日曜日の朝
爽やかなギターの音で目を覚ましたのは大学3年の初夏のことだった。
ベッドの傍に置いた時計を覗くと朝の6時。部屋の片隅でそっとギターを奏でている坂井さんの姿が目に入った。坂井さんは昨日、ローカル番組の収録が夜遅くまであると言って出掛けて行って帰ってこなかった。
「坂井さん、おかえりなさい。」
寝転がったまま坂井さんに声を掛けた。
「ただいま。ふう、疲れた〜」
そう言うと坂井さんはギターを床に置いてベッドに上がってきて、あたしの隣で横になった。
「どうやった?テレビ」
あたしは坂井さんの腕に抱きついた。
「むずいわ〜テレビ。ほんま、テレビ出まくってる芸人はすごいもんや。」
「放送はいつなん?坂井さんがテレビ出てるとこ、早く見たいなぁ。」
あたしがそう言うと、坂井さんはふふっと笑った。
「見んでええわ。恥ずかしいがな。」
あたしはきつく抱き寄せられた。きっと照れた顔を見られたくなかったのだろう。
「今日どっか行く?」
あたしを抱き寄せたまま坂井さんは言った。
「2人で?」
「散歩しよか、どっか静かなとこ行って。」
「今日日曜日やで。どこも混んでるよ。」
坂井さんとあたしは今まで、ちゃんとしたデートをあまりしてこなかった。
「じゃあ、京都は?」
坂井さんが顔を覗き込んできた。
「京都も混んでるよ」
なんだか坂井さんがとても可愛く思えてあたしも坂井さんを抱き締め返した。坂井さんはふっと笑った。
どうしてだか分からないけれど、その日あたし達がどこへ出掛けたか、どうしても思い出せないのだ。もしかしたら、というか、きっと、その日あたし達はそのまま抱き合って眠ってしまったのだろう。




