表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第七章 やがて訪れる嵐に舵を持て
106/111

104 - Show ONE's True

 行動とは言うまでも無く『猫と少年』の獲得だ。

 晶くんを治してしまった以上、あの現象は西側(ルイス)東側(パステル)も追求してくるだろう。

 あの病室で起きた事を確認し、そしてそこに僕が関連していると言う事に明確な証拠が揃えばすぐにでも……あるいはその前の段階でも逸る可能性は否定しきれないけれど、当面は外堀を埋めてくるだろう。

 けれどその時間的な余裕が一ヶ月あるかどうか……微妙だな。その辺は空間整理などを利用して多少時間を伸ばしうるけれど、それでもその程度で事は露見すると考えた方が良い。

 期限を区切ろう。

 二週間以内に『猫と少年』を獲得し神智結晶を入手。

 その後三日以内で神智術の発動を試み――今月中に呪文(スペル)の行使までこぎ着ける。

(結構ギリギリなスケジュールになりそうだな……)

 けれどやらないと、僕や洋輔だけならばともかく、晶くんや昌くん、郁也くんも巻き込む格好だからね。

 それにギリギリなだけで不可能というわけでもない。

(……かなり力業になるな。呪文の前準備は俺がやるとして、となると神智術の発動は佳苗任せか)

 適任といえば適任だろう。

 もともと神智術は錬金術のほうが似ているし。

 というか魔法が存外漠然としてるんだよね。

(俺に言わせれば錬金術は漠然以前の問題だがな?)

 見解はどうやら一致しているようだった。

 じゃなくて。

(ん。『猫と少年』を獲得するとして、どうするよ。夏頃までに云々ならば国立美術館を動かせそうだったんだろう?)

 そ。例の学芸員さんと渡りが取れたんだよね。

 で、博物館側にとても珍しい宝石、具体的には超大粒アレキサンドライトを『寄贈』する条件として『猫と少年』を初めとしていくつかの絵画を美術館側で展示を行うこととすることで条件が纏まりつつもある。

 ちなみにこの取引、僕が宝石を博物館に与え、博物館はコネを美術館側に与えるという又貸しなので、纏まりつつあるだけで、実現までにはもう少し説得が必要で、だからこそ夏頃、それも九月に入るかどうかって所だった。

 今は六月、二週間で無理に交渉を纏めたところで、輸送が間に合わない。よってこの手段はご破算だ。

(学芸員さんはがっくりだろうな。折角手に入るかもしれなかった宝石が無しになる)

 いやそれは別件であげるつもり。コネクションはあって困らない。

(あ、はい……)

 で、正規の手段で『猫と少年』と対面するとなると、発想を逆にする必要がある。つまり僕が正規の方法でポーランドに旅行するという可能性だ。

 ただしこれについては以前も言った通り、僕は旅券を発行していないし、突然ポーランド旅行に行きたいといっても親が許可しないだろう。部活を出汁にするならば演劇部で、緒方先生ならば事情をある程度ぼかしても手伝ってはくれるんだろうけれど、旅券の発行が間に合わない可能性が高い。間に合ったところで今から飛行機とホテルって取れるのかな? 厳しそうだ。

 よって正規の方法でポーランド旅行も却下。

 なので不正な方法でポーランドに向かうか、不正な手段でポーランドからこっちに送らせる事になる。

 どちらにしても喫茶店(パステル)に貸し一つだなあ……。

(向かうには旅券がないんだろ?)

 喫茶店を使って外交員の息子をでっち上げて、それに僕がなる。多少変装すれば誤魔化せるし、僕達の場合は変装というかその気になれば変身だってできるでしょ。

(まあ……)

 で、不正な手段でこっちに送らせるとなると、これも喫茶店のネットワークを使って強盗して貰う事になるんだけど……。こっちのほうが高いよね。

 となると外交員の息子をでっち上げか……。

(対価が張りそうだな、随分)

 エリクシルで黙ってくれれば良いんだけどね。多分無理だろう。

 何か他に別の方法はあるかな?

(自力で密入国はどうだ?)

 距離的にポーランドは遠すぎるんだよね。

 普通の飛行機で十二時間くらいかかるでしょ?

 僕達が安定して出せる空中速度はマッハ6程度。瞬間的にはこれを上回るとは言え、ポーランドまでは一時間かかる。一時間で済むとも言えるけど、光学的にはいくらでも誤魔化せたとして、ソニックブームまでは処理が漏れると思う。

 で、最短距離を行くとするとユーラシア大陸を横断するわけで。中東をそんな速度で未確認の飛行物体が飛んだ日にはそれを敵国の秘密兵器と見做した戦争が起きかねないよ。

(そりゃそうか……ていうか、当然のようにマッハ6出るって所に同意しちまったけど、大概だよな俺たちも……)

 外部への影響を考えないならもっといけるんだけどね。まあそれはそれ。

(いっそ宇宙空間使うか?)

 洋輔。

 ソニックブームと光学的不可視のレーダー反応で戦争が起きかねないんだよ。

 宇宙空間を使うって、それ、発想が弾道ミサイルだからね。戦争が起きかねないじゃなくて起きるからね、十中八九。

(ああ、そりゃそうか……)

 ソフィアが居ればなあ。光輪術でなんとか塔を建てて、神智術の因果逆転で強制移動とかできるんだけど。

 もしくは呪文を使った極点干渉型の瞬間移動をするには呪文がまだ使えないし。

 ままならないものだ。

(つーか極点干渉の瞬間移動って恒星間移動用だろうが……)

 まあね。

 …………。

 うん?

(……ああ、お前もか。なんか引っかかるな……)

 だよねえ。

 なんか僕達だけでも何らかの方法で実はポーランドに移動できるんじゃない?

 瞬間移動は錬金術と魔法で実現できないと思ってたけれど……実はそうでもないとか?

 けれど空間に干渉する類いの錬金術は制約が大き過ぎるし、魔法にもまず無理だろう。

 でも、僕が何か見通している……のかな?

 だとしたら……なんだろう。換喩か?

 換喩を上手く使って、ここをポーランドと繋げる、とか……。

 いや、無理だよな。

 何かもっと根本的な見落としだろうか?

 どこでもなんたらが実は作れるとか。

(それはお前とソフィアが全力でやっても無理だった……んだよな?)

 うん。

 ただ、あの時は気付いていなかった応用とかが……いや、だとしても無理だ。

 位置情報に干渉すると言えばロジスの槍とティクスの籠だけど、あれは生命体を移動できるようなものでもないし。

(位置情報ねえ……、GPSとかを誤魔化したところで、別に俺たち自身が移動できるわけでもねえからな)

 そういう事。

 大体、錬金術による生命体の瞬間移動はまず無理だ。

 まだ魔法の、緊急脱出の悪用のほうが良いだろう。

(それもちと範囲的にキツイぞ)

 知ってる。

 他で位置に干渉するといえば、ティクスの籠みたいな完成品の位置指定……。

 …………。

 一つ、思いついたけど……。

(……いや、その方法はどうだろうな)

 実現性って意味では可能だろう。

 実用性もそこそこあるとは思う。

 ただ、倫理的にどうかって話だよね……。

 僕の身体を錬金術で、僕の精神のコピーを魔法、イミテーションでそれぞれ現地に作成。

 僕の複製体に神智結晶を抜き出させて、現物を日本に……いやどうやって持って帰るのかが問題だなその場合。

(ああ、確かに。なら却下か)

 …………。

 もう一つ、その発展として思いつく方法もあるにはある。

 渡鶴を使うんだよ。

(再現するって事か? それだと無理って結論が……)

 いや、もっと直接的に動かす。

 渡鶴を現地に錬金術で移動生成。

 『猫と少年』を確保させて……、いや、結局持ち帰るのが大変なのは同じか。

 それならばゴーレムに頼るよりも、自分でやるほうがまだマシだ。

 問題になるソニックブームはそれを軽減ないし発生を阻止する道具を作れば良いし、レーダーとかの反応も空間整理の応用を道具に落とし込めればなんとかなりそうだし。期間的にも一週間くらいでなんとかなるだろう。

(結局かなりの力業だな……、まあ、俺もそれがいいと思う。これ以上別の方向に貸しを作ると厄介だろ)

 だよね。

「渡来くん。ちょっと良いかしら」

「……日比生さん」

 とまあ。

 そんな考え事を病室の外、先ほどまでは昌くんと郁也くんが座っていたベンチに座ってしていたら、急遽駆けつけた様子の竪川日比生さんに声を掛けられた。

 思ったより時間が掛かったな。

「僕も丁度お話をしたい所でした。場所を移しても?」

「ええ」

「なら、屋上に」

 僕は荷物を一応持って、日比生さんと一緒に階段を上る。

 その間、彼女は特に話しかけては来なかった――そりゃそうだよな。僕がしようとしていることを、彼女はよくよく知っているだろうし。

 ていうか手伝ってくれてさえ居るな、これ。

 有り難く利用させてもらおう。

 無事に屋上に到着したら、人目がないことを確認してから鞄に手を入れる。

「今更説明もいらないとも思いますが、空間整理による人払いは済ませました。お手伝いに感謝を」

「別にそれは良いわ。で、……そのパラソル、よくその鞄に入るわね……」

「良く言われます」

 鞄から取り出したのはビーチパラソル。

 テーブル付き。

「いやテーブルまでついてるの?」

「便利ですよ、このコンパクトセット」

「学校に持っていくものかしら……」

 思いっきり呆れられたけれど、とりあえずテーブルとパラソルを展開。

 病院の屋上に突如あらわれたそれは違和しか生まないはずだけれど、そもそもこの場所は現在、僕と日比生さんによって空間整理が実行済み。

 よっぽど疑りながら探らない限り、そもそも到達さえ出来ない、そういう場所になっている。

 そしてパラソルの内側に僕は入り、日比生さんにもそれを要求すると、少し考えるような素振りを見せてから入ってきてくれた。

 簡易のテーブルセットを挟んで、パラソルの影の下で僕達はあらためて顔を見合わせる。

「晶くんの治療は僕が行ったと言うよりも、厳密には治療が出来る薬品が存在し、それを使用しました」

「単刀直入ね。少しは誤魔化すかと思ったんだけれど」

「意味が無いでしょう」

「まあ……ね」

 更に鞄から、僕は小瓶を三つ取り出す。

 全て中身はエリクシル――品質値は並、ただし黄色のエッセンシア、カプ・リキッドの性質を与える細工を行っている。

 その性質とは、『使うと無くなる』、というもの。

 ……まあ、普通のエリクシルって、水で希釈したりしても最低限の品質値さえ確保できているならば効果が見込めるんだよね。ましてや晶くんに使ったような六桁もの品質値があれば、一瓶で千人くらいは余裕で治しきれる。

 けれどまあ、それでどんどん増やされたり解析されても困る。

 一方でカプ・リキッドが持つ効果は『触れた対象に品質値分の魔力を与える』で、副次的な性質として『少しでも触れたらその道具全てを消費する』というものがある。

 この性質の部分だけをエリクシルにうつしてやると何が起きるかと言えば、至って単純。一滴でも誰かを癒す目的で使われると、その時点で残り全部も消滅する。『使うと無くなる』のだ。

 以前少しだけ喫茶店(パステル)に毒消し薬などを流した際にも使った応用である。

「これがその現物です。使ったものと比べて品質的には多少落ちますが、それほど効果に差はありません」

「効果ね。効果って具体的にはどうなるの?」

「全ての傷や病をはね除ける。…………。ゲーム、やったことは?」

「ゲーム? まあ、あるわよ。前も答えたような気がするけれど」

「じゃあ、体力全回復と全状態異常解除だとでもざっくり認識して下さい」

「エリクサーか……」

 そうとも言う。

「けれど、そんなものが実在するとも思えないわね」

「これは日比生さんに差し上げます」

「殊勝な心がけだけれど、上もほしがるわね」

「さあ。上はこの場面を見ていないし見られませんから、いくつ渡されたのかは解らないでしょう?」

「…………。そうね」

 その上で。

「で、ピンハネをするにあたって、私は貴方に何を提供するべきかしら?」

「一ヶ月の期限付きで構いません。今回の一件。治癒の一件を隠す手伝いをお願いします。僕も全力で整理はするつもりですけれど、限界がありますから」

「一ヶ月か。…………。一ヶ月持てばあなたは何か手が打てる、そう言うことなのね」

 …………。

 分水嶺――かもな。

(俺は)

 洋輔は、ただ静かに心の中で呟いている。

(どちらでもいいと思う)

 色別は青。

「日比生さん。その件も含めて、相談があります」

「相談。相談ね……交渉の間違いではなくて?」

「交渉という意味合いもある相談です。僕達と共闘しませんか?」

「『僕達』という主語は曖昧ね。具体的には誰なのかしら」

「僕と洋輔。そして、来栖冬華」

 ふぁん、と。

 音も姿も隠さずに、錬金術を行使する――まあ、空間整理をされた場だからこそだけれども。

「僕と洋輔が去年の失踪中に何を知ったのか。『来栖冬華』はどこから来たのか――それを全て、教えます。なので、日比生さんの力と知恵を貸して下さい」

「……それをすることで私が得るメリットは?」

「僕と洋輔、そして冬華とも、少なくとも敵対しないこと。場合によっては僕達が行使しうる範疇で、あらゆるお手伝いも出来るでしょう」

「聞き方を変えましょう。断ることで私が被るデメリットは?」

「僕達は何もしません。このまま立ち去って頂いても、困りますけどやむを得ない。無理に口封じをしようともしませんよ――ただまあ、ここでの提案は全て無かったことにします。次の機会はありません。敢えて言うなら、それがデメリットですか」

 洋輔はどちらでも良いと言った。

 ならばここは竪川日比生さんと日お姉さん、そしてクロットさんを、僕達を主体として抱え込むという選択肢を取るべきだ。

 味方は――増やさなければならない。

「それが佳苗くん。あなたの答えだというのなら、私からも一つ要求というか、確認があるわ」

「はい。なんですか?」

 僕は覚悟を持って、だから問いに備えた。

 けれど。


「あなたは人間なの?」


 それは心構えをすり抜ける、思いがけない問いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ