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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第七章 やがて訪れる嵐に舵を持て
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106 - 六月初旬の共闘前に

「物質的な空間整理はあなたにも使えるのよね。その上で私に秘密を暴露して手伝わせなければ厳しいと判断したと言う事は、あなたたちが扱える空間整理はまだ、記憶に蓋をするところには至ってない感じかしら?」

「そうですね。別の技術と混ぜちゃったというのも原因だと思います」

 計画を練るに当たって、お互いに出来ること、出来ない事をまずはざっくり整理しておくことになった。

 記憶はなあ。

「魔法や錬金術も、記憶関係は苦手ですね」

「苦手と言うことは全く出来ないわけじゃないのね」

「イミテーションという魔法……魔導師にしか原則使えませんが、それで『偽りの人格を作成する』ことはできます。それと同時に主人格を一時的に眠らせるなりしておいて、偽りの人格を表に出しておくことで記憶を操作しているようにみせる――なんて荒技があるくらいですね」

「偽りの人格……?」

「性格や嗜好を厳密に指定できますよ。モデルになる人が居るならば、それをベースに作るとかも出来るらしいです。ただ、結局は『まがい物』。少しずつその人格には無理や矛盾が生まれて、最終的には例外なく破綻するそうですが、破綻するまでは普通の人間と同じように精神的な成長もできるという代物です。何かに特化させた人格とかは破綻しにくくて、普通の人間として作るのが一番難しいんだったかな……」

 融通が利きすぎるAI、のようなものだ、とざっくりした説明に、日比生さんはなるほどと頷く事で答えとした。使えれば便利そうだけれど使うシーンが思いつかない、そんな様子だ。

「ちなみにそれ、今の説明だと使い勝手がえらく悪そうだけれど、実際はどうなのかしら」

「悪用に便利ですよ。普通にゴーレムを作るだけでも簡単な作業はしてくれますけど、人格を与えておけば『考えて作業』をするようになるので」

「待ちなさい。ゴーレム? って、土人形的な?」

「そうです。土に限らず藁とか紙とか、岩とか鉄とか。結構材質は自由です。ゴーレムを作るゴーレマンシーという魔法も例によって魔導師向けの高等魔法なので行使が難しいそうですが」

「そう……便利といえば便利そうね……でも人形とかにイミテーション、でしたっけ、それを使っても意味は無いのよね」

 そりゃそうだ、と頷く。

 もっとも。

「敢えて意味を見いだすならば、その作り出された人格が『人形に閉じ込められた人格』として成立しうることですか。人形は動けない、だからその人格はすぐに破綻すると思いますけど、その破綻に至るまでの精神情報をなんらかの方法で抜き出せれば何かの役に立つかも知れません」

「良い趣味してるわね……」

 ごもっとも。

「でも今の、微妙に引っかかるわ。『人形は動けない』。つまり、動く事が出来るならば多少は意味があるのかしら? 機械人形だとか」

「一応、全くの無意味じゃないみたいです。ただ、機械人形の動く仕組みを術者が理解していないと、結局動かし方をプリインストールできないので、破綻する方が早いそうですけど。あと、ただの人形でも、ゴーレマンシーを間に挟めばスムーズに動くようになりますよ」

「あ、うん……」

「ただまあ、基本は生きている人間、せめて動物の身体に使う魔法ですね」

 死んでいる人間に叩き込むのは人形と同じだし。

「死んでたら動かないものね――って、うん? またひっかかる言い方ね」

「死体を作るのは大変ですが、生きてる身体を作ることは錬金術では一定以上の力量があれば簡単なんです。冬華の今の身体も僕が作ったものですね。ただ、錬金術だと魂が作れない。だから生きているだけで、最低限息はするし心臓も動くけれど、何も食べず飲まず、ただ死んでいくだけの身体にしかなりません。ただまあ、その状態って『何も命令が入っていないゴーレム』のようなものらしく、そこにイミテーションを入れると簡単に人間をでっち上げられます」

「…………。冬華はどうなってるの?」

「彼女はイミテーションじゃありません。本物の魂魄です。異世界から地球上に渡ってきた魂魄を本人の同意を得て材料として、本人の本物の身体に戻してあげた感じ――まあ、このあたりは近く、冬華本人も交えて少し話しましょう」

「ええ」

 記憶の話からずいぶん脱線したな。

 ということで話を戻して、っと。

「ともあれ、僕達は自分たちの記憶ならば多少は誤魔化せるけれど、他人の記憶は原則いじることができない。そう考えて下さい。日比生さんはどうなんですか?」

「記憶そのものを『与える』ことは無理ね。『蓋をする』程度ならばできるわ。ただ、封じ込めるのではなく蓋をするという表現で収まってしまう程度でしかないから、ある程度の持続は出来ても完全に封じるのも無理。それと『奪う』わけじゃないから、相手の記憶は当然読めない。イメージ的には『特定期間の行動を暈かす』感じよ」

「定期的に重しをかけないと思い出すって事ですね。田崎辰德さんを思い出しつつあるように」

「ええ。期限を一ヶ月と区切って良いならば、そこそこ重くできるわね。その後すぐに『なんで忘れてたんだ』ってなっても良いならばだけれど」

 使い勝手が良いんだか悪いんだか。

「私の空間整理は、心理的な刷り込みをよく使うのよ。赤い光は止まれの合図、青空は気持ちが良くて曇天は気持ちが落ち着かない、そういう細かい積み重ね。空間整理の基本をそのまま昇華しただけ――ここに魔法やら錬金術やら、あなたたちが持つ力を付与できれば多少の改善もできるでしょうけど、今回は間に合いそうにないし。重しは私がかけるわ」

「お願いします」

「で、このことは日にも伝える。どうせ日は見分けてしまう。ならばいっそ重しの足しになって貰うべきよ。これは私からお願いするから安心して頂戴。それと対象だけれど、昌、晶、村社郁也、それにこの病院の主な従業員で良いかしら? それ以外でも、学校くらいならばフォローして上げても良いわよ」

「して頂けるならば楽が出来ますが、結構無理をする形ですよね?」

「無理……とまでは言わないけれど、まあ、疲れるわね」

「じゃあ、お願いします」

「ええ。そうよね。無理は良くな……い? あれ? 普通は今の、じゃあいいですって所じゃないかしら? 疲れるのよ」

「ええ。疲れるんですよね」

 ふぁん、と疲労回復薬(ハタラケくすり)を作成。

 尚、エリクシルをベースに疲労を取り除くことだけに特化したこの薬は地味に使い勝手が良かったりする。

「疲れたら飲むなり皮膚に軽く付着させて下さい。全身の疲労が消えます。一滴でも一瓶でも服用量にかかわらず効果は一定ですから、沢山使えますね」

「え。いや、だから、」

「疲れるのはそれでなんとかなるんですから頑張って下さい。なあに、その一瓶あれば一年間走り続けても大丈夫ですから。ファイト」

 ファイティングポーズを取りながらファイト、と繰り返してみた。

 日比生さんはがっくしと頭を揺らして、まあやるけれどねえ、と頷いた。

(お前も中々チャレンジャーだよな)

 だって日比生さんだもん。

(まあ……)

 というわけで。

「ちなみに時間が足りないとかそういうのはありますか?」

「そうねえ。まあなんとか作るしかないけど……」

 ふぁん、と睡眠効率増加薬(スリープ・シープ)を作成。

 これは睡眠を深く短く済ませるための睡眠薬と治癒薬の混合体だ。

「これを使って下さい。服用時は必ずベッドや布団などで。飲んでから五秒程度を目安で寝ますから。で、きっちり三十分で目が覚めます。それで通常の八時間程度の睡眠と同等の効果があるので安心して下さいね。こっちも一滴でも一瓶でも服用量にかかわらず効果は一定ですが、あんまり濫用すると常習性が出る恐れがあるので」

「え、それってまずいわね?」

 ふぁん、と薬物中毒解除毒(アンチドラッグギフト)を作成。

 その名の通り、薬物への中毒状態を強制的に解除するという毒である。

 これ自体は薬ではないことが錬金術的には重要で、それ以外にはどうでも良いことだった。

「その時はこれを服用して下さい。例によって一滴でもオッケーです。あらゆる薬物中毒を強制的に解除する毒薬になります。ちなみに覚醒剤やマリファナなど効果が確認出来ていますから、お仲間で困っている方が居たら使ってみても良いかもしれません。一瞬で辞められます。たばことかお酒にも一応ききますね。その辺は常習性を消すだけですが」

「……ねえ、渡来くん。あなたの作る道具って、大概この世のあらゆる問題を解決しうるんじゃないかしら?」

「僕がどうしてもこの世のあらゆる問題を解決しなければならない状況に陥ったならば、僕と洋輔と冬華以外は全員死ぬような道具を作るでしょうね……」

「お願いだからその時は私も混ぜて頂戴」

 辞めて頂戴とお願いする方が良いと思うけど……。

 存外、日比生さんもこの手の冗談が通じる人なんだよな。

「まあ、良いでしょう。今後のためにも、あなたたちに出来ることのリストが欲しい……というのが本音だけれど、リストアップしたとして、百科事典程度で収まるかしら?」

「無理です」

「そうよねえ……。じゃあ今度、『こういうことは出来ないか』ってリストを出すから、それに答えて貰うって形は良いかしら」

「はい。出来る、出来ない、解らない。色々と答えが出ると思いますが、それでよければ」

「商談成立ね」

 日比生さんは僕が作り出した様々な道具を鞄にしまい、僕に告げた。

「誘導はこの後すぐに始めるわ。けれど、日とクロットとの合流が優先。今日いっぱいは大人しくしておいて頂戴。そうね、例の隠れ家(セーフハウス)にあなたと、鶴来くん、それに冬華もつれて集合しておいてくれるかしら。もちろん、他の二人は学校優先で良いわ」

「わかりました。学校が終わったら適当な理由を付けて集合しておきます。そこで日比生さんの名前を使うと思います」

「その方がスムーズね」

「それとあの家、あれから家具増えてませんよね?」

「…………」

「一通り作っちゃいますから。もう隠す意味もないし」

「ああ、うん……。そうね、あって困るものでも無いわ」

 とりあえず机と椅子とソファくらいは作っておかなければ話にならない。

 ついでに防音措置とかも済ませてしまおう。

 早速日比生さんは作業に入るようで、すっとそのまま病院の屋上から病棟へと戻っていく。

 一方で。

(で、どこまで話すつもりだ?)

 と、僕は僕で、洋輔と内心相談を開始。

(全部を教えるつもりもないんだろ。もしあるなら、ソフィアに関連する事も言ってるだろうしな)

 ごもっとも。

 錬金術による物質の精製はだいたい教える。

 けれど作れる道具には結構な制限を掛ける。

 魔法も同じかな……リザレクションとか、筋力強化系は内緒の方面だね。

(ん……? 前者はともかく、後者もか?)

 実際洋輔は苦手な部類でしょ。

 魔法使いの上位互換として魔導師をでっちあげる。それ自体も決して嘘じゃないし。

 で、その上位互換である洋輔でさえあまり使えないんだから、基本的には使い物にならない。そう表現しよう。

(その意図は? あんまり意味があるようには思えねーぞ。それに魔法の存在からお前の動きのおかしさは察知されるし、お前の怪力を説明付ける形で筋力強化とか、そういう補助系の魔法は実は存在する、って判断されるんじゃねえの?)

 判断されたらその時は答えるよ。

 その上で『魔王だからできる』と答える。

 個人の素質ではなく状態の問題としてね。

 で、意味は単純。

 筋力強化を使われたくない。

(…………?)

 あの手の常時発動系の魔法は常に渦を発生させるからね。

 強度次第では他の魔法の渦を掻き消しちゃう可能性がある。

 他人が魔法や錬金術をそもそも習得できるかどうかって問題はあるけれど、習得できた場合だって、それの最終的な制御装置が必要になる。それは僕であり、洋輔であり、冬華なんだ。

 習得できなければそれでよし。

 習得されたらその時は、まず間違い無く魔法や錬金術から変質する。

(俺たちが空間整理を歪めたように?)

 そう。

 その変質を見極めた上でどうするかを考えなきゃいけない。

(けれどそれは、一方的に利用するようなもんだな)

 それは向こうも同じだよ。

 日比生さんも空間整理の全ては僕達に教えていない……というより、空間整理という技術それ自体が、日比生さんが行使するそれを一部だけ切り取ったものなんだ。もとより、喫茶店(パステル)との取引で手引きを用意したってのが最初で、僕達は直接日比生さんから教わったわけでもないし、日比生さんがその全ての技術を伝えたとも考えにくい。

 ……というか。

 伝えようとして伝えられるのかさえ怪しいものだ。

 日比生さんしかり。

 僕達しかり。

(……まあ、そりゃそうだな。その技術を使える奴らが、必ずしもその技術を教えられるとは――限らない)

 うん。

 ……実際、錬金術ってどうやったら教えられるのかなあ。

 錬金鍋は用意しておくとして……僕の場合最初は勘だったからなあ。テキスト無しで覚えたって意味では一番役に立ちそうだけど、才能次第だし。お師匠(イスカさん)もそれを聞いて呆れてたし。

 だからといって現代錬金術から順を追ってやらせるとなると三年計画だぞ。

(魔法も最初の魔力の把握が滅茶苦茶面倒だからな……。つーか、その辺は冬華にも聞いた方が良い)

 そうだね。

 効率的な習得法とか、あるいはそもそも使えるのかどうかとか、冬華なら知ってるかも。

 とりあえずは屋上のパラソルを撤去、テーブルセットも畳んで鞄にしまい直し、今後の行動を思い描く。

 長くて一ヶ月。

 実際には二週間程度で、ソフィアとの接触を目指す。

 そして、呪文を発動に漕ぎ着ける――けれど。

(呪文による現実改竄。それは良いとして、日比生さん達をどうするか、だな)

 そうだね。

 仲間にしたという事実さえ、改竄でなかったことにはできるだろうけれど……出来れば仲間で居てほしいし。

 悩ましい所だなあ……。

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