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中篇 開業届の節税効果:それはどの程度?

 さて。前篇はなろうで執筆した作品が書籍化された際、その印税収入を確定申告しなければいけない人としなくてもいい人、開業届を出してはいけない人の話をしました。

 今回は、確定申告をする、という前提で、開業届(個人事業の開廃業等届出書)並びに青色申請書(所得税の青色申告承認申請書)を提出することで、どの程度の節税効果が見込めるか。具体的な金額を提示して説明したいと思います。


 が、その前に、日本の所得税について、基本的なところをおさらい。

 平成28年11月1日現在、所得税の税率は「超過累進税率」という形を取り7段階に区分されております。

 これは、課税所得金額(収入から経費や控除等を差し引いた残り。収入の種類によって計算が異なる)が195万円以下の部分については、5%、195万円を超えて330万円以下の部分については10%、といった具合に段階的に増えていきます。

 例えば、課税所得金額が250万円だった場合、195万円×5%+(250万円-195万円)×10%=152,500円、という計算方法になるのです。


 表にしますと、次の通り。(この他にも復興特別所得税が課せられますが、本稿内では無視します)

 195万円以下…………………………5%

 195万円超 330万円以下…………10%

 330万円超 695万円以下…………20%

 695万円超 900万円以下…………23%

 900万円超 1,800万円以下………33%

 1,800万円超 4,000万円以下……40%

 4,000万円超…………………………45%


 さて、これを踏まえて本題。

 わかり易く基準とする為に、印税収入60万円(書籍価格1,000円、印税率6%、出版部数10,000部)で考えてみましょう。


a. 専業主婦や学生など、印税以外の収入が無い人たちの場合。


 60万円だと、税率5%。そして、経費が一切なくとも、所得控除額として38万円(基礎控除)がありますから、課税所得金額が22万円となり、税額は11,000円です。

 しかし。前篇最後に触れたとおり、60万円の印税には10%(厳密には復興特別所得税0.21%を加算した10.21%ですが、ここでは便宜上10%として話を進めます)の源泉所得税に該当する6万円が差し引かれております。

 これは、前払い税金。出版社が作家さんに代わって税務署に納付した、作家さん自身の所得税です。つまり、経費無くまた雑所得として確定申告をしても、税額11,000円のところ既に60,000円納付されている訳ですから、超過している49,000円が還付されるのです。

 そして、経費があれば、その分更に還付税金が増えるでしょう(最大で源泉徴収された6万円全額相当額)。けど、税率は5%。つまり、1万円分の領収証を揃えても、500円しか還付税金は増えないのです。

 開業届を出せば、事業所得として申告出来ますから、雑所得として申告するより認定される経費の枠は大きくなります。けど、それも1万円か2万円、と言ったところではないでしょうか?

 つまり、開業届を出して、領収証を整理して、確定申告をする。その後も税務調査に備えて領収証等を最短5年間は保存しておかなければなりません。

 一方、雑所得で且つ経費0円で申告をするのなら。申告も税務署のタッチパネルで済みます。


 まとめますと。

 確定申告をすれば、雑所得で且つ経費0円でも、49,000円の還付。

 経費の領収証が2万円分あれば、更に1,000円増えて50,000円の還付。

 開業届を出し事業所得として申告すれば、経費に認定される範囲が広がり、例えば2万円経費が増えれば、51,000円の還付。

 更に青色申請をして青申控除(青色申告特別控除)10万円を取れば、還付は合計56,000円。


 でも、逆に言うと、苦労して領収証をかき集めても7,000円分しか還付は増えないんです。


 「毎日が日曜日」と言っている人たちならば、この7,000円は貴重かも知れませんが、それだけ手間をかけた結果と考えると、果たして割に合うのでしょうか?


b. 会社勤めでお給料をもらっている人(一般人)の場合。


 お給料の総額がおおよそ300万円から400万円くらい。つまり、月収(額面)にして20万円くらいから30万円くらい(他ボーナスあり)の人たちは、お給料だけで所得税率10%のラインに来ています(給与所得に係る所得金額は、「給与所得控除」というものがありますので、額面総額と課税所得金額は一致しません)。

 ここに印税60万円が上乗せされると、印税に対応する税率はやっぱり10%になります(場合によっては20%になりますが、その場合はc.項を参照してください)。

 そして、源泉徴収税率は10%ですので、経費無しで申告(給料部分は年末調整後の金額)をすれば、単純計算で税額は6万円。つまり、追加納付も還付もありません。

 なら、経費があれば、その分還付が増えます。

 a.項と同じ計算で、しかし今度は10%。


 つまり、雑所得で且つ経費0円だと、還付も納付もなし。

 経費の領収証が2万円分あれば、2,000円の還付。

 開業届を出し事業所得として申告し経費が2万円増えれば、4,000円の還付。

 更に青色申請をして青申控除10万円を取れば、還付は合計14,000円。


 日雇いで働いている人の、日給とほぼ同程度になります。

 これくらいなら「事業所得にしなきゃ損」かな?

 でも、税理士に頼めば報酬として1万円程度取られるでしょう。それを避けて自分でやるなら、有休を使って1日仕事になります。……トントンじゃね?


c. 高額の給料をもらっている人(中間管理職以上)の場合。


 お給料の総額が500万円から800万円くらい。つまり、月収(額面)にして30万円くらいから50万円くらい(他ボーナスあり)の人たちは、お給料だけで所得税率20%のラインに来ます。


 つまり、雑所得で且つ経費0円だと、60,000円の追加納付(確定申告は必須です)。

 経費の領収証が2万円分あれば、納付額は56,000円。

 開業届を出して事業所得として申告し経費が2万円増えれば、52,000円の納付。

 更に青色申請をして青申控除10万円を取れば、32,000円の納付で済みます。


 が、このクラスの人たちは、社則や職業法規、または服務規程で副業禁止が定められていると思われます。

 つまり、この収入規模の人たちにとって、精々3万円節税する為に開業届と青色申請をし、領収証を集め、所得計算をして申告し、その後も領収証を保管した挙句、懲戒解雇のリスクに曝される。


 ……絶対、割に合いません。

(2,662文字:2016/10/28初稿)

【注:なお本稿は、日本税理士会連合会八王子支部所属 税理士 青野道子先生の監修を受けております】

・ 実際の金額は、各人ごとによって異なります。また控除の条件なども差がありますので、申告をする際には専門家(税理士・所轄の税務署職員等)に相談することをお勧めします。無料相談は、税務署(要予約:確定申告期は先着順)、地方税理士会(要予約)、金融機関(時期限定・要予約)、市役所(時期限定・先着順)、その他確定申告説明会場(時期限定・先着順)などがあります。他にも税理士事務所によっては無料相談に応じてくれる先生もおりますので、まずは声をかけてみると良いかと存じます。コールセンターのタックスアンサーやネット相談などは、個別事情に対応した応答は出来ません(質問に応じる側が職責に基づく回答が出来ないので、あくまでも一般例を回答するに留まります)。

・ 開業届を出すことのメリットとして、「損失が出ても繰り越せる」とか、「他の所得の利益と通算出来る」と吹聴する人が多いですが、文筆業で赤字になるほど経費が計上されたら、普通に経費の過大計上を疑われます。

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