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レンガで固められた遊歩道を進んでいく。着飾った女性たちや、カップル、親子連れなどその構成はまちまちで、それが面白い。
「そんなにきょろきょろしてると、また客引きに連れていかれるぞ~」
石渡さんのそんな言葉に、頭をかきながら答える。
「ああ、これじゃあまるで、『おのぼりさん』みたいですね。かっこ悪い」
「おのぼりさん?」
石渡さんが怪訝な顔をしたのを見て、この言葉が既に使われていないということに気が付く。
「ああ、昔は田舎から都会に出てきた人をおのぼりさんって言ったんです。首都を中心にして、首都に近づくことを上り、遠ざかることを下り。だから、おのぼりさん」
「へえ、詳しいね。芹沢君。古文でも学んでるのかい?」
僕は首を横に振る。
「いえ、ただ昔の人間の書いた本を読んでいて、そういう文があっただけです」
「へえ、本なんて読むんだね。脳波ネットワークから情報媒体をダイレクトに読み込めるから、本読む人間なんて希少価値だよ。こっちの世界じゃ」
「いい暇つぶしになるんですよ、本を読むのって。それに、頭に直接内容をたたき込まれるのと、文字を追ってストーリーを噛みしめるのとじゃ、かなり印象が違って感じるものですよ」
「そんなもんかね?」
「そんなもんです」
こんな他愛のない会話をしているうちに、目的の洋服店の前にやってきた。
看板には「ユニ」と白い縁取りの赤文字で書かれており、店内は混みすぎというほどでもなく、適度ににぎわっていた。
「さて、スポーツウェアを買うことには決めてるし、さっさと試着室に行こうかね」
「え? 商品見なくていいんですか?」
「うん? ああ、そうか。芹沢君、ここで買い物したことがなかったんだね。ここでは買いたい商品がある程度決まっていたら、試着コーナーに直行した方が早いんだよ。来ればわかるさ」
彼女の言葉に首をかしげながらも、僕は後について行く。そして、試着室について過ぎに意味がわかった。
試着室として案内された部屋は、広めの空間に情報端末だと思う機器が何台も並んでいた。そこにはカーテンもしきられた空間もなく、僕のイメージする試着室とは全然違っていた。
彼女は情報端末のうちの一つに乗り、何か操作を始める。すると、情報端末が稼働し、光が彼女を上から下に、下から上にとなぞっていく。
「よし、準備完了。それじゃあ、スポーツウェアで、原色じゃない奴。私の好みの色合いで」
彼女が端末に向かってつぶやいた瞬間、端末から強い光が発せられて、一瞬彼女の姿が見えなくなる。しかし、次の瞬間には、先ほどまでの服装とは全然違う、スポーツウェア姿の彼女が立っていた。
彼女の着ているスポーツウェアは、彼女の体のサイズにぴたりと合っており、色もパステルピンクと、かわいらしい雰囲気に仕上がっている。
「どうだい? 私の言っていた意味、わかった?」
彼女の得意げな笑顔に、僕は驚きで返す。
「すごいですね。言葉一つで試着できちゃうんだ」
「ああ、すごいだろ?」
まるで自分が作ったかのように誇る石渡さん。そんな彼女をちょっとからかってみたくなる。
「それにしても」
「うん?」
「石渡さんってもっとカッコイイデザインが好きなのかと思いましたけど、結構かわいい感じのデザインが好きなんですね。色もピンクだし」
「むっ? いや、その、変かな……」
ちょっと自信なさそうにうつむく石渡さん。からかうつもりが困らせてしまったようだ。
そんなとき、僕はさっき彼女に聞いた、とっておきの言葉を思い出した。
「いいえ、似合ってますよ。かわいい石渡さんにかわいいデザインの服が似合わないわけないじゃないですか!」
少し大げさに言った僕の言葉に、
「そうかい? まあ、その、なんだ? その、ありがとう」
彼女は照れたようにはにかんで見せた。




