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大きな振動を与えずに、歩くことは難しい。そのことに気がつく。
足を一歩前に進めるたび、前後上下に慣性がかかり、胸ポケットに収まっている人が動くのがわかる。
「ふわっ! わあっ!」
ポケットの中の人は、時にその揺れに驚いたように小さく悲鳴を上げる。
スチュワートがネコの形態のままでいるのだとしたら、屋根裏部屋にいるだろう。暗くてほこりっぽくて、だけど不思議と落ち着くそんな空間。
しかし、そこにたどり着くまでには、階段、梯子と、今以上に大きな縦揺れが彼女を襲うことになるだろう。
「石渡さん。この先、階段と梯子があるのでひどく揺れますよ。やっぱり待っていた方がいいんじゃ……」
そう言って胸元を覗き込むと、彼女は不思議そうにこちらを見上げてくる。
「えっ? どうして?」
「いや、揺れたら怖いんじゃないかなって。さっきから悲鳴をあげてるみたいだし」
「悲鳴? ああ、さっきから声あげてたのか。すまない。なんだか楽しくて」
「楽しい?」
ボクの問いかけに、彼女は満面の笑みで答える。
「ああ、そうだよ。歩くたびに力がかかる感じ、なんだか楽しいんだ。ほら、映画の中で大きなロボットに乗っているシーンとかあるだろ? あれって実際に乗ったらこんな感じなのかな? とか、そんなこと考えて楽しい」
「……それは、よかったです」
ボクは少しあきれたように微笑んだ。
「揺れないようにという配慮は、無駄だったっていうことですね」
「えっ? いや、その……」
彼女が困った顔でおろおろし始めたのを見て、少しだけ気が晴れる。だけど、もう少しだけ、いたずらしてやろうか。
「それじゃあ、もうここからはなにも気にせずに歩きますよ。怖くなっても知りませんから!!」
そう言ってボクは、普段よりわざと一段飛ばしながら、早足で階段を登っていく。もちろん、ポケットの中の人が転落しないように気をつけながら。
「うわぁああああっ!! あっ、あははははっ!!」
ポケットからは、悲鳴と歓声の入り混じった声が聞こえてくる。
ボクも楽しくなってきて、少しだけ声を出して笑った。




