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頼み 2

荒野の中、砂埃を上げながらバイクは進んでいた。

 私は、通信機に繋がっているイヤホンを気にかける。今、一緒にバイクに乗り、運転している彼女アワセの事を調べなくちゃいけない。『神』か、『人』か

 突然、イヤホンからノイズが聞こえた。

ノイズの向こうから声が聞こえる


「聞こえるか?ルイ?」


 ヤマモトの声が耳に入って、緊張が走る。もし、『禁書』と言われる物を回収できずに、『神』達に見つかれば、あの集落の人間は全員殺される。なんとしても回収しなければならない。


「返事をしたい時は通信機を軽く爪で叩け、イエスなら一回、ノーなら二回だ…聞こえているか?ルイ?」


私は左ポッケに手を入れ、通信機を一回叩いた


「よし聞こえているな、実はいうと俺もこの通信機とやらを使うのは初めてだ、お前と一緒にいた奴に渡されたんだ…」


 カシの事だろう。私を殺そうとした「神」側の人間、いや救われたの方が正しいのだろうか… カシは無事に帰ったのだろうか?その事が気がかりだった。


「おかしいな、フルに充電したのに何故、十メモリ中三メモリしか光ってないんだ…?お前のは確認できるか?」


 ノーだ…。私は二回叩いた。実際私も通信機を確認したかったが、私はバイクに乗っている…運転しているのは「神」側の人間の可能性があるアワセで通信機がバレたら、私の命も危うい。

 視線を下に落とすとアワセの太ももを見ると銃のホルダーがある。私は唾液を飲み込んだ。


「まぁ、良い…よく聞くんだ。確認だがお前にやってもらう事は『禁書』の回収と『禁書』保管所の破壊とアワセの調査だ」


 私は、通信機を一回叩いた。アワセとサイドミラー越しに目が合う…。

 ヤマモトは続ける…


「――よし、お前も気になっていると思うが『禁書』のことだが、大昔の『記録』らしい…紙が約500枚位を一辺にまとめている…本と言われる物だ…まぁ、見れば分かる……わかったか?」


 通信機を一回叩いた。

アワセの視線をミラー越しに感じたが彼女は何も言わない。


「アワセの件だが…奴の名は シエル アワセ 年齢二十四 奴は五年前、俺たちの集落に突然現れたんだ…奴は『旅人』だった、最初は水と食糧がないから分けて欲しいと言われた…旅の目的は不明…奴は明るく皆と仲良くなり、集落に滞在するようになり、いつの間にか五年経っていた…」


 それだけだと彼女が「神」と疑われる理由がわからない。

 ヤマモトは続けてこう言った。


「奴を疑う理由…それは奴が『文字』を読み書きしていたんだ…」


「なんですって…!?」


 思わず、声を出してしまった。


「おい!声に出すな!」


 アワセが私の方をミラーで見た。


「少し休憩しよう…ちょうど煙草が吸いたい」


 信じられなかった。ヤマモトが言った事が…。

 この世界で「文字」を使用できるのは「神」だけ、「人」が「文字」を使用するのは禁忌、それが数百年続いているのだから「人」は「文字」を使用する所か、読む事も、書く事もできない。

 正直嬉しかった。私は「文字」を見たことがない、いや、あるのかも知れないがそれを「文字」だと認識していないだけかもしれない。もし彼女が「人」側なら、是非「文字」の読み方、書き方を教えて貰いたい。そのためには、彼女が「神」か「人」か知らないといけない。

 アワセは地面が平坦な所にバイクを停め、煙草を取り出し、火をつけ私はイヤホンがバレないように服の中を通してまた片耳に入れ、イヤホン側を向かないようにした。

 

「一時間弱走ったわね…」


 煙がなびいて、私の横を通った。

するとアワセは「あっ」と声をあげた。


「ごめんね…煙草の匂いとか煙とか大丈夫?」


「大丈夫ですよ…僕の集落、皆吸っているので」


 アワセは「良かった」と言い、また煙草を吸っていた。少し顔つきが変わった。

 

「そういえば昨日の夜あなたに聞きたい事があるって言ったわよね」


「え、はい」


「聞きたい事は二つ……一つずつ聞きたいからあなたの集落について聞きたいんだけど…確か農業集落よね?」


「はい、時期に合わせて野菜とか煙草とか最近は薬草も育てて『神』様達に献上してますよ」


「へぇ、時期に合わせてねえ、じゃあ誕生日って知ってる?」


「はい!確か産まれてから三六五日経つと一歳、年を取るんですよね!」


「へえ。」


 アワセがニヤリと笑う。

 彼女が太ももの銃ホルダーから銃を取り出し、私の方に向けた。


「え…?」


 私は息を呑んだ。心臓に冷水をぶっかけられたような感覚と時間が止まったような感覚。

 すると、イヤホンからノイズが聞こえはじめた。


「何だ?メモリが四つになったぞ?」


 ヤマモトの声が聞こえたが、別のノイズの奥から聞こえる。


「……………………ル………ルイ」


 通信機から聞こえるのは聞き覚えのある声だった。


「カシ…?」


「ルイ!!頼む!!そこから逃げろ!!」


 銃を向ける、彼女の首筋に彼女と同じ肌の色の配線らしきものが耳まで繋がっているのが見えた。血管ではない...見覚えがある。


――――ああ、そうだ僕と同じ通信機のイヤホン


 荒野に一発の銃声が鳴り響いた…。



――――パチパチっと炎が音をたてる、彼女は毒蛇を串刺しにして焼いていた。

 弾丸は私の後ろに毒蛇がいたため、アワセが撃ったようだった。


「まさか、充電メモリと思っていたのが送受信している通信機の数とはな…」


 イヤホンを取り外し通信機からヤマモトの声が響く。

 通信機の光が四つに光っていた。


「で…?私も通信機で聞いてたけど、私が『神』側だと思っていたわけ?」


 彼女は串刺しの蛇に食らいついていた。どうやら朝食を食べていないようで、少しして「食べる?」とほぼ骨しか残っていない物を譲ろうとしたが私も朝食を食べていないがそれを食べる気力はなかった。


「ああ、『文字』を書いていたからな」


「ヤマモトさん、アワセは俺と同じような『神』に対抗するものだと思ってくれたらありがたい…ルイもすまない…」


 通信機からカシの声が響く。

無事に集落に帰ったようで、気が少し楽になった。


「どうして、僕が危ないって思ったの?」


「...通信機でルイの様子を聞こうと思ってな、『禁足地』から帰る時にヤマモトさんに通信機を二つ渡したんだ…集落の通信機を使用してヤマモトさんに聞いたらルイは任務をしていると言うじゃないか…だが送受信の数を見たら四つだったんだ…自分以外の通信機の数が一つ多くて、もしかしたら『神』に通信機を傍受されていると思って…」

 

「そうなんだ...」


 アワセが蛇の串焼きを綺麗に食べ、串をそこらへんにポイっと捨て、私に近づいてくる。


「ルイ君、いうことあるでしょ...」


「えっと...なんでしょうか?」


「『ありがとう』でしょ、毒蛇があなたを襲おうとしていたのを、銃で撃ち殺したのよ...最近資源が少なくなって値段が高い弾丸が一発無駄になったのよ...!まぁ、お腹がすいていたから見つけた時ラッキーと思ってニヤケちゃったけど...」


「すみません...」


「違う...!」


「ありがとうございます...」


 ヤマモトとカシが少し笑っていた。

遠くで子供のじゃれあいを見ているかのような笑い声が聞こえた。


「なんというか...」


「姉弟みたいですね...」


 ふと、アワセが何かを思い出したように私に聞いてきた


「ところで、ヤマモト隊長とルイ君にも聞きたいのですが...?」


「ん、どうした」


「いえ、あなたたち『人』は『文字』の使用が禁止されていて『記録』ができないんですよね...?」


「ああ、そうだが...」


 私も静かに頷く。


「どうして、『暦』の概念があるんですか...?」


 風が強く吹き、彼女の髪がなびく、どこからか紙が降りてきた。「文字」と写真が記載されている紙が…。

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