The White Thread Of The Grim Reaper
こんにちは
新しい話を書いてみました
世界を舞台にしたアクションストーリーを書きたいなと思って書いてみました
大抵お気に入りになる場面は主人公の苦悩するところという…
イメージを文章に変えるってやっぱ難しいっす…
振り子時計が鳴り響く部屋。
複数の子供たちが部屋の中で固まって夢を見ていた。
三日月が金色の光で照らす深夜の孤児園に突如風がガラス窓にぶつかりがたがたと音を立てた。
ふと一人の少女は目をうっすらと開けた。
風がガラス窓を叩く音だと気が付くとまた夢の続きを見ようと寝返りを打ったが隣の布団が無人なのに気が付きばっと体を起こした。
彼女の隣にはいつもつきっきりの弟が寝ているはずなのだがいつの間にか姿を消したらしい。
きっとトイレだわ。
そう思い彼の帰りを待つが一向に姿を現さない。
もしかしたら目が覚めてしまってそっと庭にでも散歩しにいったのかもと思い始め少女はやっと立ち上がった。
弟には昔から放浪癖があった。
全員で集まらなければならない時に決まって独りでふらふらと行ってしまう弟を見つけ出す役目をいつでも姉である少女が受け持っていた。
双子だからか何かを伝っているかのようにすぐ弟を見つけ出す。
まるで見えない紐が彼らを結び付けているかのように。
少女は暗くて長い廊下に音を立てぬよう進んだ。
靴を丁寧に履き替えいつも大勢で賑わっている中庭に出た。
孤児院は近代的な五階建てビルの一階に入っている。
二階以降は新聞社などの会社が入っていた。
夕方になるとスーツを着た大人たちが無表情のまま中庭を縦に横切って行くのをよく見た。
中庭に少年の姿がないことが分かると裏庭に足を延ばした。
ビルの裏にある空き地は人気が少ない。
先生の目を盗むには絶好の場所だが上の階の社員たちの落とす灰柄があたりに散っていた。
煙臭いと孤児院の子供たちはあまりよりたがらない。
しかし弟はよくここにいた。
孤児院の中で見かけない場合は必ずと言っていいほどここにいた。
少女は確信を持って裏の方へ向かった。
やがて視界は広くなり灰柄を踏みながら陰のある方へ駆け寄った。
「やっぱここにいた!こんな夜中に抜け出して、園長先生に怒られちゃう…」
少女の駆け寄った方に少女によく似た少年がぽつんと立っていた。
少女の方を見向きもせずじっと地面を見ていた。
その眼には虚空に近い黒さが少女を映す。
「どうしたの…」
少女は少年の異様な雰囲気に背筋がぞくりとした。
少年は振り向かない。
ただ無表情で地面のあるものを見ていた。
何を見ているんだろう?
少女は少年の後ろから背伸びをして向こうをゆっくりと覗き込んだ。
鼻には何やら鉄のにおいがまとわりついていた。
実りの秋。
作物を収穫する為農夫は腰をよく痛める時期。
英国のサリー州のとある村ではワインが生産されている。
ワインといえばイタリアやフランスなど南ヨーロッパを連想させるが地球温暖化のおかげでイギリスでも最近作られるようになった。
すっきりとした味わいのワインは大自然の中で育った房から作られ地下で保存される。
村のワイナリーにはそのワイン目当てに様々な愛好家たちが足を延ばしてきた。
村人も村で作られたワインを好み愉しんでいた。
ワイナリーの主人は中年の豪快な女性で姪のジェシー・パダックと暮らしていた。
ジェシーは喘息持ちのため家族のいるロンドンから離れてのどかな田舎で養成していた。
「こんにちはおじさん、今日は何かあるの?」
好奇心旺盛なジェシーは決まって訪れる客に尋ねるのが日課だった。
客はみな可愛らしいワイナリーの少女に快く答えてくれる。
「今日は妻の誕生日だから買いに来たよ」
近所に住む老人は微笑んで答えた。
「いちいちそんなこと聞くんじゃない」
ワイナリーの女主人、レオナ・ルピノは小さな姪を叱りつけた。
「ダメよ、聞かないとおばさんにおめでとうって言えないじゃない。いつも私に優しい声を掛けてくれるのよ」
ジェシーは叔母に抗議の声を上げた。
「妻に伝えておくよ」
老人はジェシーに優しく微笑みかけた。
「まったく懲りない子!アレシアんとこでも行っといで!」
レオナは呆れながら邪魔者を追い払うようなしぐさをした。
ジェシーはしかめ面をしながらも駆け出して行った。
「好奇心旺盛なのはいいことだ。きっと将来のためになるんじゃないかな」
「でも知る必要のないことを知って質問攻めにされるのはもううんざりよ」
レオナはそういいながら注文の品をテキパキとまとめた。
「あまりそんな顔をするとせっかく美人だったのにどんどん老けてしまうぞ。わしのように」
「別にもう誰にも魅せようだなんて思いませんからね。主人一筋のいい女ですよ、私は」
その言葉に二人は声をあげて笑った。
「それにしてもジェシーをあまり外で遊ばせない方がいいかもしれないよ。ブドウ畑の中なら安心かもしれんがな」
「何かあったの?」
レオナは珍しいという顔をした。
小さな村は比較的平和なため子供が外で遊んでも安全だ。
近所の子供は数えるほどしかいなく全員顔も知っている。
あたりは草原で見晴らしがよく村の何処に居ても全体を見渡せるほど視界が好い。
そんな所で悪いことが起きるというのか。
「最近ちょっと様子がおかしくての。南の方角にずっと人が住んでいない空き家があるだろう?あそこで夜な夜な村の者でない若者が集まってるんじゃ。一体何をしているのか誰もしらない。ただ唯一村の者で中に入っているのはバレミーの子なんだ」
バレミーとは近隣に建つ大きな家のことだ。
その家には子供がたくさんいてジェシーと同い年の男の子もいる。
ジェシーはそのこと良く学校の帰りに川で魚釣りをしていた。
「まさか子供たちが?」
「いや、ラウンスだけじゃ。ほら、上から四番目の、高校を出て村に戻ってきた青年じゃ。見た目は好いが素行が悪い。それが良く夜中にほっつき歩いてふらっと帰ってくる。酒臭さに母親が驚いて説いても何も言わずまた夜中に抜け出すらしい。それをきいて何だか胸騒ぎがするんじゃ。思い過ごしかの」
老人の言葉にレオナは戸惑った。
考えすぎだと言おうとしたが何かが頭の中に引っかかっている。
「…気のせいよ。ここじゃ滅多に悪いことは起こらないわ」
レオナはそう取り繕って紙袋に包装したワインを入れた。
「足りなかったら電話頂戴。届けに行くから」
「ありがとう、妻の大好物なんだ。アレシアにもよろしく言っておいてくれ。今は畑作業かな?」
「収穫で忙しいと思うわ」
「顔が見れなくて残念だ、ジェシーとアレシアを見てるとわしまで若返っているようなんだ」
老人はそういって紙袋を受け取った。
ジェシーは裏口から広大なブドウ畑に飛び出した。
美しい青空から暖かな日が照る中、駆け出す。
彼女は途中途中ぐるりとあたりを見回し何かを探していた。
それを見つけると真っ直ぐその方向へ走って行った。
「アレシア!!」
沢山の熟れたブドウに姿を隠していたその影はふっとしゃがんだ。
茶色い髪を一本に束ねて麦藁帽子をかぶっている。
東洋系の顔立ちをした童顔の若い女性はジェシーに向かって微笑みかけた。
「聞いて聞いて!となりのおばさんが誕生日だからおじさんがワインを買いに来たの、誕生日なのよ!」
ジェシーは一気に言い切ってはあはあと息を切らした。
アレシアは困ったように微笑んだ。
「おじさんから聞いたのね、お転婆さんのジェシー。あなた喘息持ちだからあまり走ってはだめよ。私も後でお祝いしなきゃ」
「きっと後で会うわ!おじさん大酒飲みだから一本じゃ足りないもの。きっと電話してくるわ。絶対よ!」
ジェシーは仁王立ちで言った。
アレシアは笑いながら収穫したブドウを室内に入れるため歩き出した。
ジェシーも付いていく。
アレシアは五年前の十六の時から住み込みでワイナリーの手伝いをしていた。
元々孤児院にいたが孤児院は潰れてしまい路頭を彷徨っていると今は隣に住んでいる大酒のみのおじさんに拾われここに連れてこられた。
見ず知らずのストリートチルドレンを連れてきた理由は二つ。
顔立ちから東洋人は良く働くから。
まだ若い少女が路頭で彷徨っているから。
大抵若い少女は裏のルートで体を売らなければ生きてけない。
大酒のみだが穏やかなおじさんはそれを心の底から嫌っていた。
たまたまロンドンの親戚を訪ねているところアレシアを見つけた。
まさに偶然だった。
おじさんが踏んだ通りアレシアは若いながらも礼儀正しく仕事の要領がよかった。
夫を亡くしたばかりで姪を抱えたレオナもすぐにアレシアを気に入り五年間本当の家族のように接してきた。
八歳の姪のジェシーも一人の退屈から抜け出せて姉のようにアレシアになついた。
孤児院出身で住み込み働きする以外はごく普通のアレシアはすぐに村に馴染んだ。
驚くほど幸福な五年間だったのだ。
今じゃここはよその家とは違いアレシアの実家のようである。
アレシアは本当の実家をもう思い出せなかった。
彼女の記憶は孤児院の生活から始まる。
孤児院に来るまでの五年間の記憶はぽっかりと何故か空白だったが別に思いだそうとは思わなかった。
「アレシア、ちょっと休憩しなさい。働き過ぎは体に毒だから」
カウンターからレオナが声を張り上げた。
「はーい!」
アレシアは無邪気に返事をした。
「ブドウジュース飲んでいい!?」
ジェシーはカウンターに向かって叫んだ。
私の分も残しておきなさいよと返答が来たとき二人は一気に冷蔵庫に向かった。
乾いた喉には甘いブドウジュースが一番効く。
すっかり日が落ちた時刻になりどの家庭も食卓が鮮やかに彩られる。
夕飯のシチューは今は亡き夫がワインの研修にフランスを共に訪れたときに覚えたレオナの得意料理だった。
育ちざかりのジェシーは一気にシチューをかき込みもっと味わえと叱られた。
アレシアは口いっぱいに広がる旨みを噛みしめて食事を終えた。
「アレシア、悪いんだけどちょっと隣までワイン届けてもらえない?」
レオナの言葉にジェシーはそっとアレシアにウインクした。
アレシアは笑いをこらえながらはいと答える。
「ついでに顔も見せてあげられるしね。最近は物騒らしいからあまり夜に行かせたくないけど…なんなら私も付いていこうか」
レオナの話を聞いてジェシーの目が輝いた。
「私も行くー!」
「家を空けるわけにはいかないよ!」
レオナは却下した。
アレシアは少し考えてから言った。
「私一人で行きます。家を空けたら突然のお客さんが来るかも知れないしジェシーも心細いじゃない」
「そう?じゃあ少し休んでから気を付けていくんだよ。届けたらすぐに戻っておいで」
レオナはそういってワインと懐中電灯をアレシアに渡した。
隣と言っても田舎なので距離がある。
普段は羊を放す広大な草原を歩かなければならない。
暗い道を懐中電灯で照らしながらアレシアは歩き始めた。
遠くにぽつぽつと家の明かりが見えた。
空には無数の星が輝き見るものを魅了する。
ジェシーが私も行くと言ったのもこの星空の下をゆっくり歩いてみたかったからかもしれない。
一緒の部屋で寝る時ジェシーは窓からじっと大きな空を眺めていた。
昔羊使いが空を眺めてあれは何座と考えて楽しんでいたことを話すと彼女は不思議な顔をしてこういった。
「暇なのは分かるけどいい加減なことをしてくれたものだわ。いつも星は見てるけどぜんぜんてんびん座とか天秤に見えないもの。白鳥座とかただ罰点につなげただけじゃない!」
言われてみればそうかもとアレシアは一瞬思ってしまった。
見方を変えればいろんなものが見えてくることを知るのはジェシーには早かったかもしれない。
(その単純さも愛される理由の一つかもしれない)
アレシアは微笑んだ。
その瞬間後頭部に衝撃が走った。
声をあげる間もなくアレシアは満点の星空が暗転するのを見た。
濃い霧があたりを包んで何も見えない。
「何処にいるの…いたら返事をして」
小さな少女、小さなころのアレシアは震えた声で呟いた。
心細くて今にも潰れそうなちいさな影。
遠い昔に目の前から姿を消し去ってしまった仲間たちを懸命に探した。
一人はこわいよう…!
嫌だよお…!
そんな気持ちがちいさなアレシアを動かしていた。
(こっちだよ)
そんな声がかすれて聞こえた。
「どこ、どこなの…」
小さなアレシアは涙をこらえながら必死にあたりを見渡した。
今まで見た霧と違ってかなり濃い霧が辺りにまとわりついて何も見えない。
「わかんないよっ!」
そう叫んでしゃがみ込んだとたん左手の小指に違和感があった。
小指に目を落とすと紐が結ばれていた。
―運命の赤い糸―
ではなく白い糸だった。
どうやら霧の先につながっているらしい。
小さなアレシアは立ち上がって白い糸をたどった。
不思議に霧が薄くなり視界が澄んでいく。
ふと目線を上げると遠くに人の影があるのに気付いた。
アレシアは影に近づこうとしたが急に不安で胸がいっぱいになった。
足は歩み続ける。
近づいてはいけないと心の中で叫び続けながら。
その影に近づけば近づくほど視界は晴れていく。
はっきりとその姿を現したとき小さなアレシアの歩みは止まった。
少年の姿がそこにはあった。
懐かしいその後ろ姿は待っていたかのようにゆっくりと振り返る。
小さなアレシアは少年の姿を無表情に見続けた。
向かい合った時、アレシアは口を開いた。
「アレック」
突如笑い声は頭に響いた。
後頭部の痛みにうめきながらアレシアは目を開けた。
どうやら夢を見ていたらしい。
久しぶりに悪い目覚めだった。
横の窓からは満開の星空が見える。
かび臭い部屋にどうやらいるらしい。
ここはどこ?
アレシアは立ち上がろうとするが手足が縛られて身動きできない。
笑い声はどうやら隣の部屋からしているらしい。
複数の男の声が頭にがんがんと響いていた。
アレシアの脳裏に誘拐という言葉が横切った。
今頃レオナおばさんもジェシーも心配しているかもしれない。
アレシアはなんとか逃げ出そうと体をねじり後ろの棚にぶつかった。
その衝動で上にのっていたものが落ち大きな音を立てた。
馬鹿騒ぎをしていた男の笑い声が止みあたりに静寂が走った。
アレシアは心臓が止まる思いだった。
きいいと音を立ててドアが開いた時にはびくんと肩が上がった。
開いたドアからは明かりが漏れ嫌に眩しかった。
そして二人の男が光の中からゆっくりと歩いてきた。
青年の方はアレシアのそばにしゃがみ込み、タンクトップを着た肩に入れ墨をしているいかつい男はアレシアの前に立った。
「お目覚めかな、お嬢さん。逃げようたってそうはいかねえよお?」
男は猫なで声で言った。
「この女、似てませんか!?」
青年は犬が主人を見るように男を見上げた。
男はふうむと唸りながらズボンのポケットから写真を取り出しアレシアと見比べる仕草をした。
「まあ似てるっちゃ似てっけど、この写真の信用性もねえんだよ。死神の小さい頃の写真ってお前、男は成長するたび姿かたちを変えるってのに」
男はぶつぶつと言いながら写真を床に置いた。
アレシアは床に置かれた写真を見た。
それは集合写真だった。
どれも見覚えもある懐かしい顔顔顔…。
赤いペンで囲まれた顔…それも知っている…!
「…アレック…?」
アレシアの小さな声を聞き逃すこともなく二人の男は顔を見合わせた。
「おい女!知ってんのか!死神は何処に居る!この村にいるんだろ!」
青年はアレシアの肩を激しく揺さぶった。
「やめろ、ラウンス」
男の一声で青年はじれったそうにアレシアから手を離した。
男はしゃがみ呆けているアレシアと同じ目線になった。
「死神、アレックのこと知ってんだな。居場所を教えてくれさえすれば悪いようにはしねえよ」
アレシアは男の目を見た。
曇ったその眼の中にアレシアはとらえられている。
「…死神…?」
アレシアの一言に男はいきなり立ち上がり近くにあった椅子を蹴り上げた。
「とぼけてんじゃねえ!!知ってんだろうが!この村のどっかにいるんだろお!俺にはわかってんだよ!!」
青年は慌てて外に聞こえてしまうと男を諭した。
男は息を切らしながらまたアレシアに近づく。
「どんな獲物も逃がさない、ウルフを超える存在。俺たちはあいつの…アレックのことを死神と呼んでんだよ」
「アレック…死神…」
「俺たちは探してんだ、どいつも目を血眼にして…あいつを見つけて富と名誉を掴むのは俺だ!!俺なんだよ!!そして全部掴まなくても掴まえてもこの村は炎で消滅さ!」
富と名誉?死神?
どうしてアレック?
何がアレック?
アレシアは目が回りそうになりながら必死に考える。
頭の中はもう考えたくないと悲鳴を上げているのにもかかわらずアレシアは考えた。
何故自分はここに連れてこられたのか。
彼らの言うアレックは誰なのか。
もう逃げられない。
「おい!何やってんだ!」
遠くから何やら揉める声がした。
男も青年ももういない。
ドアも閉ざされていた。
視界には落ちてきた刃物らしきものと倒された椅子そして窓に映る満点の星空。
写真はどうやら男が拾っていったらしい。
アレシアは刃物らしきもので手足を縛っていた紐を切り立ち上がった。
全身の力を振り絞って歪んだ窓を開け外に飛び出した。
外に出て初めてここが長年空き家だった場所だと気づき村のワイナリーへ急いだ。
満天の星は何事もなかったように道を照らし続けている。
アレシアは息を切らしながらも走った。
ワイナリーに駆け込んだ時、レオナは居なかった。
部屋の奥からジェシーがものすごい速さでかけてきた。
「アレシア!!」
ジェシーはアレシアにしがみついた。
「無事でよかった!私、死んじゃったかと…!」
ジェシーは涙声で大きな声を出した。
「バレミーのハリー分かる?いつも遊んでる、あの子がアレシアが出てっちゃった時に涙一杯溜めて駆け込んできて言うのよ!兄ちゃんのラウンスが悪い仲間とつるんでて、今朝ハリーに今夜村中火の海だって誇らしく言ったんだって!ハリー誰にも言えなくてずっと抱え込んで、だから今日はまったく遊んでくれなかったんだわ!今みんな、レオナおばさんもアレシアを探しに行ってしまったのよ!」
ジェシーはお得意の早口で話しながら二階の部屋に上がっていくアレシアに付いて行った。
アレシアは大型のパソコンを開いてキーボードに打ち込んだ。
(…アレック…死神…)
検索のトップに大きく書かれたサイトの題名にアレシアは目を見開いた。
『The Grim Reaper』
『憎いと思っても届かない理不尽な世の中の清掃屋』
支配人に目が移った。
アレック。
そんな名前世界中にいくらでもいる。
そんなこと知っているはずなのに頭の中ではもう確信していた。
何故彼なのか。
それはアレシアの記憶に焼き付いているから。
アレシアは知っている、恐ろしい彼の姿を。
これは白い糸なのだ。
夢の中から出てきた運命の白い糸。
もう逃げることは出来ない。
画面は下にスクロールされる。
『受け付けは終了いたしました』
『管理人からのメッセージです』
『君たちの死神は退屈だそうだ。そこで提案がある』
『もし、死神を見つけられたら莫大な富と名誉を授けようじゃないか』
『嘘じゃない。死神は何事も確実にやるのを君たちは知っているはずだ』
『待っているよ、諸君』
「アレシア…どうしたの?」
パソコンの前でじっと動かないアレシアを心配そうにジェシーは見つめた。
アレシアはゆっくりとジェシーと目線を合わせるようにしゃがんだ。
「…ジェシー…私の話を…聞いてくれる?」
ジェシーはアレシアをじっと見た。
「うん」
少女は頷いた。
「私、探さなくてはいけないものがあるの」
「…探さないといけないもの?」
「うん」
それは今まで逃げていた過去の記憶。
「だから私はここから出なくちゃいけないの、今すぐに」
「何処に!?」
ジェシーの不安そうな顔になるべく優しく語りかけた。
この子は巻き込んではいけない。
この子はまだ何も知らなくていい。
「ずっととは言わないわ。いつかはきっと戻ってくる」
「本当?」
小さいながらも引き留めようとしても無駄だと分かっているのか素直にジェシーは聞いてくれていた。
「本当に帰って来てくれる?」
「うん、約束だよ…ごめんね」
アレシアはそう言ってジェシーを抱きしめた。
その暖かい小さな体は小刻みに震えていた。
すんすんと小さな泣き声が部屋に響いた。
真っ暗で頼りない道を夜行バスは走っていた。
窓の向こうは真っ暗闇…。
まるで私のこれからみたいだ。
アレシアはバスに揺られながらも溜息をついた。
五年間世話になった家をいきなり飛び出すなんて恩を仇で返すようなものだ。
それでも出なくてはならなかった。
きっといろんな人たちが私を探してるに違いない。
そして捕まえようとしている。
私を誘拐した入れ墨の男はあの写真を持っていた。
アレシアはポケットから長年押入れの底に押し込んでいた写真を取り出した。
あの男が持っていた写真と同じものだった。
この写真が世に出回っているのである。
これを見る輩はこう思うはずだ。
アレックという少年の隣にいる少女、アレシアが場所を知っているのではと。
しかしアレシアは彼の居場所、生きているのかさえ知らなかった。
彼は孤児院からあの日姿を消したのである。
あの日はアレシアの記憶にこびりついて落ちない。
孤児院の裏庭での忌まわしい出来事…。
それからアレシアはあの日から逃れようとした。
しかしもう逃げるわけにはいかない。
過去からはどうしても逃げられないことを悟ってしまったのだ。
死神のアレック、それはアレシアのこの世で唯一血のつながった双子の弟。
第一話終わりです
ところどころ描写を間違えていたので少し直しました
他にも間違いを見つけられたらコメントください




