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お婆ちゃんチの勝手口が異世界と繋がってるんだけど?

作者: 渡里あずま

「賢者ミネどの、どうか我が国にその知恵をお貸し下さいませ」


 イケメンなだけならともかく、金髪碧眼。某ネズミーランドで見るような格好をしたおじさんが、勝手口から居間に上がってきたかと思うと、お婆ちゃんの前で正座をして深々と頭を下げている。


「あらあら、そんなにかしこまらないで下さいな。暑いでしょう? 麦茶より、前に出したパピコがいいかしら?」

「……いえ、冷たいものは」

「まあ」


 何が何だか解らない、わたし・田神奈央たがみなおの隣で。

 父方の祖母・田神みねは、気遣うように声を上げて可愛らしく小首を傾げた。



 年に一度は、顔を出していたけれど――お母さんが出産の為、実家に里帰りをし。ちょうど夏休みということもあって、小三のわたしは祖母の家でお世話になることになった。

 ラジオ体操の時はちょっと不安だったけど、お婆ちゃんが事前に話してくれていたのでハンコを押してくれるおじさんやおばさんは見かけないわたしにも、優しく話しかけてくれたし。漫画などで見るような、意地悪なガキ大将もいなかったので一安心していたが。


「お婆ちゃん、あれ、何?」

「あれ? あぁ、勝手口かい? 昔、お爺さんがいた時はゴミ捨てとかに使ってたんだけどねぇ」

「今は、ミケしか使ってないの?」


 遊びに来ていた時は、勝手に台所に入らないように言われていたので、そこにあるドアに今まで気づかなかった。

 わたしの家はマンションなんで、勝手口なんてない。飼い猫のミケ(当然、三毛猫だ)の為の猫ドアがついているが、確かに祖母一人で暮らしていてあちこち開けていては物騒だろう。そう思い、納得していると。


「たまに、ミケがお客さんを連れてくるわねぇ」

「……ふーん?」


 捕まえた鳥や虫ってことだろうか?

 のんびりした祖母の言葉に、そう思っていたけれど――三日後の夕方。つまり今日、比喩ではなくしかも日本人じゃなかったことに、わたしはどこから突っ込むべきか悩んでいた。



「実は、今年の夏が例年にない暑さで」

「あらあら」

「あ、とある魔法使いの発案で魔石を使った『レーゾーコ』と『クウラア』がありますから、涼しくはあるんです。ただ、今度は体の冷えを訴える者が出てきまして」

「まあまあ」


 ……魔法使いっていうことは、目の前のおじさんは日本人どころか地球人じゃない可能性が高い。流石に、小学生でも解る。

(でも、話に出てきた魔法使いって言うのは、漫画とかに出てくる『転生者』か『異世界トリップ』なのかなぁ……で、現代病まで異世界に持ち込んじゃったと)

 何だかなぁ、と思っていたら不意にお婆ちゃんが立ちあがった。

 そしてゆっくりとした足取りで台所に向かったかと思うと、しばらくしてお盆にお茶を乗せて戻ってきた。


「はい、どうぞ。」

「賢者どの、かたじけない……甘、い?」


 おじさんに出されたのは、温かい緑茶だった。けれど、ゆっくりと飲み干した後に出てきた感想に、わたしは驚いてお婆ちゃんを見た。


「温かい緑茶に、ハチミツ。この組み合わせが、冷えた腸を整えるのよ。確か、あなたの国にも緑茶はあったわよね?」

「おお……なるほど!」

「あと、水浴びだけじゃなく湯船につかるの。食用の重曹を大さじ三杯くらい入れると、お湯が柔らかくなるし汗疹も改善。あと、排水溝のぬめり取りにもおすすめよ」

「ありがとうございます、賢者どの! 早速、我が国に広めますっ」


 そう言うとおじさんは深々と頭を下げ、マントを翻して勝手口から出て行った。


「……お婆ちゃん?」

「孝太には内緒よ? ちょっと、年寄りの知恵を貸してるだけだから」


 にこにこ、にこにこ。

 ミケの頭を撫でながら、お父さんへの口止めを頼んでくるお婆ちゃんに、何と言うべきか少し考えて――結局、わたしも笑って言った。


「わかった……でも、わたしにも色々教えてね。賢者どの?」


 ……将来なんて、今まで考えたこともなかったけど。

 お婆ちゃんみたいに、異世界人相手の賢者って言うのもアリかもしれない。

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