人柱
2XXX年
地球の何処かに存在するとある国の話。
人間が暮らすこの国は妖の存在に脅かされていた。
生まれ持った血で神に愛された者。
記憶と引き換えに永遠を手に入れた者。
他者を護るために尽くす者。
知識と技術をもって他者を助ける者。
過去を乗り越え仲間を見守る者。
個性も能力もバラバラな5人の青年が生まれ育った場所を護るため奮闘する生と死の物語。
"あそこの土地は呪われている"
そんな噂が囁かれるようになったのは、再開発のための工事に関わった人間が次々と病気を患ったり交通事故にあったりと不可解な現象が頻発したからである。
この再開発工事は国が発展するために人ならざる者。つまり妖という存在を研究するための施設を建設するための工事でニュースでも大々的に報道された。
国営の施設ということもあり大金と国の偉い人間や委託された民間会社の上層部から末端の現場作業員まで沢山の人間が動いた計画で、噂は現場作業員からその家族へ。その家族から近所や友人へとあっという間に広がりSNSで心霊現象や祟りとして大きな話題となった。
広がる噂と共に施設の建設中止を示唆するゴシップ記事も出たが大金とたくさんの人間が動いているという事情から建設は決定事項とし中止することはなかった。
しかし強行突破を決めた後も現場作業員が怪我を負ったり、設計を担当した建築家が精神病を患ったりと関係者が身体を壊すということが頻発し思うように建設が進まない。
そんな折、とある歴史研究者が調査結果を発表した。
150年前、建設しようとしている土地一体は無縁塚であった。
今から150年程前はまだ技術も経済も発展していない時代。
国の成長のためこの無縁塚を埋め立てて教育機関を設立することになった。
しかしいざ埋め立て工事が始まると事故が多発し工事が全く進まない。事態を重くみた工事関係者たちは有識者を集め話し合いの場を設けることにした。
有識者として宗教を専門にしていた学者も呼ばれ会合に参加。学者はその場で建設までの速度を優先し土地の神に許しをもらうための地鎮祭や死者に対する供養の過程を一切行っていないことを知った。
「神や死者への敬意がないからバチが当たったんでしょう。工事を仕切りなおして供養と地鎮祭からやり直すことをお勧めします。まあ一度手をつけてしまった手前、神が許してくれるかは分かりませんが。私から助言できることはこれだけです。」
それから工事関係者たちは渋々、埋め立て工事を中断し死者の供養と地鎮祭を執り行うこととした。
死者供養のための僧侶と土地の神である氏神を祀る神社の神主を招き行われ大きなトラブルなく儀式は終了した。
しかし工事が再開し一週間がたった頃、事故が起きた。現場の作業員が重機に巻き込まれ死亡した事故だ。
死者を出したということもありこの事故は大きく報道されることになった。報道により建設をやめた方がいいという世間の声も大きくなっていった。
工事関係者たちは再び話し合いの場を設けることにした。1度目の会合に呼ばれた学者も再び呼ばれ参加した。
「人の命を犠牲にしてまで意地になる必要性を私は感じませんが…」
学者は一度は反対をした。神の祟りというものがどれほど恐ろしいか知っていたからである。しかしその場の雰囲気から工事を取り止める選択肢はないことを察し1つの提案をした。
「どうしてもと言うなら人柱、という択があります。」
工事関係者たちは研究者の言葉に怪訝な顔を浮かべた。
「人間を生き埋めにしろと?」
「ええ。人間の罪は人間で償う。当然のことです。」
だだっ広い会議室に沈黙が走る。当然である。犠牲になる人間などそう簡単に思いつくはずもない。
研究者は沈黙に耐えきれずヒュッと息を吸いこう言った。
「建設地から少し離れていますが、東側に白い鳥居の神社があるのはみなさんご存知でしょう。そこの神主の娘さん。若い女性ですし長男であるお兄さんもいて後継者も問題ない。それに彼女は神に選ばれた人間です。」
わけが分からないとでもいいたげに幾つもの瞳が研究者を見つめていた。
「正確には神の使いである白狐に選ばれた人間。彼女を人柱として生贄に捧げればさすがの氏神も許してくれるかもしれません。」
会議室に響く研究者の声は酷く冷たく暗かった。
"那月 楓を人柱に命ずる"
白結稲荷の神主である那月家に御触書が届いたのはそれから3日後の出来事だった。御触書は国からの命令であり拒否権はない。那月家の人間はそれを既に悟っていた。
「逃げよう。」
命を拒否することは出来ないが何もかもを捨てどこか遠い場所へ逃げることは出来る。父であり神社の神主である那月肇は娘を守りたい一心でそう言った。
家族の誰もが首を縦に振る。しかし1人だけは決して首を縦には降らなかった。命を受けた本人である。
「お父さん、私死にたくないよ。でもねそれ以上にこの場所が好き。だから絶対にこの場所は護ってほしいの。ここが私の帰る場所だから。」
楓は芯のある透き通った声で言いながら戸棚へ向かい一管の笛を取り出した。これは先祖代々伝わる龍笛で神の使いである白狐に選ばれた者だけが扱えるとされている笛だ。那月家やその親族であれば触れることは許されるが血縁のない人間が触れれば呪われるとまで言い伝えられている神聖な代物である。
「だからこの笛とあの刀は次に扱える人が生まれてくるまで絶対に受け継いでいってほしい。そのために、この場所をここで終わらせてはいけないの。」
この世に生を受け18年。物心が着いた時には既に楓にとってこの神社が全てだった。神の使いに選ばれ普通の人間では有り得ないモノが見えたり、有り得ない能力が使えた楓は普通じゃないというだけでバケモノだと陰口を言われることもあった。しかし父や母が、この場所が人々の癒しの空間となるよう祈りを捧げているのを毎日のように目にしてきた。
他人の幸福を願う人たちの平凡が崩されるべきではない。
楓はそんなことを考えていた。
「私はねお父さんもお母さん、もちろんお兄ちゃんも。大好きな人たちに健やかに生きて天命を真っ当してほしい。私も天命を真っ当する。だから、ね?」
まだ若い娘を人柱として生贄に捧げればこの神社に帰ってくることは出来ない。それがどれほど苦しいことであるかは分かっていた。分かっていたが目の前にうつる娘の瞳は鋭く覚悟を決めていることを悟る。
「分かった。この笛とあの刀、そして楓が生きたという証を責任を持って後世に伝えるよ。」
肇は溢れ出そうになる涙を堪えながら真っ直ぐ楓を見つめそう告げた。




