小人の国34
スチュワートがネコとして記録した映像媒体を、人間用へと変換し終えた。直接脳内へ情報を入れてもいいかもしれないが、それだと石渡さんと同時に映像を確認することができない。そこで、一度ネットワークにお互いの意識を再びリンクしてから、映像を主観視点映し出すという手段をとることにする。
僕は先にプライベートモードの空間にアクセスする。その空間はまだスチュワートの世界にはなっておらず、先ほど石渡さんと向かい合った席が残ったままだった。
「ふむ、なんか時間がかかっているみたいだね」
僕に遅れてネットワークのプライベート空間に現れた石渡さんは、怪訝そうな顔でそう言う。
「はい。猫の映像を人間用に変換したうえに、それを主観視点に変換して、さらにその視点の中に2人の意識を違和感なく紛れ込ませるなんていう、むちゃくちゃ高度なことを要求しているので、流石にこのコンピュータも悲鳴をあげているみたいです」
「ふむ、それはそうだろうね。ネットワークアクセスとは違って、現実にあるものを主観的に違和感なく2人分融合して再構築し直すというんだから、普通に考えて尋常じゃない情報処理量だな」
そんな風に話していると、白い壁で覆われていたプライベート空間の上部から光が差し込んできた。
上を見上げると卵の殻が割れるように、空間の上部からヒビが入り、曇天が見えてくる。上から広がったヒビは一気に部屋全体に広がり、次の瞬間には全てはじけ部屋の外の世界になっていた。
「なかなかステキな演出だったね」
そもそもそんな演出を設定した覚えのない僕は、彼女の感心したような様子に苦笑いで答えた。
「勝手にステキな演出してくれたみたいです。いまの演出がなかったら、もっと早く処理できてたんじゃないかな」
「でも、私は楽しかったよ。確かにホビーは早く見つけたいけど、楽しませてもらえるのは悪い気分じゃないさ」
「そう言ってもらえると、うれしいですね」
笑顔を浮かべた彼女に、僕はそう答えた。




