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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 極点候補者と深刻な問題
30/111

28 - ロマンの対価

 夕方になった頃、昌くんと晶くんを伴い必要な材料の買い出しを行い帰ってきて、丁度いい時間になったところで今度は昌くんの家のキッチンへ。

 一応火を使うと言うことで大人が付いているべきだ、なんてこともあって、日さんが観察している中で始めるのが、以前晶くんがリクエストした品物の作成である。

 つまりチーズイン煮込みハンバーググラタンドリアだ。

 何度考えてもちょっと贅沢に過ぎるんだけど、まあいいだろう。

 ハンバーグ用のお肉は合い挽き肉にした。味のバランスの問題だ。きっちりこねてあげる。

 ハンバーグの適量はあらかじめ聞いておいた分でそれぞれ種を準備していき、次にそのハンバーグの内側に仕込むチーズを適量に分けて軽く下処理をした上で種としてのお肉の上に乗せたら軽く押し込んで、その後は丁寧に包み込む。

 その後は一度フライパンで軽く焼き目を付けつつある程度火を通しておく。最終的には煮込むとはいえ、煮込み時間が長いとチーズが漏れる恐れもあるしね。

 そんでもって今度はグラタンドリアなんだけど、これは買い出し中に晶くんのイメージを聞いたこともあってそこまで難しい物ではなかった。器の半分にご飯、半分にマカロニという感じを所望していたのだ。

 ホワイトソースは既製品を使おうかと考えてたんだけど、煮込みハンバーグを使う以上デミグラスソースも使うわけで、既製品を使うと味が極端になる恐れがあるし、大人しく作成。ついでにデミグラスソースもここで作っておき、にんじんなどの一緒に煮込む野菜類も先に切って、とかしていたら煮込み用のスープも出来たので、そこに野菜類を投入。

 炊き上がったご飯とゆであがったマカロニをそれぞれ器に半分ずつ入れたところで野菜はそろそろ良いかな、野菜の一部を取り出して軽く水気を取ってからデミグラスソースに投入。さらにハンバーグも同じくデミグラスソースに投入、追い打ちを掛ける。

 余っている煮込み用のスープはそのままスープとして飲めるように味を調えておくことを忘れずに。味見をするとちょっと薄いかな? 修正して、とかしている間に煮込みも終わる。

 ご飯とマカロニの上にホワイトソース、の上に軽く切れ目を入れたラザニアを一枚敷く。その上に煮込みハンバーグをそれぞれ一つずつきちんと配置し、次に野菜も同じ数だけ盛り付け。盛り付けが終われば適量のデミグラスソースを更にその上から掛けて、最後に溶けやすいチーズを少し多めに振りかけ、パン粉も散らしてオーブンへ。

 焼き上がりを待つ必要があるから、空いた時間にスープの仕上げ、スープにはウィンナーなどを入れることも考えたけど、流石にボリューミーに過ぎるかとやめておくことに。次に風味付けにもなるパセリを少量準備、ついでにデザートも行こうかな? さすがに欲張りすぎになりそうだ。やめておこう。

 オーブンのタイマーが鳴ったので取り出して、トレイに乗せる。見た目は思ったよりも単色的だ。もうちょっと色を入れた方が良かったかな? ブロッコリーとか。

 尚、品質値は8922。うーむ。キラ・リキッド使って強引に一万くらいまで上げても良いけど、まあ、十分か。これでも一級を超えているわけだし。

「というわけで完成だよ、チーズイン煮込みハンバーググラタンドリア。スープはあっさりコンソメ系だから胃もたれもしない、はず」

「おー!」

「複数の作業をさも当然のように同時にこなしてるあたりが実に佳苗らしい……結構無茶振りだと思ったんだけど、本当に作れるんだね」

「ね。僕もびっくり」

「いや作ったのは渡来さんだよ?」

「あはは」

 そりゃそうなんだけど。

「さて、食事をする場所まで運ぶのは任せても良いかな」

「もちろん! うまそー。早く食べよ!」

「そうだね」

 晶くんは既に満足げ、昌くんもそんな晶くんをみてご機嫌という感じだ。

 一方で僅かに困惑の色を、そしてそれ以上に不思議、という色を浮かべて居るのが日お姉さん。

「渡来くんは料理をどこかで習ったのかしらあ?」

「いいえ。料理番組とかはたまに見たけど……」

「そう……、良いお嫁さんになれそうねえ」

 男子中学生にとってそれが褒め言葉なのかどうか非常に悩ましい所だった。

 せめて良いシェフとかそのあたりにして貰えれば素直に喜べるんだけど……。

「姉さん。佳苗をからかう暇があるならば運ぶのを手伝ってよ。スープとか」

「分かってるわあ」

 肩をすくめてスープを入れた器を運び始める日お姉さん、そしてそれにため息を吐く昌くん。どうやら普段からこんな感じらしい。

「けれど、朋さんの分は本当によかったの? 一応材料は残ってるんだけど……」

「うん。今日は帰りが遅いみたいだし……、たぶん爺ちゃんとお酒でも飲んでくるんじゃ無いかな」

 ふうむ。そんなものか。

「にーちゃん、早くー。食べるよ!」

「はいはい。それじゃあ佳苗」

「うん」

 キッチンからダイニングへと移動。

 席に着いているのは上座から順に、日お姉さん、僕、昌くん、晶くん、そしてゆーととなっている。

 ゆーとは席に着いているというか、たまたまそこでごろごろしているという感じだけど。ちょっと眠そうだ。

「それじゃあ冷めないうちに、いただきます」

「いただきまーす」

 いただきます、と皆の声が重なるタイミングでふ、と少し小細工はしたけれど、そのまま何事も無かったかのようにスプーンでハンバーグに切り込みを入れると、じゅわりと肉汁、追ってとろりとチーズがあふれ出し、デミグラスソースと絡み合い魅惑的になっている。

 さらにそのままスプーンを深く突き刺せば、敷かれたラザニアの先にはホワイトソース、そしてご飯。ドリアのエリアだった。ホワイトソースは先ほどのチーズの混ざったデミグラスソースと絡み合い、よく言えば贅沢、率直に言えば混沌とした状態になった。

 ともあれ一口分を取り分けて実食。熱いけど、味は良い。と、思う。

「凄いなあ。詰め込みすぎなくらいなのに、味が纏まってて……もの凄く濃厚なのに、あっさり食べられちゃう」

「晶はいまいち食レポがへたよねえ」

「そういうねーちゃんはどうなの?」

「おいしいわあ」

「……にーちゃんは?」

「出来るとでも思うかい」

「ごめん、渡来さん。ボクたちじゃ表現がしきれないみたい……」

「いやいや、何も謝ることじゃないよ。おいしく食べてくれるだけで、十分だ」

 作った甲斐はあったよ。本当に。

 ちなみに先ほどの小細工で洋輔の目の前にも同じものが出来ていて、洋輔も作業の手を止めて食べていたりする。夕飯食べられなくなっても知らないぞ。

(いやだって目の前に折角あるなら喰うだろ。お前の手作りそのものじゃなくても味は同じだし)

 まあね。

 でもそれを言うなら味覚を共有して貰えればそれでも良いんだけど。

(俺の好きなタイミングで喰いたいからなあ)

 確かにそうか。

 結局全員が完食するまでは十分ちょっと。

 もう一品くらい作っておいても良かったかな。それこそデザートじゃなくて副菜を。

「まんぞく! ロマンって感じ。洋食屋さんで食べるより大満足だよ!」

「それはよかった」

「片付けはぼくたちがやるよ。佳苗はゆっくりしていて」

「いいの?」

「うん。作って貰ったお礼……、に少しでもなればいいな」

 ソレを言うならキッチンを借りた僕の方がお礼をしたいところだけど、ま、ここはやって貰うことに。

 当然のように晶くんも片付けを手伝い始めるも、日お姉さんはマイペースって感じだ。ゆーとの首のあたりを撫でている。なかなかのチャレンジャー、けれどしかしどうして侮れない。ゆーとの好みを的確に理解……、

「にゃんっ」

「あら」

 ……訂正、たまたまだったらしい。

 ゆーとの逆鱗ならぬ逆毛に触れたようで、日お姉さんの手からさっと逃れるとゆーとはこちらにダッシュしてきた。ので、キャッチ。

「元気でいい事だ」

「あなたは猫に好かれるのねえ」

「僕が猫を好きな分だけ猫も僕を好いてくれるんですよ、きっと」

「そう……」

 そういう事もあるかも知れないわねえ、と日お姉さんは納得してくれた。

 話の分かる人は好きだ。

(俺はその人をいまいち理解できねえだろうな。永遠に)

 言えてる。微妙に洋輔と相性の悪い性格だしね……。

「そうだ。渡来くん。あなたは『猫と少年(KatzeJunge)』という絵画を知っているかしら?」

「『猫と少年(KatzeJunge)』?」

 ドイツ語……だよな、たぶん。猫、あんど、少年、つまり猫と少年。直訳だけど意味は通る。

「いえ、聞いた事もない……、と思います。思い出せないし。どんな作品なんですか? やっぱりこう、猫が少年と遊んでる図とか?」

「それがそうでもないのよね。印象的な絵画というか……、確か画像があったはずよ」

 ちょっと待ってね、と日お姉さんはスマホを操作、すぐにそれは見つかったようで、画面をこちらに見せてくれた。

 その写真は絵画を正面から捕らえた作品、らしい。

 ぱっと見たそれは、黒い背景に銀色の棒が浮いている感じ……かな、それだけで、猫も少年もそこには表現されているようには見えない。

「見覚えも、ないかな……。正直、見覚えがあったところでよほど特殊な環境でも無い限り忘れてしまいそうな感じがします」

「正直ね」

「やっぱり有名な人の作品なんですか?」

「うーん。……『かもしれない』、かしら?」

 かもしれない?

「誰が描いたものなのかが分からないの。ポーランドの小規模な美術館に寄贈された作品でね……、その美術館の人は一目で心を奪われたそうよ。けれど寄贈した本人でさえも、それを描いた人は知らなかったみたい。美術品としての価値は間違い無くある、けれど、どこの誰が描いたのかが分からない。分かっているのはタイトルだけ、そのタイトルこそが『猫と少年(KatzeJunge)』」

「ポーランドなのに、ドイツ語? ……って、隣国か」

「ええ。歴史的な背景もあるから、一部では公用語になっている部分もあるし、そもそもドイツから流れてきただけ……なんて可能性もあるから、ドイツ語である事に問題は無いはずね」

 それもそうか。

「これを誰が描いた作品であるのか、見当を付けて欲しい……なんて依頼が、つい最近に来たのよね。年明けはこれの現物を見に行ってたんだけれど……」

「日お姉さんのお仕事ってこういう無茶振りが多いんですか?」

「残念だけど、そうね」

 なるほど、『本物を見て、別の作品の真贋を確かめる』という意味での鑑定士……を頼らざるを得ないほどには謎なのか。

「色使いが似ているという意味では、一人思い当たったんだけれど……、それでも、ちょっと色が少なすぎて断定までは行けなかったし、本当にその人の作品だとしたらそれはそれで奇妙なのよ。こういう絵を描く人だとはあまり知られていないの」

「誰……に似てると?」

「ミケランジェロ。知ってるかしら?」

「えーと……、彫刻家……?」

「そうね。芸術家としての側面が強いかしら」

 美術展とかを見に行ったことは無いけど名前くらいは知っている。

 図工や美術、歴史や世界史といった勉強でちらほら出てくる名前だったはずだ。

 猫っぽい名前だから特に覚えやすかった。

(三毛猫じゃねえからな)

 …………。

 そして久々の遠隔突っ込みを受けた。

「色使い……絵の具、発色のさせかたは、とてもミケランジェロに似てるの。けれど、だとしたらあまりにも色が少なすぎる。多彩な色使い……、が、特に目立つから、そう思い込んでしまうだけなのかもしれないけれど……」

「最近は絵の解析にもCTスキャンとかするんですよね。それで下絵の段階とかが見れるとか。署名とかは残ってなかったんですか?」

「詳しいわね」

「テレビで見ただけです。ドキュメンタリーだったかな?」

「なるほど。……その点もおかしな話なんだけれどね。この絵は確かに描かれた絵なんだけれど、下書きが無いのよ。絵の具もほとんど一発で塗り込まれてる」

「印刷物……?」

「印刷物にしては絵の具が使われているのよね」

 ふむ、誰かがミケランジェロの色使いを学ぶために真似をして描いた……とか、そんな感じだろうか。

 素人考えをぶつけてみると、

「だとしたらその誰かはミケランジェロの色使いをほとんど完璧に修めていることになるわね。なにせほぼ一発書きでこの状態。すさまじいわ」

 それもそうだった。

 更に言うなら普通の人が普通に真似をしただけならばそれを一発で見破るのが日お姉さんなのだった。四色型色覚……を、誤魔化せちゃってるんだもんな。それこそ『理想』の対象としてミケランジェロを指定して再生でもしないかぎりは出来ないだろう。

 裏を返せばそういう事が出来るならば『可能』かもしれなくて、『猫と少年(KatzeJunge)』というタイトルが付けられているにも関わらず、その絵の内容は全く関係の無い黒背景に銀の棒。

「銀の塔かあ……」

「え?」

「いえ。なんでも」

 思い当たる節がある。

(だとしても婉曲的にすぎる。遠回りをしすぎだ)

 そうしなければならなかった理由があるとみたらどうだろう。

(理由。理由ね……)

 たとえば僕がラストリゾートではなくペルシ・オーマの杯を使わざるを得ないような、そんな状況。

 洋輔の場合だと剛柔剣で出来ることをいちいち普通に魔法でやらなければならないような、そういう状況だとしたら……、多少のリスク込みで普通にやって後で誤魔化した方が楽か。

(ああ。俺たちならそう発想する……あいつだってな)

 そう、『ソフィア』だってそう発想するに違いない。

 けれどどうも、この絵はソフィア・ツクフォーゲルが手を打った結果っぽいんだよな……。

 黒背景に銀の棒。それは宇宙を漂う銀の宇宙船。僕達が帰還する切欠となったあの船ではないか。そうだとするとタイトルにも納得がいく。なにせその宇宙船には『猫と少年』が乗っていたのだから。

「その絵、こう言っては失礼ですけど、変ですね」

「あなたもそう思う? センスが良いと思うわあ」

 そしてなんか褒められた。

「姉さん、佳苗。盛り上がってるところ悪いんだけれど、この後のお風呂はどうする。大浴場あけるか、普通のお風呂で済ませるか」

「大浴場なら一緒に渡来さんも入ろー! ゆーとも!」

「あら、私も?」

「ねーちゃん、寝言は寝てから言うから寝言なんだよ?」

「言うようになったわね」

 肩をすくめて日お姉さんはスマホを仕舞うと、立ち上がってそのまま晶くんとすれ違うように部屋を出て行く。そのすれ違い様に晶くんの頭を軽く撫でていて、そんな仕草に晶くんはすこし気恥ずかしそうだった。

「あなたたちのことだもの、使いたいんでしょう。私は普通のお風呂でゆっくり長風呂するから、あなたたちは大浴場でゆっくりしなさいな」

「やった! 準備してくる!」

「……行っちゃった。ごめんね、佳苗。本当は佳苗に選んで貰うつもりだったんだけれど」

「いやいや、僕としても文句があるわけ無いよ。広いお風呂を独占するなんて地球じゃ殆ど出来ないし」

「スケールが大きいね、佳苗は」

 …………。

 あぶなっ。普通に声に出てたか。

 不審には……思われてないようだ。

 良かった……。

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