11 ラブなチェキ
手が冷たい!
10月31日。午後3時。
ポスターを張り終えた大成と咲茉が、もとのクラスに着いた頃にはその教室は飾り付けが完了していた。買って歩きながら食べるのもよし、教室内のテーブルで食べて写真撮影スポットで一緒に写真を撮るのもよしと、かなりの雰囲気があった。
「先に二人でまわってきなよ、僕はクレープの仕事をある程度済ませてから合流するからさ」
そう二人に言ったのは、海賊のような姿をした湊だった。
「派手だな。割と」
「湊、めっちゃいいじゃん。流石、私。いいチョイスでしょ」
咲茉は人差し指で鼻の下をこすりながら言った。咲茉はキョンシーの仮装をしている。スカートの下には網状のタイツを履いている。
「二人もとても似合ってるよ。今日は思いっきり楽しもう」
「人を噛まない程度に楽しもうかな」
大成は通販で安いという理由で買った、ドラキュラの仮装をしている。薄く、広いマントが大成の背中にかかっている。
「噛んだらソッコーで口の中にニンニク一球お見舞いしてやるから大丈夫」
咲茉は大成が人を噛んだところをイメージして、ニンニクの投球フォームを確認し始める。
「大丈夫じゃないんですが?」
大成は思わず、口を手で塞いだ。
「ほら、もうお客さんも来てるから、これ持って行ってきな」
そう言って湊は、二人にイチゴ味のパフェとバナナにチョコがかかっているクレープを渡した。どちらのクレープにも生クリームがぎっしり詰まっていた。
大成が手にスマートフォンを持っていたため、咲茉はそのクレープを二つとも受け取った。
「んじゃ、終わったら連絡してくれ」
「わかった」
湊の見送りを受けた大成と咲茉は、ひとまず、教室の外に出た。咲茉の提案により、二人はグラウンドに行くことに。
「大成、どっち食べる?」
「お前、選ばせる気あるのか?」
咲茉の右手に持っているストロベリークレープは、一番上に乗っていたのイチゴが無くなっており、その上歯形まで付いていた。
「別に良くない?まだ中にもいちごは入ってるんだし」
「そうゆう問題じゃない」
大成は咲茉の手からチョコバナナクレープを受け取った。一口、大成はそれを食べてみる。
「もちもちだな」
「もちもちだよねぇ」
クレープのもちもち具合は凄まじく、二人の会話を、幼い子供レベルにするほどであった。
「でもなぁ、オレは甘いものが得意じゃないんだよ。生地は良いと思うんだが、」
「それなら野菜クレープ頼めばよかったじゃん」
「そんなのあんの」
大成は野菜クレープという単語の存在を知らなかった。
「うん。ちょっと待って」
咲茉はクレープを持っていない左手で器用にスマートフォンを操作しだし、野菜クレープの画像を大成に見せた。
「ほらこれとか」
「確かにこれならオレも美味しく食べれそうだな」
「だね」
そう話しながらクレープを食べていると、二人はグラウンドに到着した。
グラウンドには、中央には大きなステージが設計されていて、スピーカーに観客席などの整備がされていた。事前に希望していた生徒がこのステージで時間ごとに使用することが出来る。現在は、女子数人がK-POPのリズムに合わせて踊っていた。観客席に男子生徒が多く集まっているのが見えた。
「着いたけど、なにかしたいことでもあるのか?」
「いや?特には。ゆったり食べ歩きでもしながら楽しみたいなーって」
咲茉は大成がギブアップしたチョコバナナクレープを口に頬張った。モグモグしている。
「でもお前こんなとこ出てきて大丈夫か?かなりの人の量だぞ」
「そこはまかせんしゃいよ。こうで、こう!」
咲茉は、キョンシーの帽子に付いているお札を側面から正面に移動させて、顔を隠した。
「それ前見えてるのか?」
大成は咲茉の前に手をやってパタパタさせてみる。
「下なら見えてるよ」
咲茉はお札にふっ、と息を吐いて、お札を一瞬上にやった。
大成の右ポケットから『ぶるぶる』と振動がした。一瞬スマホを取り出して、通知を確認した。
「あのー言いにくいんだが、結論から言うと、室内に戻っても良いか?」
「え?まだ来たばっかじゃん。なんかあった?」
咲茉はきょとんとした顔で言葉を返した。
「白井さんのクラスのメイド喫茶が混んできてるらしい。オレ達が行く頃にはほぼ売り切れかもしれん」
商品をすべて売り切ってしまうと、その時点でクラスの出し物は終了してしまう。メイドな服装をした店員さんとチェキが撮れたりするため、大成としてはこの機会を逃すことは絶対にできない。
「それは、ヤバめだね。しょうがないから戻ってあげるよ!」
大成の事情を聞いた咲茉は少しの間、頭をひねらせたが、残りのクレープを口に突っ込んで、近くのごみ箱にクレープの包装を投げ入れた。
「さんきゅ、急ぐぞ」
空には飛行機が着陸の準備をしているのか、低空飛行をしていた。近くには自衛隊があり、数時間に一回、大きな音を立てて校舎の上を通り過ぎる。
入学したての頃は驚いている人が多くいたが、数年も通っていると流石に慣れてくるものだ。
二人は急いで結月のクラス、二年三組に向かった。
二年三組はやはり、というか大成の想像よりも数倍は混んでいた。二人は数十人の行列の最後列に並んだ。
このハロウィンフェスタでは、どれだけ人の目に留めて来店してもらうか、が売り上げの鍵になっている。綺麗な女性のメイド姿を見るために来店する客。いっぱい人が来ているからなんとなくで来店する客など、目的は人それぞれだ。
大成と咲茉は待つこと数十分。チェキ目的で列に並ぶ客が多く、スムーズに店内に入ることが出来た。
「んじゃ、この『たっぷりラブマヨたこ焼き』ってやつを一つ」
この文字を読むのには少し抵抗があった大成だったが、咲茉がフリーズしたため仕方ない。
「たこ焼き一個っすね、少々お待ちください」
大成がメニューに絵で描かれたたこ焼きを正式名称で注文すると、小柄なメイドは呼びやすい名前に自動で変換して、そっけない態度で隣の空き教室に小走りで向かって行った。
「早く食って出てけって感じだな」
「きっと混んでてピリピリしてんのよ。許してあげなーよ」
咲茉は先程の待ち時間で買った飴を、口の中でコロコロさせた。
教室の後ろには、客と一緒にチェキを撮っている杏が見えた。チェキを撮る際に、どの子と撮るか指名することが出来るらしい。
見ているだけで確実ではないと思うが一番チェキを撮っているのは、おそらく白井結月だ。チェキを撮りに来るお客さんは男女問わず、多大な人気を得ている。
少し待つと、紙皿にたこ焼きが八つ置かれたものが出てきた。運んできた店員は先程の店員ではなく、杏であった。杏の右手にはマヨネーズのチューブが握られていた。
「んじゃ、愛のおまじないをかけていきますねー」
あくまで仕事。杏は二人が知り合いと知りながらも、気にせず対応していく。
「らぶ萌え~マヨビーム!おいしくなーれ!」
シンプルなたこ焼きに容赦なくマヨネーズが浴びせられた。
「致死量じゃねえか、これ」
「うちはこの量でやらせてもらってるんで」
明らかに他とは違う、他の席にはそんな多くかけられていない。ハートが書かれているぐらいだ。
「そう、か」
「チェキはどうする?二人とも撮ってく?」
杏は袋に入った小さいウェットティッシュをポッケから取り出して、机に二つ置いた。
「そりゃあ、ねぇ」
咲茉は大成の顔をうかがうように見た。
「撮るだろ、チェキ」
「よっし、二人分チェキお願いしまーす!私は杏ちゃんを指名する!」
咲茉はズバッと杏に手を差し伸べた。
「はーい、一人五百円ね」
杏は逆に咲茉と大成に手のひらをやった。どうやらここにお金を置いてくれという意味らしい。
それを聞いた大成は頭をポリポリと掻いた上で、
「いい商売してんな」
と言って、千円札を差し出した。
♢
いよいよ、大成に順番が回ってくる。手には結月とのチェキ券を握っている。いざ順番が近づいてくると、やはり緊張はするものだ。
「お次の方~」
「はい」
受付らしき店員にチケットを渡すと、その店員は、にこっと笑って先に進ませてくれた。
「あれ、先輩、来てたんですか?言ってくれたら接客してあげたのに」
次の一緒にチェキを撮る相手が大成だと知った結月は、安心したようにホッと息をついた。
「忙しそうにしてたから、迷惑になるといけないし」
正直なところ、結月から愛のおまじないのかかったたこ焼きが食べたかった。杏がかけたおまじないより、十倍は美味しそうだ。
「全然気にしないでください、今の先輩はご主人様なんですから」
結月は大成に微笑んだ。それはとても明るい笑顔だった。
「撮りますよー、好きなポーズしちゃいましょー」
店員はインスタントカメラを二人に向けた。撮る準備は万全のようだ。
「二人とももうちょっと近づいてー」
結月は言われたとおりに大成に体を寄せた。
「ポーズ?」
「先輩はいっ」
結月は指でハートを作った。大成は、そのポーズをする事ができず、とっさにピースをした。
「はいはい、こっち向いてー、さん、にー、いーち、ハート」
可愛らしい掛け声とともにインスタントカメラのシャッターが切られる。
「ごめん、もう一枚!」
結月はカメラを持った店員に人差し指を上げるジェスチャーをした。
「え?あっはーい」
特に気にすることもなく、店員は2枚目の準備をし始める。
「先輩っハート、しましょう!」
結月は片手でハートを半分作った。
「こう?」
大成も言われるがままに同じポーズを作った。
すると、大成が作った半分のハートに結月が作ったハートを合わせた。綺麗なハート型になっている。
そしてまた、女性の掛け声の後にシャッターの音がした。
大成は一枚目の写真を結月から受け取った。
「二枚目のやつはどうするんだ?」
「うまく印刷出来てなかったみたいです、悲しいですがこれで我慢してくださいね」
結月は、チェキの裏側にピンク色のマジックペンで自身のサインを書いた。
写真の中の結月はかわらず、笑顔で、可愛らしかった。
「うん、ありがとう」
「それと、先輩、」
「湊そろそろ終わるって、合流しに行くよー」
結月が何か言いかけたところで、杏と写真を撮り終わった咲茉が会話に割り込んだ。
「ごめん、そろそろ行かなきゃらしい」
「あの!スマホで送ります!」
「わかった。仕事、頑張って」
「はい!頑張りますね!」
結月はぺこりとおじぎをした。
「御来店ありがとうございましたー」
メイドに迎え出された大成と咲茉は、湊と合流するためにクラスへ向かった。
「さっき撮った二枚目のチェキ、ある?」
「あるけど、どうするの?」
インスタントカメラの頭から写真が印刷される。
「実は、私が欲しくてさ」
結月は照れくさそうに写真を受け取ると、スマートフォンのカバーを外して、写真が見える方を内側にして挟んだ。
「結月ちゃんも、好きな人いるんだ」
「先輩と付き合えたらなってずっと思ってる」
「そっか、叶うといいね」
「ありがと」
いつか堂々と見せれる日が来れば良いな、と結月は思った。
太陽は、徐々に沈んでいき、あっという間に日没に近づいていった。
少し長かったですが、読んでくださりありがとうございました。いいねなど、評価はいつも励みになっております。なにとぞ、よろしくお願いします。




