ブサイク
通い慣れたこの道を、
今夜で最後にしようと決心するのに2週間かかった。
話し合うべき事など何もなかった。
新しい道を 見つけた時は 黙ってサヨナラするのが 最初からのルールだった。
あとは 俺が笑って 「バイバイ」して、部屋の鍵を返せば済むだけのことだ。
今までと 同じ笑顔で部屋に入り、コタツにあたりながら、
台所で料理をする彼女の後ろ姿をボンヤリと眺る。
永遠に続くと思われた幻想が、もうすぐ終わりの時を迎える。
何を話すでもなく、最後の晩ご飯を2人で向き合って食べた。
別れの時、女はこんなにも強くいられるのかと、今更ながら思い知る。
「じゃあ・・・ね」、って言って鍵を渡して帰ろうとすると、突然彼女は、
「おかしいなぁ、男と別れる時泣いたことなんかないのになぁ・・・」って
笑いながらポロポロ涙を流し始めた。
「もう会いに来ないから、キスしよ」
精一杯のつくり笑いで彼女を抱きしめると、
彼女も力一杯、しがみついてきた。
「別れられなくなるよ……」
「お前が俺のこと忘れられるわけないだろ」
「そうかな? そうかもね」
泣き笑いのブサイクな顔、一番素敵な笑顔。
もうそれだけで俺は充分だった。
彼女が眠りにつくと、そっと部屋を出た。
鍵を新聞受けに入れ、車に向かう。
本当に これが最後なんだなって思うと さみしさが込み上げてきた。