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最後の言葉

作者: 久野陽子

これは小説ではなく、舞台脚本です。


登場人物、

主人、

息子、

女、

警察、

の四人です。

特別なセットも何もいらず気軽にできる内容なので、お好きな方、演じてみてください(笑)


        最後の言葉


主人   いよいよか・・・

息子   はい、父さん。

主人   お前の顔を見るのはもう無いことだと思っていたのだがな。

息子   僕も、間に合うとは思っていませんでした。でも、こうして、僕は今父さんの前にいます。

主人   何の因果だろうな・・・お前は、もうワシの目の前に現れると思ってはいなかった。

     一人寂しく、この世を去るものだと思っていたよ・・・

息子   父さん!

主人   今思えばお前には何もしてやれなかった。それが、心残りだよ。

息子   父さん!

主人   お前の残りの人生、好きなように生きろ。それが、ワシからお前への最後の言葉だ。

息子   父さん・・・

主人   泣くな、息子よ。

息子   最後だなんて言わないで。

主人   ありがとう。お前の涙で、ワシは、楽に逝けそうだよ、

息子   ・・・父さん?


       主人、死ぬ。


息子   父さん!


       ドアが開く


女    亡くなったの?

息子   ああ。

女    息は?

息子   していない。

女    そう、とうとうお亡くなりになったのね。

息子   ああ・・・、ふ、ふふふ、あはははは、やっと死んでくれたよ、このクソ親父め!

     何が何もしてやれなかっただ!一人息子を捨てて!

     お前は充分僕にむごい仕打ちをしてきておいて、何を今さら善人ぶってるんだ!

     もう遅いんだよ!

     これで、この家と財産は僕のものだ。良かったよ、

     最後に寄付の話をされるんじゃないかとひやひやしてたんだ。あはははは、

女    やったわね、スチャード。これで私たち、もう隠れもしないで堂々としていられるわ。

息子   ああ、これで僕がこの家の当主。

     ふ、まさか今世間を騒がせている怪盗が実は領主になるだなんて、誰も気付きやしないさ。

     あっはははは。

女    これで惨めな生活ともおさらば、私は奥様よ!笑いが止まらないわ!


      主人、目を開く。


主人   そうか、そういうことだったのか・・・

息子   え?


       主人、ゆっくり身を起こす。


主人   話は全部聞かせてもらったよ。


       沢山の警察が入ってくる。


警察   動くな!

女    !

息子   父さん、これは・・・今、死んだじゃないか!

主人   ふりをしただけだよ。

息子   !では、今までのこれは・・・

主人   ああ、お前の本性を暴くための芝居だ。ワシは病気でもなんでもない!

息子   !

警察   我々は怪盗の正体が君ではないかと気付いてね、

     セチュリー氏にお願いして一芝居打っていただいたのだよ。

主人   ワシは半信半疑だったがな。

息子   そんな・・・

主人   ワシがお前を捨てただと?馬鹿者!

     ワシはお前に下々の生活はどういったものか分からせるためにお前を市中に放っただけだ。

     世間知らずな領主になって悪政をしかぬ立派な領主となるのを見込んでのことだったのに、

     まさかこんなことになるとは・・・

警察   心中お察しいたします。

主人   文をよこさぬようになって心配しておったら、まさか盗人になっていようとは・・・

警察   奴は実に賢く、証拠は一切ありませんでした。

     しかし、たった一度の目撃情報が仇となったな。我々はずっと君を見張っていたのだよ。

     あとは、現行犯逮捕に行きたかったが、君は実に賢い。犯行時は我々を幾度と欺いた。

     だからもう、自白させるしかないと踏んだのだよ。

息子   じゃあ、父さんが病気になったって噂は・・・

警察   君をここに来させるために我々が流したデマだよ。

息子   あぁ・・・

警察   君は我々におびき出されたというわけだ。さ、もういいだろ。


       警察、息子と女に手錠をかける。


女    ・・・ついて来るんじゃなかった。こんな事になるなんて・・・畜生。


       女、連れて行かれる。


主人   ・・・・・・・・

息子   ・・・・・・・

警察   最後に、何か言い残したことは無いか?

息子   ごめんなさい、父さん。

主人   ああ、罪を償って来い。


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