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冗談を言い合って、笑ったら少し気持ちが落ち着いてくる。これまで知らなかった仮想空間に存在する小人の国。それを知ることは本を読んで何かを学ぶよりいい経験になるかもしれない。
「服だけど、ユニのスポーツタイプのウェアでいいかな」
ユニというのは恐らく洋服のメーカーか何かだろう。まったくどんなメーカーなのかはわからないが。
「芹沢君、こっちだ。行こう」
かってのわからない僕は、石渡さんにただついて行く。
見なれないレンガの町並みを眺めながらきょろきょろとあたりを見回す。
「お兄さん。いいのあるよ!! 見ていかない!?」
声をかけられた方を向くと、かなりきわどい衣装を身にまとった若い女性が、胸元を見せつけるようなポーズをとりながら、僕に向かって声をかけていた。
「えっ? えっと……」
突然声をかけられたことに戸惑っていると、
「ちょっと! 人の連れを勝手に持っていかない!」
石渡さんがすかさずに口をはさんでくれる。石渡さんの姿を見ると、声をかけてきた若い女性は、
「なに、彼女持ちか。それならさっさと行った、行った!」
と、急に手のひらを返したような険悪さで、僕たちを追い払う。
僕はあっけにとられながらも聞かずにはいられなかった。
「あの、石渡さん!! 今の人って……」
僕が尋ねると、石渡さんはどこか不機嫌そうに答える。
「なに、芹沢君あんなのに興味あるの?」
「いや、あんなのって言われても、あの人が何者なのかもよくわかってないんですけど……」
僕が正直に答えると、石渡さんは「ああ、それもそうか」と小さくつぶやいたあとに教えてくれる。
「あれはNPCだよ。ノンプレイヤーキャラクター。男を釣り上げるための、フィッシング用のマスコットキャラクターだね。ああいうのは一人でパブリックモードにアクセスしている男を見つけては声をかけて、アダルトサイトに引き込んでくのさ」
「えっ!?」
僕は驚きの声をあげる。あんなに人間っぽい言動ができているのに、あれがプログラムなのか……。
「ただ、ガラパゴスみたいな大きいサイトじゃあ、違法な客引きやリンクはすぐに気付かれて処理されるよ。ほら、見てごらん」
そう言われて、先ほど客引きをしてきた女性の方を見てみると、彼女は足元から徐々に消去されていくところだった。アバターの向こう側に人がいる場合のログアウトとは明らかに違う、『削除』。
しかし、それども彼女は自分自身が消えていることに気がつかないように、客引きの仕事を続けている。
「まあ、ガラパゴスみたいな大手サイトで客引きすれば客の入りもいいんだろうが、その分、違法な利用やスパム、ウィルスへの対応も早い。あれは最初から捨て駒だったんだろうな」
石渡さんが話し終える頃には、客引きの女性は跡かたもなくそこから消えていた。
石渡さんの言葉が頭の中に残る。
(捨て駒、か……)
「さあ、時間もあまりないし早く行こう」
ぼんやりしていた僕を促すように、石渡さんは声をかけてくれる。
僕は一度だけ客引きの女性がいたあたりを眺めてから、彼女の後について行った。




