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小人の国  作者: 夏野ゲン
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 小人化の完全導入から150年と少しになる今、ボクは畑と酪農を両立している。完全導入からそれほどの時がたった今でも、食品の生産はボク達人間の役目で、人類すべての小人化というものは行われていない。何年経とうとも、食料生産については人間が管理する以上に効率の良い手段がないということなのだろう。

 乳牛を4頭と、羊を20頭、鶏1000羽、荷引き用の馬を1頭、飼育している。これだけ家畜を、人間のボクとヘルプロボット4体で管理している。畑もあるが、市場におろすほどの量の野菜は作ってない。


 せっかくだから、ボクの作業を手伝ってくれているロボットたちを紹介したいと思う。まずは、2台の農作業ヘルプロボット、アグとグリ。合金と金属回路でできた22世紀前半の古いロボットで、独自AIを搭載している。駆動はキャタピラがメインで、多少荒れた土地の中でも侵入していく性能を持っている。オプションでコンバインやトラクターとしての機能も搭載されている万能型の農作業用ロボットだが、畑の仕事はほとんどないので、彼らの仕事はもっぱら力仕事ばかりである。アグはグリに比べてやや型が古く、グリは不完全ながらも太陽光による自立電源の確保ができているのに対し、アグには自立電源が存在しない。電源がギリギリになると自らの意思で充電に戻ってくるアグだが、アダプターを接続して充電しながら、作業を続けるグリの姿を眺める目に羨望のようなものが見える気がする。

 次は家のお手伝いがメインのロボット。名前は千絵さん。見た目は20代後半くらいで、比較的整った顔の造形がされているけれど、派手な印象は受けない。いつの時代のものかわからないような古い濃紺のメイド服を何着も持っており(恐らくボクの前任の人間の趣味だ)、家の中を掃除して回ったり、食事を作ったり、洗たくをしたりと、この家の中の家事はほぼすべて彼女がしきっている。基盤や回路には金属がつかわれているが、皮膚素材は合成樹脂性で柔らかく、見た目も質感も人間のボクと比べても遜色ない。動作も比較的自然で、表情も豊かに設定されているが、いかんせん家事を完璧に遂行することにメモリが多く使われているため、この人との日常会話にはしばしば違和感も含まれる。

 最後にボク達の農場で一番新しいロボットの紹介。いや、彼はロボットというべきなのかどうか、ボクにはわからないけれど……。彼の名前はスチュワート。彼はこの農場で唯一の有機アンドロイドだ。23世紀の始まりから半ばにかけて、小人の世界のロボット製作に大きな革命が訪れた。それが有機アンドロイド革命だ。

 それまでのロボットの主流は金属や樹脂により作られたものがほとんどだったが、やはり運動性能の限界など様々な問題が残っていた。それを根本からひっくり返したのが、バイオテクノロジーとロボット技術の融合だった。

 生物的な運動を再現するには生物そのものを使うことが正しい、こうした考え方は従来からあったが、それは生命倫理の観点からなかなか実行に移されることはなかった。しかし、人類が小人化という手段で自身の体に手を加えて以来、こうした生命倫理の考え方はすたれていき、バイオテクノロジーとロボット工学との研究の融合が進められていった。

 そして、23世紀前半、AIのプログラミングの基盤と、生体とを誤作動なく完璧にリンクさせる技術が確立され、小人の世界のロボット工学は有機アンドロイドの時代に突入した。

 このようにして生み出された有機アンドロイドは、さらに進化を続けている。今では昆虫の完全変態の分析結果を応用し、瞬時に構成遺伝子を切り替え、タンパク代謝を活性化させることにより、アンドロイドの形態を変える技術、また形態に合わせたAIに切り替えが行われる機能などが新たに開発され、この研究は今も止まることなく進んでいる。

 スチュワートはそんな有機アンドロイドの中でもかなり新しいタイプで、普段はネズミの形態をとっているが、必要時には牧羊犬や、子牛くらいなどに形態を変えて、牧場での作業をサポートしている。


 こんなメンバーでボクはこの農場をやっている。ちなみにロボットたちの名前は、ボクがここに来た時に千絵さんが教えてくれた。人間はボク一人だけど、それでも彼らの助けのおかげで、毎日の生活にそれほど苦労は感じていなかった。




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