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夜は僕  作者: イヌモグル
4/5

○○○○

 ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。

かりかり、かりかり。


うるさいな。

どうして君らは。

僕のとなりに。

いつも来るんだ。


 ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。

ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。


 山任 大樹。

講義くらい、真面目に受けたらどうなんだ?

 社台 栄進。

携帯は、カバンにしまってくれないか?

 新堀 朝日。

頼むから、僕に話しかけないでくれ。


 ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。

ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。


 僕はただ、真面目に受けたいだけなのに。

気付いたら、彼らがいつも近くにいる。

真面目に受ける気がないのなら、後ろの席で寝ててくれ。


 「そういやさぁ」


 新堀が、また新たな話題を繰り出す。

やめてくれ。

教授の声が聞こえない。


「お前らさ、『妖怪女』知ってるか?」

「なんだそれ」

「知らねーよ」

「心理学科の二つ上、白髪でいつも帽子にグラサン、夏でも長袖着てるヤツ」

「あぁ、なんとなく、見たことあるな」


 そんなの、ただの白皮症。

妖怪だなんて、幼稚すぎるよ。

どうして、そんなに、君たちは。

どうして。


 「栗さん、なんか知ってるか?」

「いいや、俺は見たこと無いな」


そんな嘘。

逃げるための嘘。

彼らに知識を与えれば、そこから会話が育ってしまう。

だから逃げる。

隔壁を作る。


 「で、その妖怪がどうしたんだよ」

「いや、すげえなって思ってさ」

「色が?」

「色が」

「格好が?」

「格好が」

「あぁ」

「そうだな」


 そんなこと。

小学生と変わらない。

帽子長袖サングラスは、ただ日光を避けるため。

それだけなのに、それだけなのに。

それだけなのに、どうしてそんな。

 そんな下らない偏見に、僕を付き合わせないでくれ。


 「変だよな、白髪とか。ゴスロリみたいなもんなのか?」

「精神病とか、怖すぎね?」


 一体誰が。

誰が病気に追い込むのか。

君たちは何もわかっていない。


 ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。

かりかり、かりかり。


 どうして前に座っているのに。

受講を邪魔されてしまうんだ?

 彼らと縁を絶ち切れば、一人の時間が増えるのに。

だけど僕には。

勇気がない。

今に始まったことじゃない。

付和雷同は、生来の癖だ。

 だから。

だから、仕方ない。


 かりかり、かりかり。

かりかり、かり。


 教授が講義の終わりを告げる。

後ろの方から、ぞろぞろと、色素の薄い連中が、講堂の外へ、向かってく。


 「はー、昼飯どうすっか」

「今から行っても混むだろう」

「断食」

「嫌だね」

「栗東、行くぞー」

「ああ、ちょっと待て」


 仕方ない。

僕は普通の人間だ。

だから、僕には、そんなこと。

常軌を逸脱した行動など。

普通ではない行動なんて。

できるわけなど、無いんだから。


 「そういや、アイツ」

「妖怪?」

「妖怪」

「またかよ」

「もういいよ」

「アイツ、この前倒れててさ、保健室連れていかれてた」

「なんで?」

「喘息、咳してた」


 ん?

日光?

喘息?

そうか、彼女は、そうなのか。


 かちゃかちゃ、かちゃかちゃ。


 僕は筆記具を忙しくしまう。

彼らに急かされ、急いでしまう。


 かちゃかちゃ、すた。


 楽しみだ。

金曜の夜が、楽しみだ。

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