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小人の国  作者: 夏野ゲン
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 その日は雨だった。適度な雨は畑を潤し、作物の育ちを良くする。ただし、梅雨のこの時期は少しばかり話が違う。多すぎる水は作物を倒し、ときには根腐れをおこす。気が早くついてしまった実などは雨を受けてひびが入ったり腐ったりと、良いことばかりではない。

それにこの時期は飼料の管理にも気を使わなければいけない。栄養たっぷりの餌はそれだけで雑菌の温床になる。それに湿度が加われば、飼料袋は数日とたたずにカビだらけになってしまう。昔からある「晴耕雨読」なんていう言葉のようにはなかなかうまくいかないものだ。


 畑の様子を軽く見まわした後に、アグとグリに指示して、鶏に餌を与えさせる。礼によってアグは自分の有能さを示すように必死に駆け巡り、グリは淡々と仕事をこなしている。

 前もって空調を入れて、除湿剤も用意していたおかげで、今のところ飼料庫がカビの海に埋もれることはなく、一安心だ。


 午前のうちに家畜の世話を一通り済ませ、畑の見回りを済ませてから家に戻る。玄関で雨具を脱いでいると、


「お疲れさまでした。濡れませんでしたか?」


 と声がかけられる。振り返らずともわかる。この家で会話ができる相手は、ヒト型のロボットの千絵さんしかいない。


「ああ、なかなかひどい雨でしたよ。雨具を着てても少し濡れてしまいました」


 雨具を脱ぎ終えて玄関に上がると、千絵さんは笑顔のままで固まっている。恐らく返答の言葉を考えているのだろう。2秒ほどのタイムラグの後、彼女はこういう。


「ああ、それでは風邪をひいてしまいます。お湯を沸かしますからお風呂に入ってください。その間に温かいお茶と昼食を用意しておきますから」


 ボクは笑顔でお願いしますと答える。

 その答えを聞いてからまた2秒後くらいに、いい笑顔になった千絵さんが、にっこりと満面の笑みを浮かべて、胸をドンと叩く。


「任せてください!!」


 何か仕事を頼んだ時の彼女は、とてもいい笑顔で笑う。その表情はとてもロボットのものとは思えないくらいに生き生きしていて、働いている時の彼女は実は人間なんじゃないかと疑ってしまうほどだ。




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