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第21話 嬉し恥ずかし温泉旅行!?

 「ハァ~生き返るぜ~…………。」

 「おっさんくせぇぞ疾風。でもまあ……そうだな………」

 俺と疾風は、貸切状態の温泉に入っていた。周囲は雄大な自然で囲まれている露天風呂。確かに疲れが癒えるようであった。

 「箱根まで来た甲斐があったよなー……」

 疾風が言った。そう、俺達は今、春休みを利用して箱根に温泉旅行に来ていた。一応、箱根と神凪島は同じ神奈川県に属しているのだが、それなりの距離がある。それでなぜ箱根に来ているのか。きっかけは半月程前に遡る。


 浅田晋也との一件の後、家に帰った俺は大きな疲労感に包まれ、数日間寝込む事になった。神力を大きく消費したのが大きな原因だった。

 「神大君……大丈夫?」

 由季が心配そうに看病をしてくれている。霊力に目覚自らの父親を手にかけたばかりだというのに、俺の心配をしてくれていた。

 「ありがとう、由季。由季こそ……大丈夫か?」

 俺が聞くと、由季は一瞬曇った顔になったが、すぐに笑顔を作りこう言った。

 「……うん。いろいろ一辺に起きて少し混乱はしてるけど……でもその反面、ちょっとだけホッとしてる私がいるの。おかあさんと会えたし、お父さんを浄化してあげることが出来たし……。……お母さんも、少しは安心出来たのかな…って。」

 今回の一件で、由季なりに感じた事があるようだった。

 (そういえば…………)

 俺は、今回の一件について気になったことを由季に聞くことにした。

 「なあ……由季。」

 「ん……何?」

 「あのさ……由季が使った……"霊装"なんだけど……。」

 言いかけると、由季の顔が曇った。

 「いや、言いたくないならいいんだけど、この先の事を考えると俺は心配でさ…………」

 今回の一件で、由季は"力"に目覚めた。俺達の"神力"、直属魔兵団が扱う"魔力"、未だ見えぬ"妖力"の三源力とは違う何かではあるが、力には変わりない。そしてその力を持つということは、これから敵と戦っていく上では無視できない事になってしまう。最悪の場合、由季までもが、戦いに身を投じることになるのではないか?俺はそれが心配で仕方が無かった。

 「俺は……俺は由季に戦って欲しくないんだ。」

 俺が言うと、由季はハッとした顔になった。何か言いたそうにしていたが、俺は構わずに続けた。

 「……今回、俺は正直いって由季を護ることが出来なかった。俺の力は、浅田晋也には通用しなかった。由季が霊装を纏い霊器を振るって戦ったから、倒すことが出来た。……これは紛れもない事実さ、でも……。……これから先、より強い敵が出てくることはまず間違いないだろう。……そんな時、俺は…………由季、君がいなくなっちゃうんじゃないかって……心配なんだ……。」

 「神大君…………」

 「……俺は強くなる。由季を、皆を、あらゆるものから護れるぐらいに……強く。だから由季……君は…………」

 "二度と戦わないで欲しい"。そう言いかけた瞬間、俺の口は由季の口付けによって塞がれた。

 ……しばらくして、由季は唇を離した。

 「ちょっ……由季……!何を……!」

 「……大丈夫」

 俺が頬を染めて叫ぶと、由季はそう呟いた。

 「え…………?」

 「……大丈夫だよ。……私は、いなくなったりしない。……私は今まで、神大君に支えられてきた。護られてきた。でも今回初めて……神大君を護ることが出来たの。だからこれからは……私も神大君を護りたいの。」

 由季の決意を聞くも、俺の中の不安は拭われない。

 「でも……でもそれじゃあ……!」

 俺が口を開くと、由季は首を横に振った。

 「……神大君が心配してくれているのは分かってるよ?今回は私の力で何とかなった……。でも……これから出てくる敵はどうなるかは分からない……。私の力じゃ敵わないのも…分かってる。」

 「だったら……!」

 「……神大君は、約束してくれたよね?私をずっと……どんな時でも……守ってくれるって。さっきも、強くなるって言ってくれた。私は、それを信じてる。これまでも……これからも。だから神大君には、これからも私を支えて欲しい。私も……神大君を支えるから。……本当の恋人って、そういうものでしょ………?」

 「由季…………」

 出会った頃は俺に守られるばかりだった由季。それがいつの間にかこんなに強くなっていたのだ。

 「……私も……戦うよ。神大君と……一緒に。」

 俺は起き上がり、由季を抱き締めた。

 「ああ……分かった。……一緒に戦おう。……大丈夫。由季は必ず……俺が守る。」

 俺達はそのまま顔を近付けると、互いを支え合うという誓いの口付けを交わした。

 「ん…………」

 暫くして唇を離すと、由季の甘い吐息が聞こえてきた。由季がそのまま俺に俺にもたれ掛かってくる。

 甘い雰囲気に包まれたベッド。(さが)からか、気持ちが高揚してくる。

 「由季………………。」

 呟き、由季の肩に手をかけようとした瞬間、俺のケータイが鳴り響いた。

 「うおぅっ!!」

 俺はビックリしながら跳ね起きた。由季も驚いた顔をしている。

 動揺と微かな苛つきが混じりあった声で、俺はその電話に出た。

 「……なんだよ疾風。」

 俺の心情が伝わったのだろうか。電話の向こうから苦笑する音が聴こえてくる。

 『あー……お邪魔だったか?』

 疾風の的を射た発言に対し動揺しながらも、俺は平静を装った声で答えた。

 「……いや別に。それより用件は…?」

 『やっぱ怒ってんのか?……まあいいか。それでよ、春休み、なんか予定あるか?』

 「……特には無いけど。」

 『そうか。それじゃあ……皆で箱根行こうぜ。』

 「は……?」

 そうして俺達は、箱根へと温泉旅行に向かうことになったのだった………………。


 そして今に来る。

 「それにしても、まさか双葉が旅行券を連続で引くとはな……。」

 俺は湯船に浸かりながら呟いた。

 あの電話で疾風に詳しい話を聴いたところ、何でも、街の商店街の40周年記念くじ引きで、4つ用意されていた特賞の箱根温泉旅行ペア旅行券を、双葉が4連続で引き当てたらしかった。恐るべき程の強運である。その旅行券を使い、俺と由季、疾風と佳奈、美咲と渚、双葉と一馬さんの旅費を浮かせたのだった。

 「ホントだよなー……。ま、こうやってタダでゆったり出来るからいいんだけどなー……。」

 40周年記念の特賞だけあって、用意されていた旅館はかなり立派な所だった。4つ分の部屋を俺達が1つのグループで使うのも申し訳ないと思い旅館の女将に言った所、一般客には宿泊させていないという大部屋を提供してくれた。男女が一緒なので女性陣の反応が心配だったが、意外にもすんなりと了承して、むしろ喜んでくれた。それが、この大部屋宿泊客専用の露天風呂のためだったかどうかは聞かないでおいた方がいいだろう。

 因みに、男性陣のもう一人である一馬さんは、風呂に入る前から酒を飲んで酔い潰れていたため、部屋に置き去りにしてきた。目覚めた頃には露天風呂の入浴時間は終わってると思うが自業自得だろう。

 「それでねー由季ってば~……」

 「ちょっと佳奈!止めてよ~!」

 「双葉さん……スタイルいいですね……」

 「みーたんも中々。その手の層には人気が出る。」

 壁の向こうからは女性陣のキャッキャウフフな会話が聞こえてくる。俺達でさえ悶々としてくるのだ。一馬さんがいなくてよかったと、心から思う。

 

 一足先に部屋に戻った俺達は、女性陣が上がってくるのを待っていた。何でこう、女性というのは風呂が好きなのだろうか?俺達には到底分からない疑問であった。

 暫くして、目を覚まし忙々と露天風呂に向かう一馬さんを、もう間に合わないだろうという事を確信しつつも無言で送り出した俺達の下に、女性陣が帰ってきた。その浴衣姿に、俺達は言葉を一瞬失った。浴衣姿そのものは、祭りで何度か見ているが、その旅館浴衣と風呂上がりの色香が相まって、麗しい色っぽさを醸し出していた。

 「な、何ですかジロジロ見て……。変……ですか……?」

 俺達の視線に堪えきれなくなった渚が、頬を赤らめながら言ってきた。

 「いや……皆……綺麗だな……って」

 俺が本音を溢した。すると……

 「え……なっ……綺麗って…………。べ、別に嬉しくなんか無いですけど……一応その…お礼だけは言っておいてあげます…………。」

 「神大君、意外とそういう所は大胆なんだね。でも誰にでも言わない方がいいよ……?まあその……ありがとう。」

 「先輩……あ、ありがとうございますっ!」

 浴衣姿を余り褒められたことが無いのか、渚・双葉・美咲がそれぞれ照れながら礼を言ってきた。こっちまで恥ずかしくなってくるようだった。

 暫くして、トボトボと戻ってきた一馬さんを加えつつ部屋でのんびりしていると、部屋の戸が開いた。

 「失礼します。お食事をお持ちしました。」

 そう言って一人の仲居さんが入ってきて、その場に膝を突いた。

 その人の美しさに、俺達は目を奪われた。男性陣のみならず、女性陣までもが。

 (この人……綺麗だ……。あれ……でも何だろう……?歳が余り離れていないような……?)

 俺の抱いたその疑問はすぐに解決されることになった。

 「今日と明日、皆様に尽くすことになりました、神楽坂(かぐらざか)(さくら)と申します。年齢は16という未熟者ですが、神楽坂の名を継ぐ者として、しっかりと御奉仕致しますので宜しくお願いします。」

 そういって彼女は、立派な礼をしてきた。

 神楽坂。ここの旅館の女将も、"神楽坂"だったはずだ。ということは、この娘はその後継ぎなのだろうか?

そんな疑問を抱えながらも、年下の娘にいつまでも頭を下げさせておくのも忍びなく、俺は声をかけることにした。

 「あ、いいですよそんなに賢まらなくても。俺達、偉い訳でも何でも無いですし…俺も年齢が一個上なだけですし…。」

 そう言うと、彼女は頭を上げた。

 「……そうですか。失礼致しました。では、お食事をお配り致しますので、少々お待ちください。」

 そう言って彼女は食事を配り始めた。俺には、彼女がどこか無理をしているように見えて仕方が無かった。

 「「いっただきまーす」」

 俺達が和気藹々(わきあいあい)と食事を楽しんでいる間も、彼女は正座のまま動こうとしなかった。何でも、ここの大部屋には専属の仲居さんが常時付くのが当たり前らしく、研修の一環ついでとして彼女が選ばれたらしい。

 さすがに見るのに耐えきれなくなった俺は、彼女に話しかけることにした。

 「えーっと……桜さん、でしたっけ……?楽にされてもいいですよ…………?」

 しかし彼女は、首を横に振ってこう言った。

 「私は神楽坂の名を継ぐ者。そんな事は許されません。それに……そんなことをしたらお母様に…また…。…っ!何でもありません。」

 その切なそうな表情を見て、俺は悟った。恐らく、神楽坂家は由緒正しき家系なのだろう。その後継ぎともなれば自分のしたい事が出来なくその家庭のルールに縛られる。世間ではそう少なくないケースだが、さっきから気付かれないように辛そうな顔を見せる彼女を、俺は放っておけなかった。

 「……桜、辛いだろうから足を崩していいぞ?」

 先程と言葉を少し変えて言っただけで、彼女は明らかな動揺を見せていた。彼女が家柄を無理強いされているという俺の予感は、果たして的中したと確信した。

 「え…………?その……えっと……は、はい……。」

 彼女は言われるがままに足を崩した。それは、今まで命令ばかりされてきたことの表れだったように思えた。

 「あ、あれ……私……?………貴方、なんで……?」

 彼女の動揺に、俺は穏やかな口調で言葉を返した。

 「君に似た境遇(きょうぐう)だった人のことを…俺は良く知っているからね。……そういや自己紹介がまだだったよな?俺は神条神大。宜しくな、桜。」

 俺に続けて、皆が口々に自己紹介をしていく。全員の自己紹介が終わると、彼女は困惑した表情で呟いた。

 「皆さん……何でそんなに……優しく……。これじゃあ……私………………。」

 同年代の人と喋ることすら余り無かったのだろう。彼女は暫く戸惑っていたが、やがて泣き笑いのようなものを浮かべながら、口を開いた。

 「……私の事は、桜ってよんで下さい……。皆さん、改めて宜しくお願いします……。」

 そう言ってはにかんだ彼女の笑顔は、もうじき咲く桜のように美しかった……。

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