2.ツァーリとケンジ
ケンジは猫が好きでも嫌いでも無く…
吾輩は猫である。
名はツァーリである。
館には、ひときわ静かで礼儀正しく、
しかしときどき目が笑っていない男がいる。
名はケンジ。
吾輩は思う。
こやつ……“ただ者ではない”。
---
✦ 一、ケンジという男の奇妙な特徴 ✦
ケンジは他の団員どもと違い、
やたらと吾輩に距離をとらない。
普通、猫が“シャーッ”と威嚇したら
人間は下がるものだが、
ケンジは下がらない。
むしろ――
「はいはい、怖いですねぇ。
でも、ご飯ですよ」
と、平然と皿を差し出す。
吾輩は混乱した。
こやつ、恐れを知らぬのか?
あるいは人生に疲れすぎているのか?
---
✦ 二、ケンジの匂いについて ✦
ケンジは静かで、
しかし気配が薄い。
廊下を歩く音も小さいため、
吾輩が背後に気付かず振り返ると
そこに立っていることがある。
「……餌、どうぞ」
びっくりするであろう!!?
吾輩は2回ほど跳ねた。
(誇り高い猫として非常に恥ずかしい瞬間であった)
---
✦ 三、ケンジの“ヴェーラ観察癖” ✦
ケンジはときどき、
執務室を出入りするヴェーラを
じぃぃ……と静かに見つめている。
吾輩はその視線に気づいている。
「う。今日も…かわいい…」
独り言を呟くときもある。
吾輩は思う。
ケンジ、ヴェーラが好きであるな?
しかしケンジは堂々としている。
むしろ紳士である。
あざとさも下心も感じない。
ただ――
イーゴリがヴェーラに近づくと、
ケンジの目が細くなる。
(吾輩は猫だが、
あれは人間の嫉妬という感情だと理解している)
---
✦ 四、ケンジvs吾輩 ✦
ある日、
吾輩がイーゴリの膝の上で寝ていると、
ケンジが入ってきた。
「団長、書類の——あ、ツァーリ」
「おい、こいつに触んなよ。噛むぞ」
ケンジは可もなく不可もない声で言った。
「大丈夫ですよ。
俺、猫には好かれる方なんで」
吾輩は思った。
ほう……?
これは戦の予感……?
ケンジは手を伸ばした。
吾輩は威嚇した。
「……シャーーーッ!!!」
「……あれ。ダメでしたね」
「だから言っただろ!」
ケンジは手を引っ込めつつ、
なぜか笑った。
「団長、
猫にまで独占欲強いの、どうなんですか?」
「はぁ!?猫は関係ねぇだろ!!」
吾輩は思った。
(いや関係あるぞ)
---
✦ 五、ケンジの本音 ✦
ケンジが書類を置き、
静かに退出しながら呟いた。
「……ツァーリ。
あなたは団長に懐いてる。
僕は……あの人に懐かれたいんですけどね」
吾輩はその後ろ姿を見て思った。
この男……
表面は柔らかいが、心の奥で炎が燃えておる。
実に面白い。
吾輩は猫であるが、
この館の恋模様は大変愉快である。
---
✦ 結論 ✦
ケンジは静かで礼儀正しいが、
心に深い色を持つ男。
吾輩は猫であるが、
恋の戦場において彼が侮れぬ存在であることを
しっかり見抜いている。




