サラワレ
ネットニュースでは、最近世間を騒がせている連続行方不明事件が面白おかしく報道されていた。
痕跡ゼロ、目撃者ゼロ、犯行時刻や場所の規則性ゼロ、被害者の共通点、ゼロ。
いかにもミステリー好きの日本人が食いつきそうな、お茶の間におあつらえ向きの事件だった。
それだけに、俺は関係ないという風に無視したい、そんな衆愚的な事件に見えた。
今日も残業が長引いてしまった。
日付が変わり帰宅者も居なくなった暗い夜道を歩いていると、
ばさりと大きな鳥のような羽音が聞こえた。
周囲を見渡したその瞬間、身体が浮いた。
バンジージャンプに挑戦したその時を思い出すような浮揚感と共に、ぐんぐんと地面が遠ざかっていく。
気づくと俺は、空に浮き上がっていた。
「ひえっ……」
もう豆粒のようになった人家の明かりに高度を確認すると、情けない声をあげる。
気づけば肩に激痛が走った。
恐る恐る触れると、つるりとした大きなものが、俺の両肩に突き刺さっている。
恐ろしさに身を強張らせると、様々な憶測が俺の頭の中を巡った。
風を切る両肩が、寒いはずなのに強い熱を放っていた。
不思議と痛みはほとんど感じなかったが、ひたすら熱い。
少しでも状況を変えれば落ちてしまいそうな中、何もしないのが最善だと、
俺の頭が警告を発していた。
「あら、今日のごはんはずいぶんとおとなしいじゃない」
頭上から声が聞こえた。
やはり化け物の類だった。
人間が見たこともない、何か恐ろしいものは人語を話し、
俺を空へ持ち運べるほどの力を持っていて、
それが俺を空へさらっているのだ。
絶望しかなかった。
「また助けを呼ばれると面倒だなぁ…少し眠っててもらお」
一瞬身体が浮き上がるような感覚のあと、
ものすごい重量で下に押し付けられた気がして、
俺はすぐに気絶してしまった。
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何か暖かいものが顔を撫でている。
暖かい枕に顔を押し付けているようで心地よい。
でも、家のベッドはこんなに硬かっただろうか。
些末事はさておき、もう少し眠っていたいという欲望が誘惑してくる。
その枕が、顔の前からどかない。
いくら顔を動かしても、埋もれた顔を枕に押し付けてしまうだけで、
一切の呼吸ができなかった。
苦しい。
視界が、一瞬で現実のくっきりとしたそれに置き換わる。
「あっぁあーっ、起きちゃったぁ!」
空で聞こえた声がする。
さっきの化け物だった。
空間はぼんやりと光っていて、化け物の輪郭をうっすらと照らしていた。
「眠ってる間に食べたげようと思ったのになあ」
ふいと横を向いた化け物の口吻は、
頬まで大きく避けていて、恐竜や鰐のそれに近いものだった。
顎の淵からは、肉塊がだらりと垂れていて、
それが舌であろうことは、容易に想像できた。
俺は自分の顔を触った。卵の白身のように粘ついた大量の粘液が皮膚を覆っていた。
気色の悪さに、喉の奥で軽くえづいた。