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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 極点候補者と深刻な問題
29/111

27 - 青く語るは

 1月21日。土曜日。

 昌くんの家へのお泊まりに向かうに当たって、やっぱり手土産は必要だよね、と行きがけにお茶屋さんによってお茶菓子を一通り買いつつ八幡様、の隣、昌くんの家へと無事到着。

「渡来さん、こんにちは!」

「こんにちは。待っててくれたんだ、晶くん」

「はい!」

 門の前、ニコッと笑って晶くんは言う。

「本当はゆーとも来たがってたんだけど……一応、外だから」

「それが正解だと思うよ。ゆーともそこまでやんちゃはしないと思うけど……」

 どうだろうな。確証はもてないかもしれなかった。

「おみやげのお茶菓子。今日はお茶屋さんで揃えて貰ったんだけど」

「おいしそうですね。早速食べるためにも、まずは中にどうぞ」

「うん。おじゃまします」

 門から中に入ると、死角に物音。そして「にゃん」、と肩にゆーとが飛びついてきた。

 …………。

 なるほど。たしかに晶くんは『一応外だから……』としか言っていない。それに言葉を遭わせるならばここは『一応敷地内』だからセーフと。

「ゆーともだんだん成長してきてるね。みるみる大きくなってきた」

「そうなんですよ。いつまで子猫って扱いなのかな? って皆で話してたんだけど」

「一歳くらいだよ。ゆーとの場合は……、あと二ヶ月くらいかな」

 と言うところで玄関に到着、靴を揃えて中に入る。

 あらためてお邪魔します。

 見覚えの無い女性物の靴があるのは……、僕がリクエストした日お姉さんのものだろうな。

 尚、祭部長を介して二階ほど竪川響谷先輩とは会話の席を設けたんだけど、特にこれと言って特徴的な事を仕掛けてくるような事は無かった。こっちから空間整理の話を振っていればちょっとはリアクションも変わったのかも知れない。

「ようこそ、佳苗。晶、お茶を入れてきてくれるかな」

「うん。部屋は……、居間かな?」

「そうだね」

「わかった」

 とてててて、と晶くんが奥へと向かう。僕は昌くんに付いていく形で居間へと向かう……と、そこには長身の女性がくつろいでいた。

「こんにちはあ」

 少し間延びする声の彼女は、久々に見るとはいえどやはりその両目が青い。

「こんにちは。今日はお呼び立てしちゃって、すみません」

「いいのよ、そのくらい。可愛い可愛い弟達の仲良し、その頼みなんですもの。むしろ、随分と待たせてしまったことを悪いと思ってるわあ」

「いえ。急だったのはこちらですから」

「にゃん」

 何時までも喋ってないで座れ、とゆーとに言われた。

 ので、昌くんに視線でちょっと確認。特に問題はなさそうだったので、日お姉さんの正面側に座ることに。

「私に聞きたいことがあると言っていたけれど、それはこの場で普通に話してもいい事なのかしらあ。昌や晶に秘密にしたいならば、場所を移しても良いけれど……」

「隠し立てするようなお話でもありません」

「そう。何かしら?」

竪川(たてかわ)日比生(ひびき)さん……を、ご存じですか?」

「うん? ……日比生? また、珍しい名前が出てきたわあ。もちろん彼女とはお友達だもの、今でもね。けれど、どうして?」

「実は日比生さんの弟、響谷さんが僕の部活の先輩とお友達でして」

「へえ。意外なところでつながりがあるのね……、昌、ちょっといいかしらあ?」

「うん?」

「渡来くんは別に構わないと言ってくれているけれど、私はあまりあなたに聞かせたくない内容になるかも知れないから、一度席を外してくれるかしらあ。後で渡来くんから聞く分には構わないけれど、直接あなたに私の口からは聞かせたくないのよ」

「……それは、過保護としてのソレ……ってわけでもなさそうだね。分かったよ。じきに晶がお茶を持ってくるから、それまでは少し待ってて」

「ええ」

 あなたには聞かせたくない。

 昌くんにはであって――晶くんは許容している。

 概ね想定通りの反応ではある。

(想定ねえ)

 そもそも僕が(とも)さん……昌くんを通さずに、昌くんの父親に直接働きかけて日お姉さんとお話を出来る機会を作ろうとしたのは、竪川日比生という人物を調べる過程で当然、その弟である竪川響谷さんと接触していろいろな話を聞いたりして、あるいは洋輔がそうしたように資料を検証することで、竪川日比生の近くには一人の女友達がよくいて、その一人の女友達の目が青い事、そして背が高いことなどが特徴として挙げられたことも踏まえるに、日お姉さんなのではないか――と推測した。

 で、その辺も踏まえて考えると、どうも昌くんたちが抱えている複雑な事情に『竪川日比生』が絡んでいる可能性がそれなりに高く出てくる。

(複雑な事情……『せんせい』か?)

 うん。

 昌くんと郁也くんが二人揃って、『せんせい』を頼って家出し、頼った『せんせい』に裏切られ拘束され、それでもなんとか隙を突いて逃げ出すことは出来たけど、『せんせい』の行動を強く制限した。

 逃げ出した昌くんと郁也くんを保護し事情を説明された二人の両親は、結果として起きてしまった『せんせい』に関する事あらゆる事を徹底して隠蔽している。

 ここまでは洋輔も知っている事だろう。去年、僕達は揃って二人から説明を受けている。

(ああ。……あの時はまだ、お前に情報制限を掛けてたからなあ。実際何が起きていたのかは……分からなかっただろうけれど)

 流石に今の僕には分かることだよ。

 『せんせい』を頼った後、拘束された二人がどのような目にあったのかは――大体分かってしまうし、だからそのことを誰にも言うことが出来ないというのも当然だと思う。

 けれど。

 だとしてもやっぱりおかしいと思うのは、その『せんせい』に関する情報があまりにも無いと言うことだ。

(そりゃあ、それは弓矢と村社って家が全力で隠蔽をしたから……だろ?)

 その通り、全力で隠蔽したんだろう。

 だとしても度が過ぎている――喫茶店(パステル)はおろか、この街に暮らす誰もが恐らくはその事件を知らない。

 弓矢、村社という両家の息子が一時的にとはいえ誘拐、監禁されたという事実も、そしてその犯人にあたる『せんせい』がどうなったのかも、どころかその『せんせい』の存在そのものもあやふやになってしまっている。

 それはよっぽど苦労をしたんだろうなあとちょっと他人事に考えてはいたけれど……もしも。

 もしも日お姉さんさんが竪川日比生と友達だったならば、そこに一枚噛んでいる可能性がある。

「お待たせ、……って、あれ。何か、あったの?」

「ごめんなさいねえ、晶。ちょっとこの子と内緒話がしたいの。席を外して欲しいのよ。後で渡来くんの口から聞く分には構わないけど……ね」

「…………、」

 晶くんは困惑の色を浮かべて僕と日お姉さん、そして昌くんを巡に眺めると、わかった、と頷いた。

 いつも通りの晶くんの反応には見える。けれどこれは悟ってるな……。

 とりあえずお茶と引き換えにゆーとを返し、表向きは笑顔で去って行く晶くんたちを見送って、と。

「『あのこと』……かしらね。昌と坊ちゃんの一件を、あなたはあの二人から聞いているのかしら?」

「はい。とはいえ、その時は竪川日比生という名前は全く出てきませんでしたけど……というか、日お姉さんに関する話も出ませんでしたけれど」

「でしょうね。少なくとも昌に分かる話じゃ無いもの」

 だってあの子が起点だから、と。

 日お姉さんはさらりと言う。

「けれど、僕が竪川日比生さんや日お姉さんがそれに関与していると考えたのは後付けですね……、事件をあらかじめ知っていて、その後別件で竪川日比生という神隠しの少女を知り、竪川日比生さんには弟が居て、その弟である竪川響谷先輩が僕の先輩の親友で……、その竪川響谷さんが『お姉さんには仲の良い女友達がいる』ことを教えて貰いました。で、その女友達は背が高くて、目が青いとも。響谷先輩は産まれてから殆どの時間をこの街で過ごしてるけれど、実家は佐渡島だとか、そういう雑談もしましたね」

 それを踏まえれば、日お姉さんが竪川日比生の女友達であると発想するのは自然だろう。

「僕が調べているのは昌くんたちの一件ではありません。僕達自身の事件に関する事なんです。……あるいは、竪川日比生さんが使えるという『神隠し』の力で、僕達の記憶を弄ることが出来るんじゃないか? そうではないにしても、僕達の失踪に多少なりともヒントはあるんじゃ無いか……」

「ふうん」

 日お姉さんは頷く。


「そういう建前なのね」


 但し、見透かして。

 あるいは、見分けたのか。

「あなたは……別に、真相には興味が無いんでしょう? あなたたちの事件にも、そして昌たちの一件にも。あなたが興味を向けているのは事件じゃ無くて、それを実現した術の方。日比生の『神隠し』……よね?」

「…………」

 一瞬だけ色別をオンにして、確認。

 その結果は――青。

「その技術を知ったところで、あなたは何に使うつもりなのかしら?」

「え?」

「…………?」

 …………。

 いや。えっと。

「……うん? どうしたの?」

「いえ実際問題として、その辺はあまり考えてなかったんですよね。そういう技術がある。ならば僕としても習得を目指して、使えるようになったらこう、色々と隠し事をするのに便利かなあとか、今でも抜き打ちで張り込んできてる刑事さん達を撒くのに便利かなあとか、その程度の考えというか……」

「えっと……、大局的になにか準備が必要、とかではなく?」

「はい。大局的な準備も何も、別に何かをしようとしてるわけでも無いですからね、僕」

「…………」

 虚を突かれた、という様子の日お姉さん。

 いや、虚を突かれたのはこちらもなのだけれど。

 言われてみれば確かに神隠し……空間整理なんてものを、そこまで強く習得することに意味があるのかと聞かれると疑問符が付く。真偽判定を進化させる材料としてはもってこいでも、真偽判定でも十分って部分も多かったからな……。

「けれど何やら、このところ尋ね人をしているとか聞いてるのよね?」

「え? …………? 日お姉さん、それは誰に聞きました?」

「日比生、だけれど……」

 うん……?

 待てよ。どうも妙な齟齬がある。

 日お姉さんは僕が竪川日比生という名前を出したとき、それが昌くんたちの過去を詮索する意図では無く技術そのものへの興味であると見抜いていた。

 日お姉さんは竪川日比生とやはり友人関係にあって、神隠しという技術を知っている。僕達のことに色眼鏡を掛けずに観測していれば、『妙な事を知りたがっている』程度の認識が自然であって、『何かをもくろんでいて、そのためには技術が必要』と認識するには飛躍があるよな。

 …………。

 膨大な対価と引き換えに神隠しという技術を竪川日比生は売り渡した。

 で、その技術は後日、喫茶店の人員によってメソッド化された。

 竪川日比生は対価としてか、この街に引っ越してきている……。

「妙な事を聞きますけれど、日お姉さん。あなたは日比生さんとお友達ですよね」

「ええ」

「それで、日比生さんと同じ所に属してるんですか?」

「それは学会という事かしら? だとしたら間違いね。私はただの、雇われ鑑定者だもの」

 日比生とはそこが違うのよね、というニュアンスでその言葉は紡がれた。

 なるほど……。

(膨大な対価を受け取ったから竪川日比生はこの街に来たんじゃ無い。この街に来たのは結果的にそれが必要だったからであって、対価は別か? だとすると、この街に来る必要性ってのは……)

 喫茶店(パステル)という陣営に飛び込んだ。だからこの街に拠点を移す必要があった。

 陣営としてそもそも喫茶店(パステル)に参加していたから、空間整理のメソッド化を行った。あるいはそれを積極的に手伝った。

 対価は……その場合ちょっと分からないな。

(参加すること自体、かもな。あの組織はあれでいて意外と外からの飛び込みが難しそうだ――もし竪川日比生が喫茶店(パステル)に、普通に参加できているならば、そこにいる弓矢日もまた参加しているほうが自然でもある)

 だよね。鑑定士……、見分ける力。他人よりも見える色が多いその視覚情報は、きっと喫茶店としても大きな物だろうし。

 ま、その辺は追々確認しても良いし、別に確認出来なければ出来ないでそれは構わないことだ。他人に支払われた対価が何であろうと、それで当事者が納得しているならば文句を付ける筋合いは無い。

(ここで重要なのは竪川日比生が喫茶店(パステル)勢力の一員である可能性が高まったこと、弓矢日を使って俺たちの尋ね人、ソフィア・ツクフォーゲルで何が変わるのかを詮索している? か?)

 分からなくてもそれでよし、分かったならばなお良し。打てる手は打っておく、その程度の考えかな。それによって日お姉さんが利用された、と考えないと竪川日比生は考えた……、あるいは日お姉さんの方から竪川日比生に提案したのかも知れない。何か気になる事があるならば探ってあげるよ、とか。

 この辺は……、うん、まあいよいよ気になったらその時は本人に聞けば良い。

(同感だ。どうする、俺の方で手を打った方が良いか?)

 お願い。道具類とかが必要になったらいつでも言って。

(オッケ。そんじゃ後で感覚共有しといてくれ)

 了解。

「どうやらお互いに勘違いしているところがあるみたいですね」

「そうみたいねえ。……とはいえ」

「とはいえ?」

「私はあなたたちを応援するわあ。何せ、昌にとって、晶にとっても大事なお友達なんだもの」

 お友達、か。

「これで話は一段落としましょう。どうしようかしら、連絡先は……」

「お願いできると、ありがたいですけれど」

 日お姉さんがスマホを取り出したので、僕も取り出し連絡先を交換。

 ううむ、友人の歳の離れたお姉さんと連絡先を交換……ってなんか妙な感じだな……いや、決して浮ついた関係ではなく、ものすごくビジネス的な付き合いだけど。

「はい、よくできました。それじゃあ二人を呼び戻してくるわあ。今の会話は……」

「内緒に、ですね。適当にあわせるくらいの技術なら在ります」

「頼もしいわあ」

 日お姉さんはそう言って立ち上がった。

 こうして、日さんとの事実上の情報交換は完了――思っていた方向と随分違ったけれど、得られた成果は小さくない。

 おそらく。

(ソフィア・ツクフォーゲル自体ではないにしても、何らかの痕跡は見つけたか?)

 希望的観測にすぎるかもしれないけど……ね。

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