10 本番に向けて
今日は金曜日です!
10月31日。ハロウィンフェスタ当日。
この日の午前中は学校内で最終準備。午後からは本番、ハロウィンフェスタが開催される。
校内は忙しそうに走り回る生徒、教室を飾り付ける生徒などが多くいた。
大成と咲茉は簡単な仕事という理由で、校内にポスターを張って回っていた。
湊は二人と違って他のクラスメイトに信頼されているため、もっと大事な仕事をしている。
「湊くん。ちょっといいかな?」
そう言って話しかけてきたのは、学年の中でもかなり美人と言われている大成達、5組のマドンナ的存在だった。
「うん、大丈夫。何か困ったことでもあった?」
湊は動かしていた手を一度止めて、そちらに顔を向けた。
「ううん、そうじゃなくて」
マドンナはツインテールにした髪を、人差し指に巻き付けている。
「良かったら、なんだけどさ。ハロウィンフェスタ、私と一緒にまわってくれない?」
突然の告白だった。湊がよく周りを見ると、教室の入り口にはマドンナの友達らしき人が4、5人見えた。それでも湊はきっぱりと、それでも丁重に答え始める。
「期待に応えられなくてごめん、実はもう、一緒にまわる人は決めているんだ」
マドンナの顔は一気に暗くなる。自分自身、まさか振られるとは思っていなかったのだろう。
「それって、浅見と黒川?」
語気が荒くなっていた。おまけに目つきも酷くなった。
「そうだよ」
「湊君はさ、なんであんなのとつるんでるわけ?話してても面白くないでしょ」
湊はマドンナの話を聞くと、静かに、小さく息を吐く。
「あんなの?僕にとっては大切な二人だ。少なくとも、今の君よりはよっぽど楽しい会話ができる」
そんな二人の怪しい雰囲気を察したのか、マドンナの友達であろう女子生徒が教室の中に入ってきて、マドンナの後ろにぴったりと着いた。
「僕はさ、別に君のことを嫌いになったわけじゃない。僕の友達を馬鹿にしてほしくない。後は、わかるよね?」
いつもとは違う湊に怯えていた。そんな気がする。
「さ、うちのクラスもそろそろ仕上げに入ろうか」
一つ手を叩くと、湊はまたいつもの湊に戻った。何もなかったかのように。
マドンナの友達は黙ってもとのクラスに戻るほかなかった。その後マドンナは生気を失ったかのような目をしていた。
クラスの女子がそのマドンナに話しかけるような様子はない。話しかけられるとしても一部の男子のみ。クラスの女子は大抵、いくつかのグループに分かれている場合が多い。マドンナ?はどこのグループにも属していない。だから話しかけられない。
自己中心的な考え方では女子の世界では生きていくのが難しいのかもしれない。
「んで、次は?」
大成と咲茉はクラスメイトに言われ、ポスター張りをしている。いわゆるパシリ、だ。
「んーとね、こことか!」
咲茉が指さしたのは一階、階段前だった。
「遠いな。別にいいけどさ、少しはこれ持てよ」
大成の腕にはポスター用紙と、テープカッターがずっしりと乗っていた。
「そんなに重くないでしょ?しかも大成男なんだし。しっかりして」
「女でもオレよりゴリラな人はいるだろ、多分」
最初はテープを壁に貼るだけでも苦労していた咲茉だったが、流石に慣れてきたようだ。
ポスターには大成達のクラスと、そこでやる出し物について書かれていた。そこには、クレープ。と書かれている。
「クレープってなんでクレープって言うか知ってるか?」
「私が知ってると思う?」
大成は勿論知らないだろうと思い、咲茉に聞いた。
「小麦粉を薄く焼いたときの生地がちぢれ模様に見えることからフランス語で「縮み」を表すクレープ、って名前になったらしい」
「そんなんどこで知ったの」
「検索エンジン様」
「そうですかい」
大成が無駄な雑学を披露すると、咲茉は、クレープのポスターを張り終えた。
「こんなもんでいいか?ひとまずは」
「んだねー、教室戻ろっか」
その頃、結月は家に忘れてきてしまったメイド服を取りに家に戻っていた。
結月が家に帰ると、両親が迎えてくれた。
「どうかしたの?結月、今日は文化祭だから遅くなるって朝言ってたじゃない」
母の顔立ちは結月と非常に似ていた。結月の未来の姿を容易に想像できる。
「ちょっと衣装の忘れ物しちゃって」
「それってこれのことか?」
父は結月の部屋からメイド服を取り出した。
「それ!だけど、あんまり触んないで」
そう言って結月はメイド服を強引に奪い取った。
「そんな恥ずかしい格好していくのかぁ。ママも昔はあーゆーの着てたっけ?確か写真が、、」
父は右手を軽く握って唇を触った。
「煌正君!もう、昔の話ね、今はもう違うから!」
母は恥ずかしそうな顔を浮かべながら、ペチン!と父の頰を叩いた。
煌正とは、結月の父親の名前である。
「あー想像しただけで可愛い。結婚して良かった」
結月の父は相当イかれていた。引っ叩かれた頰はくっきりと赤い手形が写っていた。
「もう、煌正君ったら。私も結婚してよかった」
白井夫婦は平日の真昼間から抱きしめ合っていた。
在宅ワークがあるというのに。
「はぁ、私行ってくるからね」
『いってらっしゃーい』
二人を見て呆れた結月は将来はあんな風にはならないと心の中で誓い、メイド服を自転車のカゴに入れ、学校を目指した。
衣装に着替え終わった大成は、クラスの窓から外を見ていた。学校全体が賑やかになってくる。そんな気がする。
「始まるな」
もしかしたら、、?




