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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 極点候補者と深刻な問題
33/111

31 - 動き出したのはだあれ

 1月25日――いろいろな意味でイベントが予告されていたこの日、朝のホームルーム中に緒方先生が事情を説明し、先方の事情と警察の協力要請で僕と洋輔、クラスは違うけど冬華も午前中に授業から離れる時間があることなどが告げられた。それを受けたクラスの皆の反応は様々だったけど、概ね『面倒ごとに巻き込まれてかわいそう』といった色が強く、『公認サボりが羨ましい』という子が一人もいないあたり皆良い子だった。

 そんなわけで、二時間目の授業が始まる前、校内放送がされたのを切欠に洋輔と一緒に教室を出ると、冬華もそこに居た。

「んじゃ、行こうか」

「校長室だったな」

 冬華は頷くだけではあったけど、特に異存もないようだったのでいざ校長室へ。

 好奇の視線もちらちらと向けられはしたけれど、到着。校長室の前には緒方先生がスタンバイしていた。

「早かったね。それじゃあ、準備は良いかな?」

 緒方先生の問いに三人揃って頷くとあらかじめ段取りを決めていたようで、緒方先生は校長室のドアを三回ノックして入室。

 僕達を招き入れ、間仕切りの先に居たのは金髪の男性だった。

 年齢は恐らく、三十代の半ば……だろうか?

 人数は一人。眼鏡を掛けているという意味では親近感……、を、抱くけれど。

 洋輔には精神領域、冬華には渡鶴を介して警告。

 『色別:虹』による確認は黄色。赤、つまり絶対的な敵対では無いけれど、中立よりかはそこそこ敵対、もしくは害意を持っている。尚、特に関係が無い人ならばこの色別でも緑になるという補足も付けておく。

 その上で、この男性が掛けている眼鏡や付けているネクタイピン、バッヂなどの品質値がおかしい。眼鏡のフレームに複数の品質値が表示されているということは、カメラ機能が付いている可能性が高い。ネクタイピンはマイクかな? つまり盗撮盗聴を試みている。バッヂの機能まではわかんないな。

(一目でそこまで看破されるとは奴さんも考えてないだろうな)

 まあね。

 ともあれこれでソフィア案件という可能性は薄れたかな。

(言えてるな)

 そんな一瞬の判断をしつつも、男性が挨拶をしてきたのでそれにあわせて挨拶を行い、勧められるままに応接セットの向かい側の席へと座る。尚、同席するのは緒方先生と校長先生で、校長先生は自席、緒方先生は起立して僕達の斜め後ろに待機する形になった。

「改めまして、自己紹介を。ルイス・フォスター、米AIパブリケーション社の社長です。今回は急な会談に応じていただき、感謝を」

 AIパブリケーション社……聞き覚えは無し。

 それに日本語は流暢だった。冬華もいずれはこのレベルになるのだろう……余談だな。

「三人を代表して、僕からまず、質問をしたいのですが」

「渡来くん。自己紹介をするのが先じゃないかい?」

「校長先生。それは分かっていますが、質問が先です。それ次第では自己紹介の仕方が変わるかも知れませんから、譲りません」

「そうは言うが……、」

「構いませんよ、校長先生。質問とは何かな?」

「ありがとうございます、フォスターさん」

 理想の再生による自然な笑みで僕は答え、そして聞く。

 僕と洋輔と冬華三人で共通の疑問として。

「僕達はあなたをアメリカにある会社の事業家さんとして会話するべきですか。それとも、CIAかFBIだかは知りませんが、米当局の人物として?」

 僕の問いにフォスターさんの視線が一瞬、校長先生と緒方先生に飛び、しかしすぐに僕たちへと戻された。それは明確に『何故そのことを知っている』という確認で、恐らくは校長先生と緒方先生のどちらか、あるいは両方が僕達に喋ったのではないかという疑いか。

 けれどすぐに、それこそ瞬間的に視線が戻ってきたのも状況を示すヒントだよな。

「中学校しか視察していない謎の海外事業者。なのに正当な手続きを踏んで学校の見学が許可されている。学校には上からの圧力があり、僕達との面会が既定路線化していた。一つ一つの不自然さでは断定できなくても、全部が一つの導線に依るならば単純に考えれば良い。中学校しか視察しなかったのは僕たちとの会談をゴールに設定した布石で、正当な手続きを取ったのはもっともらしい適切な理由を付けるため。けれどその手続きにも自主的に便宜を図るような圧力を掛けていて、特に僕達との面会に関してはそれを目的としていた以上、絶対に出来るようにより明確な形で圧力を掛けた……、いささか素直すぎる解釈だと思いますけど、その全部を日本の各省庁に押し通せるのはアメリカくらいでしょう。だからCIAだかFBIだかは知りませんが、米当局だと踏みました。この見当が丸外れであるならば謝罪しますし、その上でできる限り丁寧な対応をさせていただきますけど、僕達が役立てるとも思えませんし、僕達だって学生で、学ぶことが本分なんです。アメリカやドイツではどうかはしりませんが、日本において来客対応のための授業免除なんて本来はありません。ましてや事件に関係する僕達三人を指名している以上、学校ではまた騒ぎになるでしょう。あなたにその意図が無かったとしても、また何かがあったんじゃないかと騒ぎ立てるのが子供です……大人だってそうでしょうけどね。そういう事象を想定できなかったとも思えませんし、相応の理由は有ると思うのですが、その理由は教えていただきたいところです」

 あえてまくし立てる。

 所々言葉を句切るようにして、相手の発言を誘い、それに被せてこちらが更に続けることで相手に発言をさせない。

 交渉術というにはあまりにも喧嘩腰、敵対のような言動に他ならず、緒方先生も絶句している。

 けれど僕達の立場は子供だった。

 生意気な子供は疑り深く、『ああ言えばこう言う』の方向性も一般的で、怒られることはあってもそれだけだ。

 それ以上先を詮索しようにも、『この年頃の子供は大概こう』なのだから、詮索の方向性が揺らぐだろう。

「それと、当局の関係者さんならば、先生の同伴は前提でお願いしますけれど……、その上で、もう二人ほど呼びたい人が居ます。昨日の夜に事情は話したので、実は今朝から学校の側で待機して貰っています。連絡をすれば五分と経たずに来てくれるでしょう」

「……その人というのは、だれかな、渡来くん」

 問いかけてきたのは緒方先生だった。

 そんな緒方先生に振り返って答えたのは洋輔――僕はあくまでも目の前の人を、フォスターさんを観察し続ける。

「三好さんと田崎さん。どちらも日本の警察に所属する俺たちの事件への担当者ですよ。先生は覚えてると思いますけどね」

「何故……」

「何故って。そんなの決まってるじゃないですか。俺たちはそろいもそろって失踪中の記憶が無いんですよ。何処の誰が俺たちを何処に攫ったのかさえ覚えていない。あるいはその犯人が同一で、しかも組織である可能性があります。フォスターさんが属する組織がそうじゃないという証拠も無いし、日本の警察がそうじゃないという証拠も無い以上、二つの捜査組織を相席させることでお互に牽制し合って貰いたいわけです。もちろん、ただの事業家さんだったならば、とても失礼な事を言ってるわけですけど……、それでも、俺たちを呼び出した手前、俺たちが警戒することは理解して貰えるでしょう? 何も知らずに偶然で呼び出せる三人じゃ無いんですから」

 洋輔の言葉を受けてフォスターさんは感心四割、得心二割、警戒二割、焦燥一割、そして最後の一割に極めて複雑な感情を抱いている。

 結局、フォスターさんはスーツの内ポケットから身分証を取り出し、机の上に置くことで答えとした。

 Central Intelligence Agency。ICチップが埋め込まれているような形跡がある。本物かな?

 造りそのものは本物っぽいけど、品質値はそこまで高いわけでも無い。けれど所詮は身分証なのだ、品質値はこんなもので適正といえば適正……なのかな。

(にしてもCIAか)

 らしいね。

 CIAはどっちかと言えば諜報のほうだ、こっちの線は薄いかとも思ったのだけど……。かならずしも諜報しかやらないというわけでも無いだろう。

 あるいはこれも諜報の一環、いわゆるヒューミントというやつかもしれない。

(ヒューミント? チョコミント的な?)

 …………。

 洋輔なら知ってるかもしれないと思ったんだけど、どうやらそうではないらしかった。

 人間を相手にして情報収集すること、みたいに考えれば良いよ。物理的に情報を集める諜報活動じゃ無くて聞き込みとか拷問とかで聞き出すタイプの諜報活動。

(聞き込みと同列に語られる拷問って言うのもどうなんだろうな)

 全くだね。

「君たちが安心するためならば、警察の……ええと、ミスター三好、ミスター田崎を呼んでも構わないよ」

「やっぱり知ってたんですか、その二人を」

「いいや?」

「本当に? 僕達はその二人を男性とは言ってませんけど……」

「日本の警察はその大半が男性さ」

 もっともらしいことを言ってるけれど、真偽判定でダウト。知り合いとは思えないから、一方的に調べたのかな。

 ちなみに動作型の真偽判定を利用する僕にとっては問いかける必要もなかったけど、洋輔や冬華の真偽判定の補助にもなるし、僕という人物の第一印象をブレさせる意味合いもある。

 誤認してくれるような相手でもなさそうだけど……ね。

「けれどその二人を呼ぶ前に、この写真を見て欲しい」

 と。

 フォスターさんが取り出したのは、普通のサイズの写真だった。

 そこには僕と洋輔が写っている……買い物帰りの商店街近くって所の写真で、特に僕の両手には大量の荷物が握られていて、写真の端にはギリギリ商店街が映り込んでいる。そのおかげで時期は明白――年末だ。

 というか、その荷物は猫グッズ……、年末年始のあの爆買いした日の写真だった。地球時間では恐ろしく短い、けれど確かにあった『二度目の失踪』の……、直後かな。

 やっぱりあの瞬間を見られていたわけだ。

 そして写真を撮られたと。

「心当たりはあるかな?」

「年末ですね。猫グッズ専門店でたくさん買ったんです。滅茶苦茶可愛いんですよ、鶏柄の猫とか、猿と鶏に抱っこされてる猫とか。フォスターさんは猫が好きですか?」

「え? ……えっと、まあまあ?」

「もっと積極的に猫を好きになってほしいものですけど……まあいいや。それで、その写真がどうかしましたか? 洋輔はともかく僕は『ああ、盗撮されてたんだなあ』って感想しか無いんですけど。ストーカー?」

「……いや」

 フォスターさんは反応に困っている。

 これなら今回は押し切れるな。けれど今回限り、次回からは対策されてもおかしくは無い。それにどうも、今日は『僕達のスタンスを確かめに来た』……って感じだ。もう目標は達成しているから押し切りやすいだけ。そう考えた方が良い。

 と言ったところで、渡鶴を介して冬華から提案。この人を利用して僕達との接触を自然にできないか、たとえばこの人に協力する形で学校の外に席を設けて貰い、そこで定期的に交流するとか。出来たら理想だけど、喫茶店(パステル)とCIAって混ぜるな危険ってやつだよね、多分。

(まあ……陣営的に逆だしな。もっとも、この人がどの程度喫茶店の本質を知ってるか、にも寄るな)

 あの写真を見せてきたくらいだ、もう僕達が入り浸りなのは知ってるだろう。つまり僕達が喫茶店(パステル)に所属しているとまでは考えなくとも、なんらかの協力関係にあるとは見ている。冬華は滅多に寄りつかないから……、断定はされていないはず。けれど、かなり怪しまれてはいる……そう考えておいた方が良い。

「渡来くん。あまりお客様を困らせてはいけないよ」

「そうは言いますけど……、緒方先生。身分を隠して、隠蔽工作までして、盗撮した写真を見せてくる相手に親切にできるような人間、そうそう居ないんじゃ無いですか? 少なくとも僕には無理です」

「まあ……そこは、ね。けれど大人には大人の事情があるのだろう」

「大人の事情があるなら子供の事情もありますよ。僕達の事件を調べてくれているならばそれは嬉しいことですけれど、ならば最初からそう言えば良い。僕達の事件を調べている、だからそれに協力して欲しいって、親を通して言ってくれるのがシンプルで、安全でしょう。こんな形で動かれてるって事は、何かやましいことがあるんじゃないんですか。実はCIAというのも嘘でFBIだとか、あるいはFBIですらなく別の諜報組織だとか」

 ……CIAと言うのも嘘、という部分に真偽判定で反応あり?

 いや、嘘ではないみたいだけど。そこには隠された奥がある。

「身分証なんて僕達は本物を知りませんから、それが本物かどうかも分からない。先生だってそうでしょう。結局、現状では僕にはフォスターさんを信じる要素よりも、怪しむ要素のほうが多いんです。……まあ、でも」

 お茶を濁しつつ渡鶴を使って冬華にも判定を試みて貰うことに、と思ったら即答され、もうやっているとの事だった。冬華も何らかの違和感を覚えている……。

(佳苗。頼む)

 うん。何を言えば良い?

(『ルイス・フォスターさん、あなたはその写真を見せるために来たんですか』だ)

 オッケー。

「ルイス・フォスターさん。あなたはその写真を見せるために来たんですか。だとしたら、嫌な趣味ですけど、何か更に目的がありますよね。それを教えてくれるなら……、盗撮は、見なかったことにしますけど」

 と。引っかけを行いつつ発言する。

 僕の問いかけに対して、洋輔が真偽判定を実施。

「ああ、いいとも。……ミスター三好と、ミスター田崎を呼ばなくて良いのかい?」

「呼ばない方が良いならば、そうしてもいいですよ。ちゃんと目的を教えてくれるならば」

「そうか。……一貫性があるような、無いような。子供らしい考えと言えばらしい。いや、すまないね。妙な真似をした。確かに正面から、しっかりお願いをするべきだった。私の落ち度だ」

 フォスターさんは真剣な表情で言って頭を下げる。

 そして、洋輔は。

(オッケ。判定完了だ。ルイス・フォスターとしては嘘が無い。けれどこいつは『ルイス・フォスターじゃない』。別人だ)

 ……前提が違ったって事か。

 冬華にも洋輔の判定結果を渡鶴でシェアすると、冬華はそういう事か、今後の対応はどうするの、と問いかけてくる。

「顔を上げてください。僕たちも悪目立ちするのが嫌だったんです。……けど、さすがに言い過ぎでした。目上の方に失礼だったとも思います。ごめんなさい」

「いや。構わないさ。友好の証に、握手でもしようじゃ無いか」

 コレを使うか。

 僕がそう考えると同時に、冬華も渡鶴を介して、洋輔も(これだな)と意見が一致。

「はい」

 握手に応じつつ、錬金術。

 冬華の制服のポケットに入っていたものをマテリアルとして認識、ふぁん、という効果音は冬華が掻き消した。どうやらコーティングハル……、と、別の道具も使ってるな。後で聞こうっと。

 ともあれ、完成品は掌の中に塗布する形で発生させつつ、そのまま握手。

 これで『自称』ルイス・フォスターさんの掌を介して薬品投与、ちなみにこの使い方をする場合、僕自身にもこの薬品は効果を顕してしまうのだけど、僕の視界には『渦』が見えている。洋輔が僕に対して解毒の魔法を使ってくれているわけだ。

(ちなみにその薬品の効果は?)

 神経系に働きかけるタイプの睡眠薬。

 効果が極めて素早く出る事が特徴の一つだけど、それ以上に『対象が眠った時点で己を無毒化し、薬品そのものが自分を消し去る』という便利な性質付き。

(完全犯罪お手軽セットか……)

 うん。でも簡単に使っちゃダメだよ?

 握手を終えて数秒もすると、彼はぱちぱちと瞬きをはじめる。

「フォスターさん? 大丈夫ですか?」

「いや、……ああ、このところ少し疲れが溜まっていたからかな」

「そんな相手に僕は酷い事を言ってたのか……。ごめんなさい」

「それは構わない……」

 構わない、と。

 もう一度繰り返して、彼はそのままソファで静かに寝息を立て始めた。

 当然何が起きたのかを察している冬華や洋輔は僕と一緒に『驚いたフリ』を、そして何が起きたのかまるで理解できていない校長先生と緒方先生は困惑を強く浮かべて居る。

「え、えっと……、何が起きたんだい?」

「俺たちが知りたいことなんですけど、それ。何か急に寝てる……」

「ナルコレプシー」

 冬華は目を細めて言った。

「いや違うと思う」

「例。整合、可能性ある」

 妙な語彙が増えてるな……。

「えっと、この場合、僕達はどうすれば良いんですかね?」

「……校長先生。私は少し保健室に行って事情を説明してきますから、この場を任せます。いいでしょうか?」

「あ、ああ。緒方先生、頼んだよ」

「はい。渡来くん、鶴来くん。それに来栖さん。悪いけれどもう少し、待っていてくれ給え」

 話の早い大人は好きだ。

 はい、と三人で声を合わせて答えつつ、校長先生に洋輔が話しかけた隙を縫って渡鶴を介し、屋根裏倉庫に錬金複写術で自称ルイス・フォスターさんの衣服や持ち物をそっくりそのままふっとしておいて、帰ったら検証しよう。

 尚、屋根裏倉庫は前回のバージョンアップで完全に電波を通さない上完全防音状態にしてあるので、発信器の類いがあっても何ら問題ない。まあもっとも、複写術が完全じゃ無い以上、その当たりの細かい機材まで複写できてるかどうかがそもそも疑問なんだけど。

(しかし何者だろうな、こいつ)

 本当にね。冬華には心当たりあるかな?

 渡鶴使って聞いておこう。

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