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それからのこと

坂井さんが出て行ってから数日間、私は泣き続けた。坂井さんに未練がましいメールを何通か送ったけれど返ってくることはなく、もう終わったんだと日に日に理解するようになった。そうこうしているうちに就職について考えなければならない時期になり、気がつけば坂井さんは元よりお笑いに対しても興味が失せていた。


私は30歳になった。大学を卒業して最初に就職した大阪の会社を辞め、東京に来て3年が経っていた。坂井さんと別れてから何人か恋人ができたが、どれも長続きしなかった。毎日忙しく働くことで淋しい気持ちに蓋をした。

この日も打ち合わせ前にファミレスで仕事を片付けていた。隣の席では幼稚園児くらいの男の子が退屈そうにグラスの中の氷をストローでかき混ぜている。若い母親が行儀悪いでしょうと叱った。そのとき、ふと思い出した。坂井さんもよくこうして氷をかき混ぜて音を鳴らしていた。彼は今何をしているんだろう。あの日からお笑いを観ると坂井さんを思い出して苦しくなるので劇場にも行かなくなっていた。大学を卒業する頃、お笑いを追いかけるために作ったSNSアカウントを削除しようと久々にサイトを開くと、坂井さんが大阪を離れ東京の劇場に所属になったとナニワの劇場のアカウントに投稿があった。それ以来、彼の存在は忘れていた。転職で東京に来たときも彼がこの街のどこかにいるかもというようなことは考えなかった。まだ、東京にいるのだろうか。芸人を続けているのだろうか。私は仕事を中断して検索サイトで彼を探した。以前彼が所属していた事務所のサイトから彼の名前は消えていた。彼のSNSアカウントは見つけたが、3年前の投稿で止まっていた。どうやらもう芸人を辞めてしまったようだ。イーストサカイはもうどこにもいない。私はこのとき自分の心に開いた大きな穴の存在を思い出してしまった。

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