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第19話 願いと心

 "霊装"……佳奈はそう言った。

 ……以前神大君は言っていた。この世界には、神技・魔法・妖術の3源力のいずれかの"力"を持つものがいると。

 では……霊装とは何なのか?

 なぜ、"力"を持たないはずの佳奈が使えるようになったのか……?

 そもそも……"力"とは、何なのだろうか……?


 「ハァハァハァ……」

 佳奈が息を切らしている。先程の一撃でだいぶ体力を使ったのだろう。そもそも佳奈は大きな傷を負っているのだから無理も無いことだろう。

 「佳奈……大丈夫……?」

 私は佳奈にそう尋ねた。

 「……へーき。……!神癒ノ調…裏二節:時雨(しぐれ)ノ矢」

 佳奈が叫ぶと、光の矢が雨のように降り注いだ。それらが、いつの間にか迫っていた複数の闇のエネルギー弾を貫いた。どうやら敵の魔法使いがまだ2人程残っていたらしい。佳奈は攻撃が飛んできた方向に弓矢を掲げた。

 「あいつら……まだ!裏一節:神滅ノ……うぐっ……!?」

 佳奈は突然悲鳴を上げると、その場に(うずくま)った。

 「佳奈!」

 私は佳奈に駆け寄ろうとした。

 その刹那、私の頬をかすって何かが通り過ぎていった。

 「……っ!?」

 火傷のような痛みが走った。

 「チッ……狙いを外したか」

 向こうの方から男の声が聞こえてきた。……よく知っている、男の声が。

 (この…………声…………は…………)

 男が姿を見せた。その瞬間、由季の思考が凍りついた。

 「やあ由季、我が愛娘よ。…お仲間共々死んでくれ。」

 その男はかつて、志穂の夫、由季の義父として共に暮らしていた男……浅田晋也(あさだしんや)だったのだから。


 「……本当は殺したく無いんだがな。ジン様の命令とあれば仕方ない。対象外の人間も数人いるが、まあ……殺すしかなかろう。」

 「……誰がそんなこと……させるもんですか……!」

 佳奈が立ち上がり、晋也に向けて弓を構えた。

 「……ほう?調べでは女どもの中に戦えるものはいなかったはずだがな。……邪魔だ。お前ら、やれ。」

 晋也の命を受け、敵の魔法使いが魔法を放った。

 「神癒ノ……あ……れ……?」

 佳奈の体がグラリと揺れて、地面に方膝を突いた。そのまま闇の弾は殺到し、直撃した。

 ドサッ……

 佳奈がその場に倒れこむ音が聞こえた。

 「佳奈……!」

 「フン……これで邪魔は消えたか。さて……」

 晋也がこちらを見据えた。

 「由季……私は君に再会出来る事を楽しみにしていたのだよ?そんなに怯える必要はない。私の今の力を持ってすれば一瞬で楽になれるさ。さあ、こっちにおいで?」

 晋也がこちらに歩みよってくる。

 「嫌……!」

 「嫌だと……?君は私の娘じゃないか?何が嫌なんだい?ほら……楽にしてあげるから……さあ……!」

 晋也が私に手を伸ばした。私はその手を振り払った。晋也の顔に微かな同様の色が浮かぶ。

 「私は貴方の娘なんかじゃない!貴方と私は親子でも無ければ家族でも無い!」

 私が言い切ると、晋也の表情は怒りへと変わった。

 「何……?……小娘の分際で。ほざけぇ!」

 私の腹に蹴りが入れられた。そのまま私の身体は地面を転がって、崖すれすれで止まった。

 「由季さん!」

 渚が駆け寄ってきた。しかし。

 「お前はお呼びじゃない。失せろぉ!」

 鳩尾(みぞおち)に強烈な蹴りを入れられた渚は、その場で昏倒した。

 「なぎ……さ……うぐっ……!?」

 晋也が更に蹴りを入れてきた。私の身体は先程の場所へと転がった。

 「喋るな!貴様に魔法など使う価値は無い。このままいたぶってやろう!」

 蹴られ、叩き起こされ、殴られ、蹴られ。

 その繰り返しで精神と身体が磨り減っていく最中、私は朦朧(もうろう)とした意識の中に陥っていた。

 (……私の、せいだ……。私に……力が無いから……。ううん……きっとそれ以前の問題……。あの頃、お母さんを支えてあげられなかったから……。家庭環境が悪くなっていって……晋也さんもこんな風になって……。……きっと私が悪いんだ……。私に力さえあれば……。私……私は…………。)

 「……死ね。ブラッド・イクリプス。」

 宙に放り投げられた私に、数十に及ぶ血の刃が襲いかかった。

 (皆……ごめんなさい……………………)

 私は目を瞑り、(とが)の痛み……そして死を覚悟した。しかし。

 「……(ぜろ)!」

 血の刃は、この場にいるはずのない人物によって掻き消された。

 「浅田……晋也!!」

 現れた人物…神大君は、浅田晋也へと怒りの刃を向けた…。


 「由季……大丈夫か?」

 「う……ん……。……でも……何で……?遠征……は……?」

 由季が途切れ途切れの声で聞いてきた。

 「……由季は俺が守る。そうだろ……?」

 「……うん」

 由季は力なく微笑んだ。

 俺は周りを見渡した。渚、双葉、美咲、佳奈が薙ぎ倒されている。

 「浅田晋也!!テメェ……!」

 俺は晋也を睨み付けた。

 「フン……やっと出てきたか神条神大!私は待っていた!貴様に復讐をする機会をなぁ!」

 「……!まさか……それだけのために……皆を!」

 「それだけのため……?私がどれだけの思いをしてきたと思っているんだ!あの日、我が愛娘の殺害を邪魔されて以来、どれだけ!……由季を殺すのは簡単だ。だが、貴様を殺さなければ、私の気はすまない!だからさらなる力を得た!ジン様の力をも……お借りして!」

 晋也が叫ぶ。

 俺はある疑問へと至った。

 「ジン様……ソイツがお前らの親玉か!?お前もあの、直属魔兵団とやらの一員か!」

 「直属魔兵団……?そんな下等な連中と一緒にしないでいただけないかな?下っ端だったのは昔の話……、私は今となっては、ジン様の右腕とも呼べる存在なのだ!」

 「……何が右腕だ、何が復讐だ!テメェは俺が…倒す!」

 俺は右手の絶零の剣<アブソリュート>を、晋也へと向けた。

 「……やれるものならやってみろ。お前ら!……おい、どうした…………?」

 晋也が部下に呼び掛けているが、反応が返ってくるはずは無い。なぜなら、この場には俺の他にもう一人の神技使いがいるのだから。

 「悪いな、お前の部下は倒させて貰ったぜ?加減する必要はねぇよな……?神大、行くぞ。」

 疾風の言葉を合図にして、俺は地面を蹴った。

 「チッ……まあよい。ブラッド・イクリプス!」

 晋也が数十に及ぶ血の刃を放った。

 (さっきと同じ技……!軌道は覚えてる……。そのままヤツに返す!)

 「零!!」

 "血の刃"という対象から"浅田晋也"という対象までの空間が零になり、晋也は自らの攻撃にその身を焼かれる……はずだった。

 「何……!?」

 晋也は無傷だった。と言うよりも、血の刃はそのまま体に溶け込んでいった形跡がある。

 「セェィ!真空の暴風刃<メルスラッシュ・ストリーム>!!」

 疾風が晋也に斬撃の嵐を浴びせた。晋也の体は細切れになるはずだった。しかし。

 「……!?くっ……零!」

 斬撃の嵐は、晋也の体を突き抜けて俺に向かってきた。俺はやむ無くそれを零で収束・消滅させた。

 晋也の体は、全くの無傷だった。

 「テメェ……どういうことだ!」

 俺が苛立ちを込めて叫んだ。すると晋也は、不気味な笑みを浮かべながらそれに答えた。

 「フフフ……その顔を求めていたんだ。……良いだろう教えてやる。……私の身体は、"血"のみで出来ている。」

 「血……のみで……だと……?」

 驚きに目を見開きながら疾風が呟いた。

 「……そうだ。正確に言うなれば、魔法の力で、臓器・骨・水分・脳などの全ての体構造を血へと変えたのだ。」

 「チッ……ってことは……!」

 「察しがいいな。……私にダメージを与えることは、事実上不可能なのだよ!」

 何たることだろうか。俺の神技は直接攻撃系ではなく、疾風の神技は逆に直接攻撃過ぎてダメージを与えることは出来ないはずだ。

 「フン……せいぜい絶望しろ……ブラッド・スコール!」

 晋也が言い放つと、俺達の頭上から無数の血の雨が降ってきた。その雨一粒一粒は、強大な魔力を纏っていた。

 「くそ……零!」

 「護風陣<ウインド・ヴェール>!」

 俺と疾風がそれぞれ神技で対抗する。しかし、血の雨は一向に降りやむことは無かった。

 (くそ……防戦一方だ……このままじゃ……神力が……)

 そもそも、本州への遠征から戻ってくる際にも、長距離移動によりそれなりに神力を使っているのだ。晋也の断続的な攻撃に耐えきれなくなるのも時間の問題だった。

 ふと、血の雨がピタリと止んだ。反射的に晋也がいた方を見ると、そこにその姿は無かった。晋也は、俺達の目の前に肉薄していたのだから。

 「しまっ……!」

 「ブラッド・イクリプス」

 俺と疾風は、数十に及ぶ血の刃をまともに受けて、その場に崩れ落ちた。


 「神大君・疾風君……!」

 私は地面に這いつくばりながらも、崩れ落ちる二人の名を呼んだ。

 二人は立ち上がろうとしているが、体に力が入っていない様子である。私もさっきから体に力がほとんど入らない状態だ。

 「何だ……これ……力が……」

 神大君が息を詰まらせながら呟いた。

 「フン……今頃気づいたのか。それは私の力によるものだ。私の攻撃は全て私の血から作り出されている。そして私の血には神経毒が含まれており、触れたものを痺れさせる。無論私自身は抵抗を持っている。相手を痺れさせ、そこに無慈悲な血の雨を降らせる……。故に我が呼び名は……"ブラッディ・レイン"!」

 「ブラッディ・レイン……血の……雨……。」

 私は無意識のままに呟いた。

 神経毒と言ったか?佳奈が方膝を突いたのも、きっとその毒によるものだったのだろう。この場で回復系の力を使えるのは佳奈だけだが、佳奈は気絶してしまっている。それに加え、私以外の女子全員も気絶している上に、神大君と疾風君も現在立てない状況である。

 (私しか……いない……!私が……何とかしなきゃ……!)

 そう思う一方で、もう1つの感情が込み上がってくる。

 (でも……私には力が無い……。美咲と双葉が持ち前の格闘技で戦って……渚が冷静に状況を見極めようとして……佳奈が霊装を顕現させて敵を薙ぎ払って……神大君と疾風君が駆け付けて戦ってくれて……それなのに……私は……。私には…………。もう……………………。)

 『そんなことないよ』

 知らない女性の声が、私の意識の中に直接響いた。

 「え……………………?」

 それと同時に私の意識は、何も無い空間へと引きずり込まれた。


 (ここは……いったい……。それより、さっきの声は……)

 私が困惑していると、声は再び語りかけてきた。

 『そんなことない。……貴女にはちゃんと、力が眠っている。』

 優しく、それでいて力強く語りかけてくる女性の声。知らないはずの声なのに、不思議と初めて聴いた気はしなかった。

 「私の中に……力が……?……そんなの……ないよ……。だって……私は………………。」

 『ううん。それは、貴女が本心から力を望んでいないだけ。……人は誰でも力を秘めているの。でも、無意識の内にそれを塞ぎ込んでしまっている。……貴女は鍵を外そうとしている……。でも、どうしてもそれが出来ないでいる。』

 「秘めた力の鍵を……外す……?でも……私……私は……。」

 『父親・・を、傷つけられない。』

 「…………っ!」

 『……本当は気付いていたのでしょう?彼が……浅田晋也は義父では無く、実の父親だということに……。旧姓、蕩野晋也だということに。』

 「……何で……それを……?」

 女性の声はその問いに答えようとせず、別な言葉を返してきた。

 『……蕩野志穂がこの世を去って暫くして、貴女は志穂の部屋で志穂の日記を読み、その事実を知った……知ってしまった……。死んだはずの蕩野晋也が、浅田晋也として生きていたこと。性格も見た目も別人のように変わっていたこと。それでも貴女の為にと再婚を決意したこと。その結果、浅田晋也とは性格が合わず、離婚することになってしまったこと。それが間接的な原因となって、自分が病魔に蝕まれてしまったこと。そして、貴女とすれ違ってしまったこと。……彼女の想いを知った貴女は、どうすることも出来ず、ただただ誰かに謝った。それは義父だと思っていた実父に対してか。日記を残し死んでしまった最愛の義母に対してか。それとも……自分に対してか。』

 「私……私は…………。」

 私は唇を噛み締めて震えながら、涙を堪えていた。……すると女性の声は、今までよりも穏やかなものとなった。

 『……もう、いいのよ?貴女は……自分を責めなくて……自分を許して……もう、いいの。……貴女が笑っている、貴女が楽しんでいる。それだけが、私の幸せなのだから。』

 「………………………………」

 『過去を乗り越えて、そして貴女の父親を解放してあげて?……彼の魂は支配されているの。だから彼を倒して……救ってあげて?貴女の……父親を。志穂の……夫であった人を。…………私が、愛していた人を。』

 「え………………?あなたは……もしかして…………?」

 『……ええ。10年前のあの事故で死んでから……ずっと貴女を見守っていたの。貴女は私を覚えていないかも知れないけれどね……。』

 私の心の中に暖かい気持ちが広がった。不思議と震えは収まっていた。

 「……ううん、分かるよ。だって……暖かいだもん……。この暖かさ……優しい声……覚えてる……。」

 『由季………………。』

 「……もう大丈夫。私が、お父さんを救う。そして、皆を助ける。だから見守っていてね……私の力になってね………………………おかあさん。」

 

 意識が元に戻る。痺れていたはずの手足には、熱が戻っていた。そして、私の体を眩い…それでいて暖かい光が包んだ。私はその場で立ち上がった。

 「……"霊装・四季駘蕩(しきたいとう)"」

 光は形を変え、私の身にきらびやかな羽衣が纏われた。

 (おかあさん……それにお母さんも、見守っていてね。……お父さん、今助けてあげるからね……。)

 「揺蕩(たゆた)え……雪月風花(せつげつふうか)

 柄の先から紐が揺れる美しい長刀を手に、私は父親・・へと向き直った……………………。

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