4.ツァーリとウラジミール
ほぼ、ラスボス登場
吾輩は猫である。
名前はツァーリ。
館の皇帝であり、
イーゴリの膝を所有する者である。
だが――
この館でただひとり、
吾輩が “本能的に警戒せざるを得ない男” がいる。
名はウラジミール。
四十代後半。妻子あり。
上級書記官。
地味だが異常に仕事ができる。
常に冷静で、感情の起伏は控えめ。
吾輩はこう呼んでいる。
「無言の強敵」
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✦ 一、皇帝の玉座、侵略される ✦
その日、吾輩はソファーで昼寝していた。
(皇帝の権利である)
そこへ足音なく近づく影。
白髪交じりの灰色の短い髪と、茶色の目がじっと見てくる。
「……そこは、お客様の座る席だ。
どきなさい」
無表情、落ち着いた声。
しかし有無を言わせぬ圧。
吾輩は心のなかで叫んだ。
(断る!!!)
反抗の意志を込めて寝たふりを続けた。
すると――
サッ(猫じゃらし)
サッ(またたび粉)
ウラジミールは何も言わず、
まるで交渉術のように
最強の二手を繰り出してきた。
吾輩は目を開き固まった。
(な……なんだと……!?)
またたびをまぶした猫じゃらしを振る。
またたびの香りがほんのり漂う。
「……どうした。
興味がないなら片づけるが?」
(ッッッ!!?
こ、この落ち着き……!
わざとだ……!!
わしの弱点を知っておる……!?)
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✦ 二、皇帝、マタタビに屈する
ウラジミールはポケットから
マタタビをふんだんにまぶしたのハンカチを取り出すと、
「ほれ」
スッ……
軽い動作で投げた。
その瞬間――
吾輩はピンっと尾を立てた。
「♡♡♡♡!!!」
巨大な身体を揺らし、
ハンカチに一直線で飛びついてしまった。
(……ち、違うのだ。
これは本能……!!
わしが弱いのではない……
マタタビが悪い!!)
ウラジミールの口元がほんの少しだけ動いた。
「……そうか。
よしよし。取ってこい」
まるで犬扱い。
(わ、わしは猫であるぞ!!?
だが……マタタビ……無理……)
飛びつき、転がる吾輩。
その間に――
コロコロコロコロ……
ウラジミールは素早くソファーの毛を取り始めた。
無駄がない。
表情も変わらない。
まるでこう言っているようだ。
「皇帝だろうと、毛は毛だ。掃除は必要だ」
吾輩は驚愕した。
(なんという男だ……
イーゴリのような雑さもなく、
ケンジのような柔さもなく、
オレグのような嫉妬もない……
ただ静かに、
しかし完璧に吾輩を“扱っている”……!!)
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✦ 三、ウラジミールの恐るべき有能さ
掃除を終えたウラジミールは、
まだマタタビに酔って転がっている吾輩を横目に
すっと跨ぎ、書類を机に置く。
「……イーゴリ様の部屋も
後で掃除したほうがいいな。毛が多い」
(ちょっと待て!!
イーゴリの部屋に吾輩の毛があって何が悪い!!
そこはわしの縄張りだ!!)
だがウラジミールは容赦ない。
「イーゴリ様が困る前に対処しなければな」
(……くっ。
正論すぎて反論できぬ……)
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✦ 四、皇帝、完敗である ✦
ウラジミールは最後に少しだけ吾輩を見た。
「……よし。
皇帝、よく動いた」
その呼び名の正しさに満足しつつ、
吾輩は思った。
ウラジミール……
こやつ、ただ者ではない。
おそらくこの館で唯一、
吾輩を“合法的に”動かせる人間である……
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✦ 結論 ✦
吾輩は猫である。
皇帝である。
しかし――
ウラジミールは、
皇帝を尻に敷くことができる唯一の人間
かもしれぬ。




