでね、病院に運んだのだが、特に異常はなかったそうだ。念のため検査入院をするらしいけれど、危険な伝染病の疑いは否定されたようだよ。安心して欲しい。それと渡来くんと鶴来くん、クラスは違うが来栖さんはその場に立ち会わせていたからね、平気にしか見えないが、ショックを受けているかも知れない。まあ私もその場に居て、まるで授業を受けている途中にそのまま夢の中に迷い込む生徒のような感じで寝ていたから……心配は要らないと思うけど、生徒各人はあまり言いふらさないように。客人の名誉にも関わりかねない」

 要するに客人の名誉を盾に無かったことにする、と言う事らしい。

 相手側もそれで当面は満足すると判断したのか、あるいは僕達が思っていた以上に『外部の大人』を信用していない事を教師陣が感じ取って、これ以上厄介事になるくらいならば内々に処理をしようとしたのか。両方か。

 どのみちこれで、当面はリアクション待ち。

 なので、普通の学校生活に戻る事になる。

 といっても今日はこの後の放課後が既に普通では無いのだけれど。

 ホームルームが終わった後だった。

「洋輔に昌くんと蓬原くん、梁田くんに湯迫くん、上木くん。話は聞いてると思うけど、この後体育館で。僕は先輩と合流してから行くことになるよ」

「わかった」

「ん? なんかやるの?」

「演劇部の打ち合わせなんだよね。前多くんも興味ある?」

「無いって言えば嘘になるけど、打ち合わせには興味ないかなー。涼太、信吾、行こう行こう」

 という感じであっさりと葵くんは去って行った。これまでの傾向からどこで何をするのかは概ねわかるけど何も言うまい。バレなきゃ良いのだ。

 そんなわけで、第一印象レビュー。

 演劇部側の貸し切りで体育館を使うそれに参加するのは以下の通り。

 文化部より、吹奏楽部、軽音部、工作部、裁縫部、写真部、書道部。

 運動部より、剣道部、柔道部。

 委員会より、放送委員会。

 但し、放送委員会で今回主に手伝って貰うのは現二年生でかつやることはあまり変わらないので一年生の出席は無し、他の部からも特に作業量の多い部活は現一年生が出席するけど、たとえば写真部や書道部の子達には声が掛かっていないようだった。

 ちなみに洋輔は演劇部の助っ人枠に既に加盟している。

(いや加盟した覚えが無いんだが)

 僕が書いておいた。

(はい?)

 ちゃんと洋輔の筆跡で。

(おい)

 というか今更でしょ。これまでも散々手伝ってるんだから。

 本来は演劇部の部室に入れるのは一部の生徒だけなのだ、そこに洋輔を入れる以上、その一部の生徒としての用件を満たさせる必要もあったし……それに、洋輔に今日お願いする、竪川先輩との接触には結局必要な事である。

(……まあ、いいか)

 今夜にでもお礼はするからね。

(ん)

 というわけでホームルームが終わったら、すぐに演劇部の部室へと直行。

 お昼休みとかに大きな荷物は体育館に移動済み、ここでするのは着替えである。

「かーくん、ローブあるっすか?」

「そこの茶色い紙袋の中に」

「らじゃっす」

「ウィッグの固定は現地でやるべきかしら」

「そうですね、やっぱり目立ちますし」

 祭先輩とナタリア先輩、そして僕がそれぞれの衣装に着替えつつ、その格好で校内をうろつくのは遠慮して欲しいという教頭先生からの依頼もあってローブで全身を覆い隠す形に。これはこれで怪しいんだけど、教頭先生曰く『ギリギリセーフ』らしい。あの人の規準もよく分からないんだよな正直。世渡り上手……?

 まあいいや。

「体育館に行く前に最終チェックっす。ペーパーは準備済み、プレゼン用のパワポもセッティング済み。この辺はおれがやるっすね。で、実際に軽くシーンの再生をするっすけど、『女武者』としてのナタリアは城内のシーンを再生。かーくんは殺陣のイメージとして実際に例の刀を振って欲しいんすけど……、相手方が必要なんすよね。剣道部との折り合いは付いてるっすか?」

「昌くん……えっと、今の剣道部の部長です。昌くんとはクラスも同じで、最初の班が一緒だったのもあって、泊まりに行くくらいには仲が良いんですよね。その流れで少し剣術を見せたり、見たりはしてますけど、それを踏まえても昌くんにはまだ厳しいかと。真剣勝負の一本勝負ならば僕が手加減すればどうとでもいけますが、殺陣とは違うので」

「さりげなくあなた、剣道部の部長よりも強いって言ってない?」

「剣道では勝てないと思いますけど、剣術なら勝てるとは思います」

「かーくんらしい言い草っすねえ。けれどどうするか……、」

 殺陣。殺陣かあ。

 できるとしたら洋輔と冬華……だけれど。

 冬華をここで使うのは流石に悪目立ちしすぎで無理。となると洋輔か。

「現場についてから考えましょう。洋輔と昌くんの二人と僕が相対する形とか、いくらか可能性はありますし」

「わかったっす。じゃあその方向で」

 後は最終持ち出し品の確認。

 ウィッグ類と刀とか、そのあたり……よし、問題なし。

 ローブ姿の三人が移動する様はどう考えても学校では異形なんだけど、時々すれ違う生徒も先生も『ああ演劇部か』という顔をしている当たり、この学校は微妙に防犯意識が薄そうだった。

 というわけで体育館に到着、但し裏口から舞台袖への直通路を使用。そのままお昼休みに設置しておいた簡易の間仕切りブースでローブを外し終え、ウィッグ類の装着、問題なしと。

「よし。それじゃあはじめるっすね」

「はい」

「ええ」

 祭部長が体育館内部向けの放送用機材を操作。

『まずは集まって貰ったことについて、ありがとうございます。本日の予定をまずは説明するっすから、正面スクリーンを見て欲しいっすね』

 といったところで段取り通り緒方先生が登場、祭部長が準備しておいたペーパー類を渡すとそのまま、緒方先生は舞台に向かい、そこから降りて配りに行った。

 概ね配り終えたと判断したところで、準備していたパワーポイントのプレゼン資料で今回行う劇の概要が伝えられる。

 ジャンルとしては時代劇であること。

 物語の簡単なあらすじ、ただしまだ脚本は完成していないこと。

 主役はナタリア先輩が務め、もう一人の主役として動く小姓は僕がやること。

 その他の雑多な役は概ね祭部長が回すけれど、所々で部に協力して貰う子にやって貰いたいこと。

 時代劇お約束とも言える殺陣のシーンがあり、これは剣道部を主体に手伝って貰うこと……。

『今回も衣装の大半は演劇部内である程度作れる形っす。けれど、裁縫部側にもフォローはお願いしたい。それとセット類や装備類についてもある程度は演劇部としてやれるっすが、やはり工作部側からも手伝いをお願いしたい。劇伴、音声系統はいつもながらで悪いっすけど、フィーリングで軽音部、吹奏楽部に頼むことになります』

 そこで一度言葉を句切り。

『では、本日のメインイベント。ファーストインプレッションレビューの三幕を確かめて貰うっすね』

 そう言ってまずは舞台に飛び出るのがナタリア先輩。

 既に女武者としてある程度の力を手に入れた程度の頃合い、服装はきちっとした武者姿。ただ、その長く黒い艶やかな髪は凛としていて、腰に差した二振りの刀の内の一本を『カチャッ』と取り出し、すっと構え下段に構えを取る。その後は刀を軽く振って、まるで釣り竿のように肩に寄り添わせると反対側の舞台袖へと去って行く。

 次に祭部長が出て行った。祭部長は武者姿ではなく、若い殿様の、けれど不思議と威厳を感じる姿である。ゆっくりとただ歩く。それだけなのに、その振る舞いからは奇妙な程に慣れを感じた。僕が知らないところで練習してたんだろう。祭部長は反対側の舞台袖に手を伸ばすと、刀を仕舞った状態のナタリア先輩がそれに応じて出てくると、二人で話す振りをしながらこちらへと戻ってくる。

 最後に僕。小姓としての姿なので、二人の先輩と比べれば明確に見た目の年齢は幼い。元々背も高くなかったし、変に細工をしなくても特に問題が無かったのは喜ぶべきなのかどうなのか……。

 舞台の真ん中に立って、舞台下を眺める。結構な人数が僕に注目していて、それはちょっと不思議な気分だ。

「洋輔。それと昌くん。少し手伝って欲しいことがある。来てくれる?」

「ん?」

「うん?」

 洋輔は僕と精神を共有していた以上仕込みだけれど、昌くんについては全くの仕込み無し。

 ステージに上がった二人に打ち刀サイズの刀を一振りずつ渡して、と。

「殺陣のデモンストレーション。練習もなしでは出来るとも思えないから、昌くん、剣術のほうで少しお願いして良いかな。洋輔も昌くんにあわせて動いて」

「えっと……、この刀は? 大丈夫なの?」

「うん。刃はプラスチック、それに見た目じゃ分からないかも知れないけれど、この衣装は衝撃吸収ある程度できるから」

 ちなみにその衝撃吸収がどの程度かというとライフル狙撃を受けても痣すら残らない程度である。

(とんでもねえ防御力じゃねえか)

 だって僕はともかく他の子は手加減する余裕も無いだろうし。

「設定は……そうだね、一対二、そっち側から斬りかかられたのに僕が反応して、あとは流れ。良い?」

「無茶を言うよね、佳苗は。……まあ、佳苗の剣術は前に見てるから、大丈夫か。鶴来は大丈夫なの?」

「僕や昌くんには及ばないけど、そこそこ出来るよ」

「佳苗が言うなら平気だね」

 そんな打ち合わせとも言えない打ち合わせをその場で行い、すっと舞台の上で対峙する。

 昌くんと洋輔は学ランだけ脱いで少し動きやすくして、刀をそれぞれ構えている――僕も刀を抜いて構えを取る。

「さん、にい、いち――」

 はじめ。

 すっと昌くんが姿勢を低くとり、懐へと飛び込んでくる。そしてそんな昌くんの動きに見事に合わせ、洋輔は洋輔できちんとそのすぐ背後から切りつけるような動作を取っている。

 やっぱり殺陣とはほど遠いな。一本勝負って形になってしまう。

 そんな事を思いつつ、構えていた刀を迷わず洋輔に投げつけ洋輔の動きを制限、もう一本の脇差しで昌くんからの攻撃をいなしてそのまま足払いを試みるも、昌くんはそれを避ける前方宙返りからのかかと落としという派手な技を掛けてきた。剣術や殺陣とはほど遠いけど脅威は脅威なので鞘で受けると既に姿勢を戻した洋輔が横から攻撃してきたので、洋輔が持っている刀を脇差しで絡め取り、分が悪いとみたのか距離を取った昌くんと洋輔と改まって対峙。

「やっぱり殺陣にはならないね。練習、それなりにやらないと……」

「そうだね……。一本くらいは入ると思ったんだけど」

 昌くんが珍しくやんちゃなことを口走った。

 ともあれ、これで僕のデモンストレーションもおしまい。

 祭部長とナタリア先輩がステージに出てきたので、洋輔と昌くんには席に戻って貰い、改めてレビューを続行した。


 この日を境に、演劇部が『剣術部』と時々よばれるようになったのは、また別のお話。

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