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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第七章 やがて訪れる嵐に舵を持て
102/111

100 - 目指す以上は万全を

 5月7日、日曜日。

 ゴールデンウィークという長期休暇は、けれど男子バレーボール部の面々にとっては少々ハードなスケジュールになっている。

 というのも、五月の後半には地方春大会の一回戦が始まってしまうからで、それに備えての調整が本格化しつつあるためである。

 で、今日はユニフォームの配布も行われた。

 レギュラーというかスタメンというか、正式に大会にエントリーされたのは、背番号順に風間先輩、土井先輩、水原先輩、漁火先輩、郁也くん、僕、咲くん、鷹丘くん、各務くん、長谷くん、鈴木くん、矢板くんの十二人。

 監督枠には当然顧問の小里先生、コーチ枠には春川コーチ、マネージャー枠には古里くんが入ることになった。

 尚、一年生から登録者が出て、二年生に漏れがあるのは、単に鷲塚くんよりも一年生のその三人の方が力量があるためで、古里くんは持ち前のマネージメント能力が遺憾なく発揮できるようにマネージャー枠での参戦を最初から要望していたためである。

 また、大会にエントリーされていない面々にもユニフォーム自体は渡されており、十三番が尼野くん、十四番が井戸向くん、十五番が鷲塚くん。古里くんは番号無しのユニフォームとなっている。

 で。

「基本的なオーダーは風間、土井、水原、漁火、曲直部、鷹丘。ここに渡来をリベロとして運用していく」

 バレー部が全面を利用する体育館で、現在僕達はブリーフィングの真っ最中である。

 スタメンは三年生の四人がほぼ固定で、曲直部くんと鷹丘くんも半固定。

 僕が不動のリベロと考えると、まあ、形はこれが自然形、なのだそうだ。

「ただし、相手や調子によって当然オーダーは弄る。特にセッター。土井が苦手とするタイプのチームと当たるようならば村社を使う事になるだろう。長谷も出番はあり得るので、全選手は緊張感を持って当たること」

 春川コーチが敢えてそう明言したのは、この頃の練習でいよいよ明確になった現象を強く意識させるためだろう。

 というのも、セッターによって僕達のチーム、大分『在り方』が変わるのだ。

 土井先輩がセッターになる場合、防御を主体に、所謂『堅実』なゲームメイクをしていくことになる。速度よりも一点一点の確実性を重視するチームという感じかな? それはいわば王道であって、だからこそ基本形となっている。

 次に郁也くんがセッターをする場合、かなり前のめりで攻撃的なチームに変化する。『やられる前にやれ』というか、『点を取ってしまえば点を取られることはない』というか、大分極端な振れ方をするのだ。それは郁也くんのセッターとしての資質が堅実性ではなく、そういうアグレッシヴな部分にある。言い方を合わせれば覇道かな。尚、僕がフィールドにいない間はだからもろいのかと言えば、それが以外とそうでもないのだから面白い。

 最後に長谷くんがセッターをする場合、丁度土井先輩と郁也くんの折衷案のような状態になる。土井先輩ほど防御に徹底するわけではないし、郁也くんほど攻撃を急がない。そんな長谷くんをセッターとしたこのチームに対する評価はいろいろな人が言い淀んでいたけれど、なんてうか、それが一番『普通』、『標準的チーム』なのだ。

 つまり元々、土井先輩は防御に寄りすぎたタイプのプレイヤーだったし、郁也くんは攻撃に寄りすぎたタイプのプレイヤーだった。

 で、そんな両極端なプレイヤーを司令塔としていったりきたりをしていたら本来はチームとしての方向性を見失うだろうに、そこに僕という異物が投入された結果、本当ならば『攻撃・防御』と練習をするところを、『攻撃・攻撃』で練習できるようになり、二通りの攻撃に全員が対応できてしまったのだ。

 最近は僕がリベロとして居ない場合の防御力が当然課題になり、レシーブ、ブロックの練習も標準程度には行うようになったけれど、それでも一度でも対応経験があると存外なんとかなってしまうようで、今のところ一年生が着いて来られないという問題が致命的なだけでなんとかなっている。

 ……いや。なってないな、これ。

 まあとはいえ、一年生も遠からず対応できるだろう。というのも長谷くんというセッターが折衷案や標準のそれとして完璧であるが故に、ニュートラルをそこに置いて、土井先輩と郁也くんに合わせて意識(ギア)を変える、そんな形での適応を図れるはずだし……たぶん。

「対戦相手のデータは……、古里、どうだ?」

「はい。所謂『強豪校』は偵察済みで、ノートに纏めてきました。ただ、無名校だとかだと、いまいち情報が無いところが多いです。二回戦目以降はデータを取れるようにしてありますけれど、一回戦は……。渡来、そこはフォローお願いしてもいい?」

「毎回はちょっと厳しいけど、一回戦だけなら。データ取りは簡単なものになるから、ざっくりした指示になるとは思う」

「ごめん。もうちょっとこっちが頑張れれば良かったんだけど」

「十分だよ。簡易の確認は僕がやって、外に出てるタイミングでちょっと情報共有しよう。作戦はそれで立ててくれると助かるかな」

「うん。そうしよう」

 というわけでその当たりのやりとりも無事におしまい。

 ブリーフィングが終われば、次は紅白戦。

 一回戦の相手がよく分からない以上、現状では普通、ごく一般的な相手であると仮定し、チームを作成する。

 まず、『普通』のセッターである長谷くんは確定。長谷くんと連携面で既に完成しつつある各務くんも確定し、仮想敵である以上僕がこちら側に入る。

 更にプレーの重しとして水原先輩を獲得して四人、ここに尼野くんと井戸向くんで六人。

 鈴木くん、矢板くん、そして郁也くんは、両方のチームに出入りする上、バランスに問題があればそれに合わせて調整は当然行うことになった。

「それでコーチ。今回は僕、どう動きますか?」

「市ヶ谷の雉子尾(きじお)……、とか。大概なんでもやるやつだが、いけるか?」

「やります」

 雉子尾さんの映像は三つほど見ている。動きの再現に問題は無いだろう。

 数回ジャンプして跳躍量を調整……、『理想』をセットせずとも出来そうだけど、ここはしっかりと『理想』で完璧に合わせつつ、作戦会議。

「リベロがお互いに居ない。相手は堅実な守備より、となるとこちらが取るべきは……」

「攻撃に若干寄せつつ、護り負けない。です、水原先輩。渡来先輩、今回再現する雉子尾さんという方の特徴は?」

「トスは高めが好き。ブロックにも積極的に跳ぶ。バックアタックは比較的得意。レシーブを上げるのは上手い部類。サーブは僅かに横回転のかかるジャンプサーブ、スパイクはクロスが得意。小技としてはフェイントと一人時間差、ただ、それをする時は普段と比べて助走前に一瞬間が空く癖があるよ。レシーブの精度は風間先輩とほぼ同じか、少し得意なくらい。二弾トスも時々するのを見るね、精度そこそこ。地区選抜選手の一人だ」

「なるほど……、よく研究してるんですね……」

「三つ映像を見ただけだから完全な再現とはほど遠いけどね。けれど大体は合わせられる。本物と比べて身長が大分足りてないけれど、スパイクの高さは本物に合わせるから安心して」

「安心……」

 長谷くんが深く呟くと、水原先輩はかかか、と笑う。各務くんは感心模様、尼野くんと井戸向くんは反応にこまる、そんな感じだった。

「ポジションはサーブを一番としてローテ順、一からぼく、尼野(アマノ)、水原先輩、渡来先輩、井戸向(イドム)各務(カガミ)で行きましょう。サインは部のものをそのまま使う形で」

「レシーブの優先順は?」

「セッター、ぼくですけれど、ぼくは基本的にセットに向かいたいです。基本的には近くの人で、競合しそうならばセンターの後ろ前。レフトに入る選手は助走を優先して下さい。僕がセットに回れないときのフォローは……、えっと、渡来先輩、雉子尾さんはセッターとしてどの程度なんですか?」

「居ないよりマシ」

「ならばフォローは水原先輩、お願いします。水原先輩も無理ならば、その他の全員で一番余裕がありそうなやつということで」

「オッケー、了解」

「僕も了解」

 水原先輩と僕が了承をしてしまえば、残りの三人も反対はしないようで……まあ、上級生二人が言ってるんだから反対なんて出来ないのだろうけれど、とりあえずの方針が決定。

 いざ、ネットを挟んで向かい合うのは、ほぼレギュラーである白組と、ビブスを身につけたこちら側、紅組である。ちなみに白組のポジションは一番から順に、土井先輩、咲くん、鷹丘くん、漁火先輩、鷲塚くん、風間先輩となっている。

 コーチが審判として試合開始を宣言、先攻はこちら。一番最初のサーブは長谷くんだ。

 ホイッスルが鳴り、プレー開始。

 一球目からして強烈極まるジャンプサーブ、それを拾ったのは風間先輩で土井先輩がセッターポジションへ。さあ、どこから攻めてくるかな? ふわっと上がったトスに、ブロックするべく跳躍。『雉子尾』というプレイヤーは積極的にブロックをする、それが自然と再現されて、速攻気味の咲くんの攻撃にしっかりワンタッチ。

 井戸向くんは落ちてくるボールをきちんとセッターの長谷くんに返し、長谷くんはサインで行動を指示。それできちんと助走を取って、『雉子尾』というプレイヤーとして、圧を踏みつつ大きく跳んで、ばしんとスパイクをクロスに差し込んで、あちらのブロックを弾き飛ばしつつ無事得点。

「今のでもボール一個分低い」

「わかりました」

 調整は長谷くんに伝えつつ、二本目。長谷くんのまたも強烈なジャンプサーブ、はしかし僅かにラインの外側へ。コントロールが課題というより、多少コントロールがぶれてでも威力を優先している感じらしい。郁也くんとはまた違った方向性だよな。

 というわけで今度はこちらがレシーブ側。相手サーブは咲くん、放たれるのは練習真っ最中の、けれど徐々に精度も上がってきているジャンプフローターで、けれどこれは各務くんが危なげなくオーバーハンドでカットして長谷くんへ、長谷くんはしっかりサインを出し、サイン通りに皆が動いて、今度は水原先輩のアタック……を鷹丘くんと鷲塚くんがきっちりブロック、これはネットのこちら側に落ちてくるな。普段の僕ならば余裕で上がる、けれど今は『雉子尾』としての動きを再現しているわけで、最低限ボールを繋ぐことには成功し、水原先輩がフォロー。

「オープン」

 水原先輩は高く中央にボールを上げる。僕も一応助走は行い、けれどそのボールを打ち抜いたのは井戸向くん。ドライブ回転の掛かったボールは、ぐいっと曲がるように見事にコートに落ち、ずに咲くんがレシーブ。少し低いとはいえしっかり土井先輩に帰っていて、土井先輩のセットは鷹丘くんの速攻を採用、ブロックはついていくだけで精一杯。

 井戸向くんのアタックはなかなかいい線だったんだけれど、さすがは咲くんと褒めるべきだろう。もっとも、それをレシーブした張本人が一番驚いてるあたり、こうも綺麗に上がるとは思って無かったようだけど。

「しかし、こうも『別人』なプレイヤーになるか……。ワイルドカードって感じだよなあ、渡来は」

「ゲームによっては持ってることが敗北条件ですから。気をつけて下さいね」

 ポーカーのジョーカーは強いけど、ババ抜きでは逆の意味で強くなる。

 そんな意味も込めて言うと、水原先輩は口の減らないやつめ、と小さく呟いた。

 この後も紅白戦は続いていき、ちらほらと郁也くんや鈴木くん、矢板くんと交代しつつ、ゲームを続行していき、いろいろな形を確かめつつ、また一通りの戦術を試したところで一旦休憩。

「休憩中に何か気付いたこと、あれば言ってくれ」

 とはコーチの談。

 遠慮無く行かせて貰おう。

「漁火先輩。実際に打つバックアタックの助走開始時の癖がまた出てます、直して下さい。風間先輩。ブロックに三度ほどサボりがありました、僕がいない時くらいは跳んで下さい。土井先輩。攻めの組み立てが繰り返しだったのは意図的ならいいんですが、無意識ですね。水原先輩。そろそろ靴を買い換える時期ですよ、二度ほど指一本分滑ってました」

「う。……はい」

「郁也くん。サインこっちにも見えちゃってた。鷲塚くん。ジャンプ時に身体捻っちゃってる。鷹丘くん。アタックを振り抜く前に目をそらすのは危ない。咲くん。レシーブしたあと助走路塞いじゃってる」

「……うん」

「各務くん。フォロー上手なのは良いけれど意識しすぎで攻撃が一歩遅い。長谷くん。ツーアタックとかの小技をもうちょっと入れたいね。鈴木くん。ブロックのジャンプ跳ぶのがちょっと早くて勿体ない。井戸向くん。回転をいっそ意識的にかけられると面白いことができそうだよ。尼野くん。自分がおとりになるときの助走で左腕を胸元まで上げる癖があるね。矢板くん。今のところはアタックの精度よりも威力を求めた方が良いと思うよ」

「はい……」

「とりあえずは一言ずつ。僕が気付いた範囲です。コーチから見て僕とかはどうでした?」

「『選手としてフィールドで他人を真似しながらっていう不自然なプレーをしながらどこまで他人を観察してたんだろうこいつ』と思った」

 いやそうじゃなくて。

 僕が半目で言葉に出さず突っ込みを入れると、けれど周囲からは笑い声が漏れていた。

「相変わらずというか、なんというか。佳苗らしい目抜け無さだよね。全員分見てたんだ」

「うん。普段(リベロ)と違って他人の真似で動いてるだけだから、考えることも少ないしね」

「…………。普通逆じゃねえの?」

 漁火先輩が一瞬の躊躇の後、鋭い突っ込みを入れてきた。

 曖昧に笑って誤魔化しておいた。

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