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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 年々歳々/歳々年々
20/111

18 - 意思疎通となんとやら

 そんなわけで、普段とは違い、昌くんと郁也くんと一緒に下校することに。

 もっとも、郁也くんは単に方向が近いからで、途中まで。

 昌くんの家にまでは来ないらしい。ちょっと残念。

 尚、洋輔も来るのかなあと思ったんだけど、何やら調べたいことがあるそうで急いで家に帰っていった。洋輔のことだからどうでも良いことか、あるいはそこそこ重要なことだろう。

 で。

「ただいま」

「おじゃまします」

「おかえりなさい。こんにちは!」

「こんにちは、晶くん」

 昌くんの家にお邪魔すると、昌くんにはおかえりを、そして僕には挨拶を、どちらにも礼儀正しくしてくれた。なんというか、やっぱり育ちが良いよなあ。

 そしてこれまでならば大抵、そんな晶くんの腕にはゆーとが抱かれている筈なのだけど、今日はその姿がない。

「晶、とりあえずは居間にお茶を用意してくれるかな。ゆーとはその後探そう」

「分かった」

「探す? って?」

「拗ねてるゆーとって見つけるのが難しくて……」

 ああ、たしかにこの家、隠れる場所ならいくらでもあるもんな。

 ひと部屋ひと部屋がそもそも広いのに家としての面積も広すぎる。

「昌くん。あんまり見くびられては困るね」

「え?」

「ゆーと、おいでー」

 少し声を張り上げてゆーとを名指し。

 三秒ほどでがさりと音がして、ありったけの警戒心を昌くんと晶くんに向けつつも、ゆーとは僕の足下へとすり寄ってきた。

「よしよし。良い子良い子」

「…………」

「…………」

 流石にそれは無いわー、という表情の昌くん。

 一方、何が起きているのかわかんないという表情の晶くん。

 似たもの兄弟だけど、思考の方向性は違うようだった。

「ゆーとは僕の肩にでも乗っておいてね。それなら安心でしょう」

 僕の提案にゆーとは少し考えて、にゃん、と鳴いて肩へと駆け上ってきた。

 話が早くて良いことだ。

「兄ちゃん、ボクにはなんか解せない……」

「正しいよ。正しい。ぼくにも正直わかんない。けれどとりあえずお茶の準備はお願いね」

「うん」

 それはそれ、これはこれと意識を切り替えるのは得意だったようで、とてとて、と少し急ぎ足で晶くんが準備に向かう。

 一方、靴を脱ぎ終えたところで昌くんは改めてこちらを見て、

「佳苗の猫寄せは大概だとは思ってたけど、まさかこれほどとは……」

 と感慨深そうに言った。

「猫寄せと言うより、猫との意思疎通かな。……猫語、喋れるの?」

「まさか。ただ猫が言わんとしてる事がわかるだけだよ。それに猫は賢いからね、しっかりと説得すればちゃんと分かってくれるんだよ」

「いやそれはおかしい」

 苦笑交じりの突っ込みを受けつつ、でも事実なんだよなあ。

 とまあ。そんなやりとりを挟みつつも居間にお邪魔することに。

「荷物は適当に置いてくれるかな。それともぼくの部屋に来ちゃう?」

「どっちでもいよ。けれど」

 ちらり、と時計を確認。

 現在時刻は午後の五時ちょっと前。

「一時間くらいかな。六時頃には帰らないと」

「そっか。親が心配するもんね」

「いや、特売があるからさ。六時半から」

「特売……えっと、猫グッズの?」

「そんなお店があるならば僕は毎日通い詰めるだろうね……」

 普通のスーパーだよ、と訂正すると、心底安心したように昌くんはなるほど、と頷いた。

 どう思われてるんだろう。

 というか洋輔が突っ込みを入れてこないのが逆に不穏なんだけど……まあいいや。

「僕の両親は共働きだからね。二人とも帰りが遅いときはご飯も最近は僕が作ってるし、その前から買い物くらいは済ませてたんだよ」

「へえ。そういえば佳苗は料理が上手だもんね」

「何か今度作ってあげようか」

「そう? それはちょっとお願いしてみたいかも。ああ、でも食べに行くとなると晶が困るかな……」

「キッチンを貸してくれるならここでやるし、そうじゃないにしてもタッパーとか、鍋そのままとか、やりようならあるよ。大丈夫大丈夫」

「……ならば本当に、今度お願いしてみようかな?」

「え? 何の話?」

 と、晶くんはお茶を乗せたお盆をもって入ってきた。

 お茶の香りはとても優しく、当然のように添えられている羊羹に嬉しく思い、同時に手土産が必要だなと改めて感じたり。

「佳苗がね、今度料理を作ってくれるって話だよ」

「おー。渡来さんって料理得意なんですか?」

「人以上には得意なつもりだよ。何か食べたいもの、あるかな」

「チーズイン煮込みハンバーググラタンドリア!」

 食べたいものはあるようだけどちょっとチーズが強すぎる気がする。

 あと煮込みハンバーグを乗せるという発想はすごいな。そしてグラタンドリアってどっちだ。どっちもか。

 存外にも欲張りだった。

「良いよ。じゃあ今度作ろう」

「え、無茶振りしたつもりなのにいいの?」

「なんとかなるし、なんとかするよ」

「頼もしい! にーちゃんも見習ってくれたらなあ」

「……ごめんなー。あんまり料理は得意じゃなくて」

 いや昌くんも実は料理がそれなりに出来る方だというのを知っている僕としては、なんともつっこみにくいんだけどね?

 なんてことをしている間にもお茶がしっかりと配られて、一段落。

「でもそれ、いつにするの、にーちゃん」

「うーん。……佳苗、前に頼まれていたこともついでだからそこで済ませて良いかな?」

「頼んだこと……?」

「父さんに頼み事をしたんでしょう。日姉さんと会って話したいって」

 ああ、そのことか。昌くんのお父さんに直接お願いしたってことも知られてる……、か。

 別に構わない、という意思表示かな? それとも、単に昌くんのお父さんが抜けてただけか。後者では無いと信じよう。

「姉さんが時間をまとめて都合をつけられるの、今月だと二十一日、二十二日なんだ。土日だし、もし部活とかで用事が無いなら泊まりに来たりしない?」

「今のところ部活回りは大丈夫、だと思う。演劇部は土日の活動はまずやらないし、バレー部も練習試合が決まったなんて話は聞いてないし。けどまあ、確認してからかな……、早ければ明日にでも確認出来るから、確認でき次第答えるね」

「わかった。よかったね、晶。作ってくれるって」

「ロマンが叶うよ! やった!」

 なんとも喜ばしそうに言うものだなあ。

 ね、ゆーと、とゆーとに振ってみると、ゆーとは知らん、とそっぽを向いた。

 これはなかなかに重症だ。

 本題のゆーとをまずはどうにかするとしよう。晶くんも寂しそうだし。

「さてと、ゆーと。この前は災難だったんだね」

 問いかけると頭の上でにゃん、とゆーとは頷いた。

「怖かった?」

 にゃあ、とゆーとは首を傾げた。

「むかついた?」

 にゃ。と、ゆーとは僕の頭の上で伏せた。

「そろそろ許してあげてよ。二人ともとても寂しいんだって」

 ぷいっと、ゆーとは知らんぷりをした。

「暑さ寒さも彼岸までって言うでしょう。だから許してあげてよ」

 ごろごろと、ゆーとは喉を鳴らした。

「ね?」

 にゃー、とゆーとは鳴いて、僕の頭の上から飛び降り、机の上をとてとてとあるいて晶くんの懐へと飛び込んだ。晶くんは咄嗟に受け止めると、どうやら本当に久々だったようだけど、きちんとゆーとの頭を撫でていて、ゆーとも安心したようだった。

「よしできた」

「ごめん、佳苗。ぼくには今の会話が成立していたのだとしても、それでどうしてゆーとの機嫌が直ったのかがまるで分からないんだけど……」

「そんなもんだよ。猫って」

 僕もどうかと思うけど、それで説得できるんだから仕方が無い。

 そもそも言葉を交わした結果じゃ無く、心を交わした結果だしね。

 言葉なんてものは心を伝えるためのツールに過ぎないのだ。

「ソレっぽいこと言ってるけど、つまり、『説明できない』ってこと?」

「晶くんって鋭いよね……」

「ごめんね、佳苗。晶、」

「いや、昌くん。別に今のは怒ってるんじゃないから。感心しただけだから」

 叱りかけた昌くんを慌てて止める。

 猫との意思疎通ができても、人間との意思疎通が曖昧ってのはどうなんだろうな、僕のことながら。

「ま、変に言葉で説得するより、全力で感情を前に出せば猫はそれに応えてくれるってことだよ。たぶん昌くんも晶くんも、僕ほど極まることは無くたって、ゆーとと意思を交わすくらいのことは出来る……」

 …………、ん?

 なんか引っかかるな……、まあ、いいや。本筋じゃ無い方っぽいし。

「……はずだから、ゆっくりと時間をかけて試していくといいと思うよ」

「うん。そうするよ」

「はあい」

 さて、ゆーとくんのことはコレで一段落、っと。

「部活で思い出した。佳苗、演劇部の次の作品の話、部長から聞いてるかな?」

「うん。まだどっちになるかは決まってない、みたいな感じだったけれど……どうして?」

「剣道部の先輩が、鹿倉先輩に声を掛けられたって言ってたからさ。『もしかしたら剣道部の力を少し借りるかも』みたいな感じで。どういうことかはかりかねてたんだけれど、佳苗は知ってる?」

 なるほど、そりゃ剣道部には声を掛けるよな。

 むしろ内容を知らせてなかったのか、祭部長。

「今のところ案が二つあるんだって。準備も必要だから、今週中には結論が出ると思うけど……、片方は現代劇、もう片方が殺陣ありの時代劇。後者だとすると、剣道部の力を借りたいっていうのはあるんじゃないかな?」

「なるほど。殺陣か……。剣道部に言われても、そんなこと器用にできないけれど」

「他の子たちよりかはまだマシって判断じゃないかな。それに実際に演者として上がるかどうかもわかんないよ、演技指導としてお願いされてるだけかもしれない」

「ふうん? ……ちなみにその場合、剣、いや、刀か。それを持つのは、鹿倉先輩なの?」

「そっちの場合は僕だよ」

「それこそ演技指導が必要無いと思う……」

 ……まあ、そうかも。

「本決定前には相談があると思う。決定前にそれとなく聞き出せたら、先に伝えるよ」

「そうしてくれると助かるよ、佳苗」

 じゃあそういう事で、と情報のリーク協定が結ばれた。リークと言うほどでも無い、些細な出来事でもあるけれど、こういう秘密の共有が友情をより強くするものだ。

 晶くんという目撃者がいるわけだけど、この場合は共犯者と言うことで結束力……、ちょっと無理があるな。

「それと、凄い今更なんだけれど。今月の真ん中くらいで、ぼく達もスマホ買って貰えることになったんだ」

「お、それは良いね。けれど、たちってことは……晶くんも?」

「うん。ぼくと、晶と、坊」

 郁也くんもか。そうだよな、タイミングは合わせるだろう。

「買って貰ったら、色々と登録してくれるかな」

「もちろん。晶くんもその時はよろしくね」

「はい! ゆーとの写真とか、送るよ!」

 うん、それは楽しみだ。

 僕も亀ちゃんの写真とって送ろっと。

 他にも色々と雑談……たとえば年始の初詣はどうだったとか、そういう詳細だとか、他にも最近の晶くんの調子はどうだとか、そんな話も交えつつ、特に問題らしい問題もなく安心したり。

「さてと。そろそろ時間かな……、お邪魔しました。また何か、ゆーと絡みで問題があったら気軽に言ってよ。説得するから」

「ありがとう、そうさせて貰うよ。途中まで送ろうか?」

「大丈夫、大丈夫。それよりしっかりゆっくり、ゆーとの様子を見ておいてあげて。特に晶くんはね」

「え?」

「うん?」

 ま、素人判断だ。

 けれどたぶん、獣医さんよりかは正しいだろう。

「ゆーとが具合悪そうにしてた原因はね、たぶん晶くんをずっと見てたからだよ」

「見てた? ボクを?」

「うん。昌くんは特に何も言わなかったけど……年始のどこかで、晶くん、少し寝込んだんじゃない?」

「…………、それは……、なんで、知ってるの?」

 正解か。

 やっぱりな、と思う気持ちが八割くらい。残りの二割は疑問だけど……まあ、それはまた後で調べよう。

 少なくとも今の晶くんは健康そうだし……ね。

「ゆーとはそれが心配で、ずーっと晶くんの側に居たんだって。で、ずーっと側に居て、ずーっと見てたから、寝不足になっちゃったんだろうね。それがゆーとの具合が悪く見えた原因。ゆーとが怒ってたのはケージで無理矢理運ばれたってのもあるけど、『自分はこんなにも心配してやったのに、恩を仇でかえすとは!』って感じだと思うよ」

 その辺り、ゆーとって猫にしては随分と義理深いんだよな。

 昌くんや晶くんに感化された部分もあるんだろう。

「……やっぱり、佳苗に隠し事はできないものだね、晶。言って良いかい」

「うん……」

「晶くんが話すのを止めてたなら、別に良いよ。無理に聞き出したいことでも無いし、隠してたのだって『本当にまずいことだから』じゃなくて、妙に心配をさせないため……じゃないかな」

「……本当に。隠し事はできないものなんだね、にーちゃん」

「こうなるかもね、なんて話はしてたけど、恐ろしいね……」

 二人はそう言って、笑う。大丈夫、そう言わんばかりに。

 やっぱり想像通りかな。

「ちなみに聞いておくと、佳苗は何が原因だと思う?」

「三が日の初詣に来たお客さん達がうるさくてよく眠れなかった、あたりじゃないかなって思ってたんだけど、どうかな?」

「…………。大正解」

 やばいよにーちゃん、本当に何も隠しごとが出来そうにないよ、と晶くんは表情で昌くんに訴え、昌くんは諦めて受け入れよう、大丈夫佳苗(ぼく)ならばとやかくは言わないよ、なんて表情で晶くんに答えを出していた。

 分かりやすいのはさておいて、昌くんとはまた明日、晶くんとはまた今度、と別れを告げると昌くんの家から帰路についたのだった。

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