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食事中も、彼らのおしゃべりは止まらない。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
昨日のテレビがどうだの、あのアーティストがどうだの。
彼女がどうだの、車がどうだの。
講義がどうだの、教授がどうだの。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
うるさいな。
そんなこと、別に興味はないよ。
「栗さんは?昨日見た?」
「いいや、見てない。どんなんだった?」
そう言えば、あとは勝手に話してくれる。
僕は適当に相槌うって、言葉を軽く受け流す。
内容なんか、覚えていない。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
僕は聴くだけ。
語らせておけば、相手は幸せ。
「それで、アイツが出てきてさ」
「山任、言葉じゃわからんだろ」
「アレはウケた。すげぇ笑った」
「場違いすぎて言うことなしだな」
あとは彼らが、勝手に進める。
僕は適度に頷きながら、頭に言葉を通過させる。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
どんな番組観てようが、それは自分の勝手だよ。
合わせる気なんて更々ない。
僕は僕だけ、それだけだ。
どんな音楽聴いたりするの?
好きな音楽をよく聴くよ。
どんな音楽が好きだったりするの?
良いと思ったら音楽が好き。
どうせ誰にもわからない。
他人のこともわからない。
僕は僕だけ、それだけで、一通り事は足りてるよ。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
「そろそろ予鈴がなるんじゃね」
「新堀、次はメディア論か?」
「社台も同じだったよな」
「山任一人でドイツ語か」
「隣が女で楽しいぞ」
「よこせよ」
「代われ」
「それから栗東なんだっけ?」
「栗さんあれだろ、二限まで」
「花金、花金」
「新堀、なんか親父くせぇ」
どんな時間割作ろうが、そんなの僕の勝手だよ。
彼らは彼ら。
僕は僕。
それで十分じゃないかな。
「ところで、今日は金曜だし、どっか食いにでも行かないか?」
「ラーメンそろそろ飽きてきた」
「俺はどこでも構わんよ」
「栗東どっか行きたいか?」
「俺はバイトがあるからさ」
そんな都合の良い嘘で、僕は誘いを切り抜ける。
付き合い悪いと言われても、そこまで嫌われるわけじゃない。
「一人暮らしはやっぱりキツいか」
「そうでもないよ、余裕はないけど」
「無理はすんなよ苦学生」
「苦しいほどではないけどね」
じゃあまた今度、誘うから。
彼らはそう答えるけれど。
別に誘ってくれなくていい。
僕の世界を侵されたくない。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
そしてようやく、予鈴がなった。
彼らも席をたち始める。
「そんじゃ栗さん、また来週」
「はいはい」
「バイナラ」
「新堀そろそろ死語やめろ」
そうして彼らは去っていく。
これでようやく、僕一人。
素敵だ。
とても素敵だ。