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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 年々歳々/歳々年々
19/111

17 - 部長で気付く

 帰りがけに用事もできたので、部活回りのやることは先に済ませてしまおう、そんな感じでお昼休みにまず訪れたのは祭部長のもとだった。

 なお、祭部長はロッカーの整理をしていたようで、廊下で遭遇。ちょっと安心。

「祭部長。ちょっと良いですか」

「おや、かーくん。どうしたかな?」

「えっと、新入生の先行入部の話を今日されまして。それで、演劇部としては何やるんだろう? って」

「ああ……」

 そういえばそんな事もあるっすね、と祭部長は少し他人事のように言った。

 どういうことだろう。

「かーくん。演劇部は特にこれといって、特別にやることは無いんだ。おれ達はほら、特に三年生向けにだけれど、舞台を一つやるっすよね。あれを見せるくらいっすよ」

 なるほど。体験入部ならぬただの見学……、あるいは先行鑑賞会みたいなものか。

「かーくんはバレー部もあるっすからね。そっちの方を優先していいっすよ。当然、通しの練習とかには参加して貰うことになるっすが」

「もちろんです。よく忘れられてますけど、僕は演劇部がメインですから」

「そう言ってくれるとありがたい。ありがたけれど、同時に風間達には悪い気もするっすねえ――」

 で、時間もそれほどないので、今日の部活が在るかどうかを確認。特に今日は無しということだった。

 折角二年生のフロアに来たので、今度はバレー部の部長に会いに行く。

 土井部長は三組だったはず、と三組に到着すると、無事発見。

 丁度風間先輩と雑談している最中だったらしい。

「すみません、部長。ちょっと良いですか」

「ん?」

 と、教室の入り口から声を掛けると、二人が同時反応する。

 僕の声だとはすぐに分かってくれたらしい。そしてこっちに来るのかと思ったら、むしろこっちに寄ってこいと言わんばかりのジェスチャーをされてしまった。

 別学年の教室に入るのって、なんだか不思議と妙な感覚があるんだけど、今更か。

 入ってみると感じる視線、視線。後輩が入ってくるシーン自体が珍しいんだろうな。

「どうした、渡来」

「今日の部活の件と、先行体験入部のお話がしたかったんですけど……大丈夫ですか?」

「そのことなら丁度俺らも話してた所だよ」

 考えることは存外似てるもんだな、と土井先輩は言った。

「今日は部活動はない。というか、できない。流石に休み明けの初日は活動許可がよっぽどじゃねえと降りねえんだよ」

 なるほど。

「で、先行体験入部は……、バレー部がそれをやるのは今年が初めてになる、そうだ。顧問に確認したんだけどな。だから前例がない。他の部がやってることと言えば軽い基礎練と、親睦会を兼ねたミニゲーム。俺たちにもそれならば出来そうだなって話はしてた」

「ただその場合、渡来をどう扱うかともね。基礎練の部分はもちろん参加して欲しいけど、ミニゲームに渡来を参加させると、勝敗がそれだけで決まりかねない……人数減ったら、その分だけ楽って考えるでしょう?」

「ごもっともにて」

 よくよく僕のことを理解している先輩方だった。

 あるいは僕がわかりやすすぎるのか。

「コーチとも相談するけど、だからちょっと、ミニゲームならぬ『ゲーム』にしちゃおうって話もあってね。サーブを打たせて、渡来を含む一年の守備を破ることが出来たら……とか」

「一年の、ですか」

「うん。丁度六人になるしな。実力的には確かに劣るかもしれないけれど……その分、却って渡来は動きにくくなる。だから、トントンにできるかもしれない」

 どうだろう。

 郁也くんや咲くんは言うまでも無いとして、鷲塚くんにせよ古里くんにせよ、あるいは鷹丘くんは確かにレギュラーには及ばないとはいえど、ちゃんと練習には参加しているし、僕のやりかたを知らないなんてことはない。

 ましてや体育では大体一緒だからな。親交も相応にはあるのだ。

 と言う事を伝えると、風間先輩と土井先輩は目を見合わせた。想定外、そう言わんばかりに。

「はあ。良い考えだと思ったんだけど……。ま、コーチと相談してからだな」

「そうだね。そうしよう。ごめんな、渡来。妙な気をつかわせて」

「いえ、僕のせいって部分もありますから。それでは部長、」

 …………、

「…………?」

「渡来?」

「…………、いえ、何でもありません。えっと、土井先輩、風間先輩。僕は戻りますね。そろそろ休み時間も終わっちゃいますから」

「ああ。……大丈夫か?」

「はい。何か、ちょっと……気付いただけなので。具合が悪いとかではありません」

「ならば、いいけど。気をつけろよ」

 少し心配をしてくれる二人の先輩にお辞儀をしてから、二年三組の教室を出て、自分の教室へと戻る。事実として昼休みはあと五分。そろそろ戻らなければいけない時間ではあった。

 いけない時間ではあった、けれど。

(何があったんだ?)

 洋輔。

 洋輔はバレー部の部長、覚えてるよね。

(ああ。『土井部長』、だろ?)

 そう、土井部長。

 土井先輩が部長……の、はずなのだ。

 僕もそのつもりだったから、二年三組に行った。

(だよな。それで?)

 けれどおかしいんだよ、それ。

 だって、


 鳩原部長が次期部長として指名したのは風間先輩なんだよ。


 そしてその後、先輩達の微妙な齟齬を無理矢理修正したときだって、風間先輩を僕は柱として使った。

 それは間違いない記憶であるはずだ。

 なのに現実として、今、バレー部の部長は土井部長。

 部長が替わったなんて話は上がった事も無い。

(……らしいな。近くに居たし郁也に聞いてみたんだが、部長は『土井』で間違い無いそうだぞ)

 僕の記憶に齟齬がある。あるいはこの現実に齟齬がある。

 その齟齬が起きたのは結構前……、十二月の頭くらいか?

 僕がリベロではなく、普通のプレイヤーとして参加した練習試合がある。そこでの部長は既に土井部長だった……、その前の段階で、いつまで風間先輩が部長だった?

 昌くんの家で潮来言千口に関連するものを見つけた日……、は、まだ、風間部長だったよな。あの前後で特別なことはあったか?

 うん、あったよな。潮来言千口が残した、対魔呪か呪いかはわからないけど、そういう技術が発動している。それが原因で何かが組み変わった?

 当時の僕は、洋輔も、そして他の誰だって、その違和感に気付くこと無く平然としていた。変わったことにも違ったことにも気付かずに、たぶん今だって気付けずに居る。

 これは、まるで。

(理極点からの干渉、世界からの上書き……か?)

 うん。

 理極点。世界が世界たらしめる要素。世界が正しいと認める事象。

 この理極点自体が変更されると、その周りにあるものはそれに自然に順応する。誰も気付かないうちに、変更後のそれへとすり替わる。

 理極点への干渉……理極点の任意の変更は、呪文(スペル)という技術で実現できることは分かっているし、馬鹿げたことだと一笑に付すことは出来ない。

 そういう現象が起きている、そんな可能性がある。

(だとしても小規模すぎるけどな。逆にここまで小さい変化となると、呪文でもできるかどうか……。むしろ真偽判定の方がやりやすいかもしれねえ)

 あり得るね。

 それに今回、僕はそれを『違和感』として感じることが出来てしまってる。

 理極点からの書き換えにしては、その強度がいささか弱い……、いや。

「強度が弱いと言うことは、今もまた何かが書き換わってるって可能性もあるのか……」

 嫌な結論が出てしまい、ふと声に出してしまう。

 聞かれて困るような人は近くに居ない。だから別に、問題は無い。

『どうかしたの?』

『ちょっとね。認識の書き換えが起きてたことに今更ながら気付いてさ』

『へえ。……詳しく聞いても良いかしら?』

 ただ、近くには冬華が居て、その冬華が耳ざとく僕の言葉尻を捉えてきたので、それにはきちんと答えておく。

 冬華にも理極点や表理極点という概念自体は教えてあるし……もしかしたら、何かの助言をしてくれるかもしれないし、そうでないにしても情報は共有するべきだろう。

『はあ、部長がいつのまにか変わってた、ねえ。極点の概念でそれが切り替えられるのだとしても、それをすることで意味はあるのかしら?』

『つまり?』

『何か他に本命の変化が起きているのかも知れないわよ。極点の変更による世界の上書き。強度が弱ければそれに気付ける、と、あなたが言うならそうなんでしょうけど、強度に関係なく、そもそもそれが「主な効果」としての書き換えじゃ無かったから気付けただけという可能性を私は指摘しているの』

 それはたとえば、この学校のなにか、もっと大きなものが変化していて、その変化に僕達は気付くことが出来ず――ただ、その変化につじつまをあわせるように変化した結果として部長が替わっていて、その部長の変化にだけ気付けてしまった、とか。

 冬華はそう指摘すると、『とはいえ』、と呟いた。

『そんな芸当が可能だとも思えないけれどね……私もあなたも、洋輔にも、誰にも想定できていない何かが起きているのかも知れないわ』

『そうだね。……悪いけど、冬華もちょっと気にしてくれるかな』

『ええ。そういう事ならばもちろんよ』

 その分こっちのお願いも聞いて貰うけどね、と冬華は笑って立ち去っていく。少し経って、別の生徒とすれ違った。会話を聞かれないように……って感じだったのかな。

(で、どう見る?)

 冬華の見立てが正しいかもしれない。

 僕達が気付けていない大きな変化が起きていて、それによる連鎖的な変化として部長が替わった。その部長の変化には気付けたけど、大きな変化それ自体には気付けていない。

 その可能性は否定できない。

 そしてもしもその可能性こそが正解ならば、僕達には検証することすら出来ないだろう。

 少なくとも今は。

(将来的には渡鶴を使ってできる、かもしれない、か)

 うん。将来的には……ね。

 それが出来る頃には洋輔が呪文(スペル)、つまり理極点を理解している可能性が高い事だけど、その時はその時で解決できそうだし良しとしよう。

 問題はその書き換えを誰がしたのかという点だ。

 少なくとも僕や洋輔、冬華ではない。

 ということはソフィアかな? 可能性としてはあるだろう。けれど書き換えがもし去年、十二月の頭頃に行われたのなら、やっぱりそれは時期が合わない。

 となると佐渡島で見つかったアレと同じで、潮来言千口に関連する事か? まさか本人がどうにかしたとも考えにくい、ならばあの時、昌くんの家の地下で発動したものが原因かもしれない。

 けれど必ずしも潮来言千口が原因であるとは限らない。今回はなんかこう……、妙な表現になるけれど、途方も無く大規模な、けれどすさまじく小規模な原因のように思えてならない。

 たとえば僕や洋輔のうっかりとか。

(否定しきれないのが嫌なところだな……)

 だよね。

 時間が解決してくれることを願いつつ、今は普通の生活を普通に送るべきか。

 とか洋輔と相談をしている間に教室に戻りつく。葵くんが机の上にぐったりとしていた。

 眠気と戦う心意気はとても良いと思う。

 徳久くんとかの普段はしっかりしてる子でも、眠気に降伏しているのが多いし。

「やれやれ。緒方先生が見たら『ああやっぱりこうなるかい……』ってところかな……」

「なに言ってるの、渡来くん」

「別に何でもないよ、前田さん」

 肩をすくめて隣の席、前田さんにはそう答える。

 ちなみに男子に限らず女子にも等しく眠気は訪れるようで、割合的には大差が無いのだけどそれはそれ。

 あんまり女子を観察するというのも気恥ずかしいのだ。

「ところで前田さんたちは、社会科見学、どこに行きたい?」

「うーん? 私は美術館かな。えりと由香は?」

「あたしも美術館」

「博物館も悪くは無いけれど」

 ふむ。女の子の意見が一致している、と言う事は、男子も綺麗に一致しない限りは多数決で押し切られるな……もっとも、僕もどうせなら美術館に行きたい部類なので、彼女たちの考えは渡りに船だった。

「そういう渡来くんはどうなの?」

「別に何処でも良いかなって。美術館で絵を見るのも博物館で展示を見るのも、大差は無いし」

「そうかしら? ゴッホが恐竜の化石を作ったなんて話は聞いたことが無いわよ」

「恐竜の絵画ならばあるかもしれないよ」

 いや無いか。

「というか僕、あんまり恐竜には興味が無いんだよね……」

「そうなの? 男子だし、やっぱり興味があった時期もあったんじゃない?」

「猫には興味津々だったと思うけど……、恐竜って猫じゃないでしょ?」

「…………」

 前田さんのみならず斉藤さんに東原さんまで見事に黙り込んだ。

 微妙に不服な反応だった。

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