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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第七章 やがて訪れる嵐に舵を持て
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101 - 新生活の新役職

 5月24日、水曜日。

 バレー部の地区大会初日は無事に全勝で済ませた翌週に行われる学校行事こそが、生徒総会だ。

 この会では新生徒会役員の立候補とその投票が同時に行われる。

 制度的には立候補者が一週間前、つまり17日に立候補届けを選挙管理委員会に提出し、18日に公示、ほぼ一週間の選挙活動を経て今日、生徒総会において新役員を決定する選挙を実施する。

 で、今回の生徒総会において役職・人数・立候補者を上げると、次のようになる。

 生徒会長、一名、二年四組那賀川(なかがわ)(あい)

 生徒副会長、一名、二年二組佐藤(さとう)徳久(とくひさ)

 会計、一名、一年四組滝川(たきがわ)ゆうや。

 書記、二名、二年三組石居(いしずえ)当麻(とうま)、一年一組寺島(てらしま)勇実(いさみ)

 助役、一名、二年二組渡来(わたらい)佳苗(かなえ)

 校則によって定められる生徒会役員はそもそも会長、副会長、会計、書記の四職だけれど、人数が明確に指定されているのは会長の一名のみで、副会長、会計、書記に関しては二人以上が選ばれる事例が何度かあって、今年も書記が二人になっている。

 当初、僕は会計もしくは副会長に立候補するのが良いのではないか、と教員側では考えたそうだけれど、どちらに着いたとしてもそもそも僕が『名ばかりの役員である』という認識があり、更にもう一つ暗黙の諒解に引っかかるため、却下。

 次に役職の新設を考えた時、もの凄く角が立つという事は明白で、ならばいっそ明確に広報や助言者(オブザーバー)という役職を作ってしまおうという話も出たそうだけれど、ギリギリまで検討した結果、実は十二年前などに緊急避難的に『助役』という役職が存在していたことが判明。ならば新しく作るよりも昔あった役職を持ってくる事になった。

 で、助役とはなんぞやと言うと、これは僕を会計や副会長に付けようとしたけど却下される理由になった暗黙の諒解も関連するので、まずはこの暗黙の諒解について。

 同役に二人以上が着任する場合、その性別を偏らせてはならない――である。

 つまり、副会長、会計、書記に関して、二人以上が着任する場合、役職事に男女を均等に近づけるという決まりで、たとえば書記は石居さんが女子、寺島くんが男子となっているように、副会長は佐藤くんで男子、会計も滝川くんで男子だから、もしも副会長や会計に二人目が着任するならば、それは女子でなければならない。

 でもまあ、必ずしも毎回調整がすんなりできるとも限らないわけで、場合によってはどちらかの性別に偏って二人が推薦されてしまう、なんて事もある。そういうときは他の役職と融通をしたりもするそうだけれど、どうしても両立したい……と言うときに出てくるのが、『助役』である。

(長え)

 ごもっとも。

 でももうちょっと続くので我慢して欲しい。

 ともあれ、副会長、会計、書記に二人以上同性が推薦されたときに、助役という役職を緊急避難として使うのだ。で、その助役には明確に指定された役割がない。敢えて言うなら『生徒会長に対する補助役』であり、つまり生徒会役員としてワイルドカードの立場に立つ。

 だから、助役と一言で言っても、副会長として仕事をする子もいれば、会計として、あるいは書記として仕事をする子もいる。

 じゃあ今回のケース、つまり僕はどうなのか。これはとても単純で、『学校内での仕事は基本なし』である。

 基本は名前を載せるだけ、時々商店街の対応に当たるのが役割で、それ以上は一切求められない。名ばかりの役員としてもこの『助役』という立場は使い勝手が良いのだ。

(……ふうん? けれどそんな役職があったなら、なんで真っ先に提案してこなかったんだろうな)

 その答えもまた十二年前の前例にある。

 というのも、十二年前の『助役』前任者が大きな問題を起こしたのだ。で、その問題の責任を取る形で『助役』の廃止が決定された。ちなみにこの廃止を強く求めたのが当時、保護者会の会長さんだった人で、同時に問題を起こした『助役』の親だ。

(問題ってのは?)

 罪状で言えば逮捕・監禁致傷ともう一個つくかな。

 当時はまだ少年法の適応年齢だったから、あまり大きくは報道されなかったようだ。

(……逮捕監禁致傷……、って。どういう状況だよ、それ)

 あんまり詳しい情報は残ってなかったんだけれど、当時その助役の子は大層勤勉な子だったそうだ。で、その勤勉さから助役に推薦されて、着任した。けれどその子ととても仲の悪い子が居て、喧嘩までは行かなくともすれ違うだけで険悪なムードになるほどだったんだって。

 で、その事件が起きたのは七月。とうとうその子がぶち切れた。使える権力を使って状況を整え、仲の悪い子が放課後に一人で倉庫に向かう状況を作り、その倉庫に閉じ込めた。

(なるほど……)

 いやまだ核心に入ってないよ。

(は?)

 倉庫に閉じ込められたその子は誰かに閉じ込められたという事を理解した。けれどその相手が助役の子だとは確信できていなかったし、どころか二十分もしないうちに、その助役の子が倉庫の鍵を開けた。『助けた』んだよ。で、助けてくれてありがとうと素直に感謝を述べた。

(いい話……のような、いやでも原因は助役だもんな。……あれ?)

 そう。で、その感謝に助役は『思っていた反応ではない』と激昂。

 倉庫を出て一安心したその子を殴りつけると、ノーガードだったその子はあっさりと床に倒れ、その時軽く頭を打って気絶しちゃった。それを見た助役は倉庫にその子をもう一度運び混んで、逃走できないように縄跳びで縛り上げた。ついでに簡単には逃げられないように着ていた服は全部脱がして、シャツを猿ぐつわ代わりにして声も封じてね。

 で、助役くんは『何事もなかった』と学校側に報告。勤勉だった助役くんはそれを疑われることもなく、放課後をそつなく終わらせ、自身も帰宅したと見せかけて倉庫に戻って、誰かが見に来ないかを観察していた。八時を過ぎて消灯があり、殆ど人気が無くなったところで、ここまでの鬱憤を晴らすように助役くんはその子になかなか表現したくないような、手酷いことをしたわけだ。概ね想像通りだと思う。

 だから罪状的には、逮捕・監禁致傷と、強制わいせつ罪になるのかな? 少年法バリアが有効だったらしく、実質的には放校処分だけだったけれど。

(…………。いや待て。『詳しい情報は残ってなかった』んだろ。なんでそこまで知ってるんだよ)

 気になったから調べた。

 というか渡鶴で現場を見た。

 なので何なら当事者以上に詳しいかも知れない。第三者視点で一部始終を完全に観察してきたワケだし。

(……お前さあ。あれだよな。全国の探偵とか警察が涙目になるやつ)

 いやあ、どんなに整合性がとれる目撃情報であったとしても、その場に僕がいられる理由がないのだから、証言者にはなれないだろうし、一切証拠にもならないよ。残念ながらね。

(サイコメトリー系の超能力者が探偵をやってるみたいな感じか)

 そうそう。

 でもあれって冷静に考えると著しい人権侵害じゃない?

(自分がやってる事だからな?)

 僕は良いんだよ。魔王だし。

(都合の良いときだけ都合の良い言い訳をするんじゃねえ……。で、その顛末は?)

 んっと、事件が発覚したのは翌朝。

 助役くんと被害者がどちらもその前日に家に帰ってこなかった、ということを知った学校側が、その二人の仲の悪さから若干の疑いも持って調べたところ、気を失っていた二人を発見して、学校としてこの事件を解決することを両サイドの親に認めさせた。

 結局は警察のお世話になって、加害者側の親が『まさか息子がそんなことをしたとは』、そんな論調を取りつつももしも自分の息子がそれをしたのだとしたら、その原因は中途半端な権限を与えた学校側にもあるのではないかと責任転嫁、って流れだ。

(あー……。…………。そう考えるとお前を助役に持っていくのも勇気が要るな……)

 そうだね。

 けれどそれは『真相』をある意味で知り得た僕達だからこその結論だとも言える。

 何せこの事件、明確に何があったのかを知っているのは当事者と、当時この学校に勤務していた教員だけなのだ。そして事件の内容が内容だけに、全員が口を噤んだから、『何かがあったのは間違い無い』けど『何があったのかはわからない』、そういう状況なんだよ。

 当然、当時の教員はもう一人も残ってないわけで、事件を知っている者がいない。だから『復活』という考えが出たんだろうね。訳ありで一度は廃止されたとはいえ、それだけだから。

(ふうん……)

 ちなみにこの当事者、被害者側にせよ加害者側にせよ、どちらもこの街から随分前に離れている。なのでここで助役というものが復活したところで、あえて突っ込んでくる人は居ないと思うよ。どちらも風化を望んでるからね。

 生徒総会はそつなく進み、役員選挙の投票を済ませたら一端解散、選挙管理員会と現職の役員、及び立候補者は体育館内で待機。

 選挙管理委員会が開票作業を実行し、結果が出るまでを壇上から眺め、最終的な結果は移動型放送施設を利用して全校にアナウンスされるのである。

「選挙の開票結果。無効票、六。他は有効と判じます。全候補者について、委任が決定しました」

 事実上の委任投票、というわけで、そんな表現になるけれど。

「よって、本日、十四時二十分を以て、生徒会長、那賀川。副会長、佐藤。会計、滝川。書記、石居、寺島。助役、渡来による、新生徒会役員が正式に承認されることを、選挙管理委員会として発表します。詳細の数字や、新体制に関する情報は各クラスにプリントを配布するほか、各学年フロアに掲示されます。追ってご確認下さい。以上を持ちまして、生徒総会を終わります」

 この宣言が行われた後、選挙管理委員会の委員会長が近寄ってくると、一枚の紙が広げられる。まずは旧体制の皆がそこに署名をしていくと、次に新体制側の皆が、それぞれ指定された欄に署名。

 全員の署名が揃ったところで、選挙管理員会はそれを教員に提出し、本当の意味で生徒総会は全行程を終了したのだった。

「役員の引き継ぎ作業は今日から暫く時間を掛けて行うことになるわ。暫くは大規模な行事もないからね」

 とは那賀川さん。

 尚、球技大会や体育祭は旧体制を主体に、新体制側もそれを手伝う形で運営されているし、既に引き継ぎは始まっていたりするんだけどね。

 ちなみに球技大会、体育祭共に無事勝利を収めた二年二組である。

 まあ、どっちも割とギリギリだったけれど。

 でも不正はなかったのでセーフ。

「ちなみに新体制が単独で行う最初の行事は文化祭。それまでは前体制側からのサポートも貰えるって。けれど、あまり頼りすぎずになんとか私たちでやってみましょう」

「はい」

 さて。

 折角なので新生徒会役員として仲間になる皆について軽く解説を入れておこう。

 生徒会長となった那賀川さんは男子と女子の両方から信頼されている、希有なカリスマ性を持った人物だ。ただしその分彼女を苦手とする子も多い。もっとも、その苦手というのは彼女のいけいけな性格が苦手と言うだけで、彼女の決定に意義を持つと言う意味ではない。成績は上の中、女子の中で上位ながら、トップ争いをするような立場にはない。ただし運動も得意だ。

 副会長の徳久くんは友達なので割愛。

 会計についた滝川くんは、僕と同じくらいの身長の子で、生真面目が制服を着ているような子という第一印象を誰もが抱くだろう。けれど実際に話してみるととてもユーモアに溢れるというか、ノリが軽い。じゃあ生真面目なのは見た目だけかと言えばそんな事も無く、軽いノリに見合わない計算高さがある上、単純に成績もよい。そんなキャッチーさと有能なところが評価され、役員に選ばれたそうだ。

 書記は石居さんと寺島くん。

 まず石居さんはお昼休みに図書室で本を読んでいても何ら違和感のないような、大人しそうな女子である。実際そういう事も多いそうで、あれで時々図書室に訪れる洋輔とは面識があるほどだった。ちなみにとても大人しそうな見た目から引っ込み思案に思われがちだけれど、おしゃべり好きな子で、様々な分野に知識を持っている他、雑学系も得意という知恵袋的な人物だ。

 で、寺島くんはとても温厚で、けれど積極的にいろいろな分野に手をだそうとしている子だ。勉強と比べれば運動が得意で、けれど特別飛び抜けて何かが得意というわけでもない。広く浅くを徹底している……、というわけでもないだろうけれど、広く浅くあらゆる分野の平均付近にある子という感じだからこそ、『全体的に成績が良い部類』の生徒会役員の中で、一種の規準としての役割も期待されているらしい。本人もそんな事がお手伝いになるならば、と快諾したそうだ。根っこから良い子なんだよなあ。

(お前とは大違いでな)

 本当にね。だって犬派だもん。

(そうじゃねえ……)

 冗談だよ。いや犬派というのも本当だけど。

「それじゃあ、最後に。生徒会長、那賀川さん」

「はい」

「これをどうぞ」

 と。

 那賀川さんが先生から手渡されたのは、銀色のプレートが付けられた鍵だった。

「生徒会室の鍵です。今日からはあなたたちが使う部屋、今日の放課後を使って、ロッカーの分担などを済ませて下さいね」

「わかりました。備品類はどう処理すればよいのですか?」

「それを決めるのも生徒会役員です。名目上は。けれど、実際には私など、先生に声を掛けて下さいね。そうすれば、調整はこちらで行います。もちろん、生徒で決められる範囲であれば、決めても構いません」

 形骸化した制度としての生徒会。

 だからこそ、そこに権力は殆ど無いけれど、全くないわけでもない、ただしそう濫用もできない。そんな感じだった。

「では、放課後の交流の後、決定事項は纏めて提出してください。やり方は、先代に聞いてやって下さいね」

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