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沸かされた風呂からあがると、約束通りに温かいミルクティとパンが食卓にあがっていた。それだけで少し幸せな気持ちになれる。口にしたパンは素朴な味わいで、溶かしバターも作りたててまろやかな風味がある。ミルクティも人肌よりもいくらか熱い、ちょうどよい温度。思わず表情が緩んでいるボクを、千絵さんもまた緩んだ表情で見ている。心地の良い時間だ。
「ごほっ」
ふとした拍子にミルクティと食べかけのパンが気管に入り、むせてしまう。その瞬間穏やかだった空気が一変する。
「芹沢さん、大丈夫ですか!? 病気ですか!? それとも、おいしくなかったですか!?」
ロボットである千絵さんには、「むせる」、「咳き込む」、「くしゃみ」のような生理現象の感覚がわからないし、区別もできない。だからこそ、ただ食事にむせただけで、異常なほどに心配をしてくるのだ。
「こほっ、ああ、うん。大丈夫ですよ。ちょっとパンが引っかかってしまっただけです」
ボクの答えても、彼女は心配そうな表情のままだ。
「ええ、本当に大丈夫ですよ。ほら、顔色も悪くないでしょう? パンもお茶もおいしいですよ。ほら、おいしくてもうなくなってしまった。うん、おいしいお茶だったからおかわりが欲しいな。千絵さん。お願いできますか?」
おかわりを頼むことで、ボクを心配することより、仕事をすることの優先度が上がったのだろう。彼女は笑顔になってうなずき、おかわりの用意をし始める。こういうとき、やはり彼女は人間ではないんだなと改めて感じて、不思議な気持ちにさせられるのだった。