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第4章~第11話~

 気力を振り絞って言い切ったボクの言葉は、彼女にとって意外なものだったのか、拍子抜けしたような表情になった彼女は、浅いため息をついてから、手元にあったタバコに火を付け、

 

「見かけによらず、つまらないことを気にするのね」


と言ってから、自分のことを語りだした。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 小学生の高学年から高校を卒業するまで児童会や生徒会の役員を務め続けた、絵に描いたような優等生だった私の人生が暗転したのは、大学に入学した年の春だった。


 小学生の高学年から高校を卒業するまで児童会や生徒会の役員を務め続けた、絵に描いたような優等生だった私の人生が暗転したのは、大学に入学した年の春だった。

 

 文具・事務機器・オフィス家具などを販売する事務用品を扱っていた父の経営する会社は、西日本の二府四県に多数の営業所を設け、豊富な品揃えと、きめ細かな対応によりオフィス用品を事業所や商店、工場などに販売、ピーク時には200億円以上の売上をを誇っていたらしい。

 ただ、主力の事務用品はインターネット通販が台頭してユーザーのニーズがシフトしたことに加え、他社との競合、消耗品需要の減退などで売上が伸び悩み、私が中学生になる頃には銀行の支援を受け、経営の立て直しを進めていたそうだ。しかし、その後も売上減少に歯止めがかからず、売上高は、ピーク時の半分以下の約80億円にまで落ち込み、赤字が続いて債務超過に陥った。結局、私が高校を卒業した春に従業員約100名および全ての顧客を大手企業が引き継ぎ、その年の内に父の会社は倒産した。


 小学校時代から必死に勉強して挫折することなく、高偏差値をキープしていた私は、入試を受ける際に、「私学は絶対に無理」と母親に何度も言われた。

 念願が叶い、合格した国立大学の学費は高くはない。そう、思い込んでいた。

 入学金28万2000円、年間授業料53万5800円で、学費は日本学生支援機構の奨学金を借りている。学費は奨学金、そのほかの費用はアルバイトで稼いでほしいというのが、両親の意向だった。


 経営者という肩書きを持っていた父の後を追うように、国立大学で経営学を学ぼうと志望校を選んだ私の人生は、ここで、大きな転機を迎えることになる。


 大学は朝9時の1限からで、中学から続けていた部活のテニスは夕方から週2~3日。スーパーマーケットでもアルバイトをしたが、部活のない日にしかできない。ただ、大学の同級生や友人はみな家庭が裕福なので、経済的な苦境は誰にも理解してもらえなかった。それでも、勉強では味わえない達成感があるクラブ活動は、大学でも続けたかった。

 

 ところが、すぐ経済的に苦しくなる。 バイトを増やすと勉強する時間がなくなり、留年しやすくなる。せっかく志望校に入学したのに、留年したら就職にも響いて、本当に元も子もなくなる。大学1年の夏に教材費がかさんだうえ部費の支払いがあったため、どれだけ節約しても3万円が足りない。親が親戚に頼みこんで乗り切ったものの、すぐに夏合宿が待っている。もう一週間の予定は全部埋まっていて、ただでさえ忙しいのに、さらに時間をできるだけかけないでおカネを得るとなると……親戚にはもう頼れないと悩み、見つけたのが『ユニバーサルクラブ』という交際クラブだった。


 無駄遣いしないし、とくに欲しいものがあったわけでもない。部活をやって大学を留年しないで無事に卒業したいだけだった。ただ、それだけ……。それでも、やっぱり、どうしても月3万円くらい足りない。

 男性に身体を委ねるなんて、気持ち悪くなって、当初は吐き気を催すくらいだった。やらなくていいなら、すぐに辞めたいと思った。自分がやっていることが、すごく気持ち悪かった。自己嫌悪と言うやつね。全然知らない人と裸で寝ているとか変だし、おかしいことをしている。そんな想いから、いつからか、同世代の男子学生にも特別な感情を抱くことが出来なくなった。


 お金がなくなったときには、清水の舞台から飛び降りる思いで交際クラブのサイトに書き込みを行った。相手の男性と会って一緒に食事をすれば1万円。身体の関係を求められれば3万円。人によるけど、向こうから私の身体をベタベタと触ってきたり、なめてきたり……最初はすごく気持ち悪くて「やめてください!」って言っちゃった。それでも、いちいち断るのが面倒くさくなってきて……。「もういいや……」ってね。


 こうして、なんとかクラブの合宿にも参加できて、学生生活を送ることができるようになった。


 そうするうちに、徐々に気持ちに変化が起きて行く。世の中にはおカネが余っている人がいて、その人は若い女の子に会って身体を重ねたい。私を欲しがるヒトがいて、私はおカネが必要だ。需要と供給が合っている。長い時間、すごく悩んだけれど、それは悪いことじゃないって。いつしか、そう思うようになっていった。


 父が心労で倒れ、程なくして亡くなったことで、頼るべき存在を失なってしまったことも関係しているのかもしれない。


 そんなときに出会ったのが、建設会社の代表を務め、中高一貫の私立校の理事の地位にいる山本昌大(やまもとまさひろ)という人物だった。

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