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「お待たせしました。それじゃあ降りましょうか」
ボクが石渡さんに向かって手を差し出すと、嫌そうな顔をされる。
「どうしました?」
理由がわからずボクが問いかけると、彼女は不満そうに言う。
「そんな汚れたシャツのポケットの中に私を入れる気なのか?」
言われてみて初めて、胸元が泥でひどく汚れてしまっていることに気がつく。
「ああ、すいません。この中に入ったらドロドロになっちゃいますよね。えっと、それじゃあどうしたらいいだろう?」
ボクが悩んでいると、石渡さんはこわばらせていた表情をゆっくりと崩して、笑い始めた。
「えっ? えっ? どうしたんですか? 何かおかしいことでもいいましたか?」
「いや、ちょっとからかってみただけなのに、すごく困った顔をしていたから、面白くなってしまっただけだよ。私も外の世界を旅している身だし、汚れるのなんかなれっこさ。気にしないよ」
そう言うと彼女はボクの差し出した手のひらに乗った。やはり彼女の体重は軽くて、もともと同じ生き物だったとは到底思えない。姿形は似ているのに、本当に全然違うと思う。
手のひらに乗せた彼女をそっと動かし、胸ポケットの前に連れていく。
「汚れてしまって居心地悪いかもしれないですが、少しだけ我慢してくださいね」
ボクの呼びかけに、石渡さんはポケットの中からこちらを見上げ、笑って答える。
「ふふ、別に居心地は悪くないよ。むしろ温かくて気持ちいいかな」
ああ、ボクが彼女の体温を感じていたように、彼女もボクの体温を感じていたのか。
当たり前のことに気がついたとき、何故だか胸が温かくなるのを感じた。




