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第4章~第9話~

 落ち込むクラスメートを励ますためとは言え、財布にダメージを負ったボクは、遠山響子と駅で別れたあと、ふたたび、駅の北側に向かって歩き出す。


 二日前に、叔父の服を買いに来たついでに気まぐれで訪れたことから、その日の午後から夜にかけて、我が家に思わぬ出来事が起きたことを思い出しながら、ボクは、繁華街のド真ん中に建っているマンションのエントランスで、8階の一室に住む住人を呼び出すチャイムを押す。


 はたして、彼女はまだ自宅に居るだろうか――――――?


 気になりながら、インターホン越しの返答を待っていると、しばらくして応答があった。


「野田くん、いらっしゃい。どうぞ」


 担任教師の声とともに、エントランスの扉が開いて、ボクは三浦先生の自宅に二度目の訪問を果たすことに成功する。エレベーターで8階まで移動し、その一室の前で、ふたたびインターホンを押すと、すぐにドアが開いて、先生はボクを自室に招き入れてくれた。


「お邪魔します」


 と声をかけ、靴を脱ごうとした玄関先で、ボクは思わず目を見張る。


「ゴメンナサイ。シャワーを浴びたところだったから……生徒のアナタに見せて良い格好じゃないわね」


「いえ……急に訪ねて来たボクの方こそ申し訳ありませんでした。外に出て、先生が着替え終わる頃に出直してきます」


 ボクが顔を赤くしながら言うと、担任教師は、


「あら、案外ウブなのね? アナタは、もう少し経験が豊富なのかと思っていた」


と言ってクスクスと笑う。なるべく相手に失礼な視線を注がないように、ボクがうつむいていると、先生は、


「リビングのソファーで待っていてくれない? 今日の話しは長くなりそうなのよね?」


と言って、寝室と思われる部屋に入って行った。

 担任教師の言ったとおり、リビングに置かれたソファーに座り、前日に石井という職員を呼び出したときや、数時間前に、相手の正体がわからないままホテルの一室で女子生徒を待っていたときとは異なる緊張感を覚えながら、彼女が戻ってくるのを待つ。


 その間に、ボクのスマホには、何度かメッセージの着信が入ってきた。その内容を確認してから、ボクはこれから話すことを頭の中で整理する。

 それから、数分もしないうちに、ブラウスとスカートという、普段の学院で良く目にする服装に着替えた三浦先生がリビングに戻ってきた。

 

「お待たせ……と言わなきゃいけないところだけど、ちょっと、愚痴をこぼしても良い?」


「えぇ」


「野田くん、意外と遅かったのね。もう少し早く、ここに訪ねてくると思ったのに……おかげでシャワーを浴びるタイミングとアナタの訪問が重なっちゃったわ」


「それは、申し訳ありません」


 ここで、「先生のバスローブ姿を見ることが出来て、他の男子生徒に自慢できます……」などという軽口を叩く余裕は、いまのボクには無かった。

 

「ずい分と疲れているのね。目が赤いわよ? なにか、家庭や学校のことで悩みでもあるの?」


「まあ、そんなところです」


「そう。私が叔父様に選んだ服の評判は、どうだった?」


「上々だったそうですよ。女性の同僚に『見違えた』と言われるほどだったみたいです」


「そうなの? 少しでも、叔父様の力添えが出来て良かったわ。一昨日の()()()()でも、良くわかったけど……そうして、叔父様とお話しが出来ているということは、野田くんのご家庭には、なにも問題はなさそうね?」


「はい、いまの家庭環境に文句を言うと、バチが当たると思います」


「そう。羨ましい限りだわ。でも、家庭に問題がないと言うことは、学校のことね? 叔父様が話してくれているとしたら、今度の事件のこと?」


「はい、そうです」


「やっぱり、アナタの耳にも入っているのね。斎藤先生が、重要参考人って言うの? そのことで、警察に呼ばれている、って――――――」


「えぇ、その話しも聞きました。葛西さんが後部席に乗っていたという目撃証言と、仲田さんが事故に遭ったときに近くを走っていたバイクが防犯カメラに記録されていて、車種が一致したんだとか。それは、斎藤先生が、通勤のときに乗っているの同じ車種のバイクだそうです」

 

 そこまで語り、ボクは担任教師の表情をチラリとうかがう。そこには、どこか安堵したような雰囲気が見て取れた。


「そうなの? あのバイクが……こんなことになって残念だわ。でも、二学期が始まったら大変なことになりそう――――――いえ、いまなら、グループLANEなどで、先に情報が回っちゃうのかしら?」


「さあ? 少なくとも、ボクはそんなことはしませんけど……」


「えぇ、野田くんなら、そんなことはしないと信じているわ。いずれにせよ、新学期が始まってからね。学院が色々と騒がしくなるのわ。今度は、校長先生も問題の対応に追われるだろうし……警察とアナタの叔父様には感謝しているわ」


「叔父なら、『それが、警察の仕事ですから……』と、淡々と答えると思います」


「そうなの? でも、これで万事解決となるなら、本当に感謝の言葉しかないわ」


「いえ、それがそうでも無いようなんです。県警は、斎藤先生だけでなく、山本理事長にも事情を聴く方針だそうです。そして、遠山さんに、葛西さんが斎藤先生のバイクに乗っていた写真を提供したのはあなたですよね、三浦先生?」


 ボクの一言で、担任教師の表情が、一変するのがわかった。

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