五千円の誘惑
誤字脱字、ここが変だよというところは教えていただけると幸いです。
私、鈴木あおい17歳。花も恥じらう17歳だ。
大事なことなので2度言った。
父と母が一人ずつ。
弟が二人。ごく普通の家庭だ。
両親には私が知る限り愛人も婚外子も存在しない。弟は上が十四歳、下が十一歳。二人とも村人Bのような容貌の持ち主だ。彼女がいないことは姉センサーで確認済み。ついでにいうと私も生まれてから一度も彼氏ができたことはない。似たもの三兄弟である。
別に少女漫画の主人公のように眼鏡をとったらすごい美少女だったとか、男装していて実はさいきょーの暗殺者ですとか、瞳はオッドアイでとかそういう特別感ある属性は残念ながら有していない。
どこへ行っても嗤われたりはしないが褒められもしない容姿だ。
ただの一般人。それが私。
しかし、そんな背景モブの一般人にも非日常というものは訪れるし、「主人公」みたいな行動をとることもある。
今考えても、どうして基本的に怠け者の私があそこまでしたのか分からないのだが…
それは去年、夏休みに入る少し前の休日のことだった。
高校生にして散歩が趣味であった私は猫のようにふらっと家を出た。
冷房の効いた室内のひんやりとした冷気にしばしの別れを告げ、ドアを開けると夏特有のむわっとした熱気が全身を覆う。
年々平均気温が上昇し、地球温暖化の危険性が叫ばれるようになった昨今では7月上旬と言えどもとても暑い。
あまりの暑さに体力をごっそり奪われたかのような錯覚を覚えるがここまで来ては引けない。
何かに負けてしまうような気がする。
…私は一体何と戦っているのだろうか?
クシャッ、と何かを蹴る音が聴こえ、ふと足を止める。
そこにいたのは樋口一葉、もとい五千円札だった。
折りたたんだ後もなく、真っ直ぐなその紙は輝かしさというか、一種の神々しささえ感じる。
最近は子供達だけでなく五千円札も家出するようになったんだな。家出少年ならぬ家出五千円だぁ。
うふふふ、あはははは…
面白くない。
いやどうしろというのだ。
こんな大金。人によっては物凄い大金ではないかもしれないが、少なくともバイトをしないタイプのJKにとってはとんでもない大金だ。
これがあればコンビニのアイスなんてわんさか買える。未だにお駄賃制の我が家はお手伝いしないと小遣いが貰えない。
何とかその月の収入に見合った支出にするため、貯金箱を悪徳商人のような顔で眺める日々。
この五千円札があれば支出なんて一切気にせずアイスをたくさん買うことができる。
まさに悪魔の囁き。小賢しい五千円札め。
この私を誑かしおって。
五千円札とにらめっこすること数分。
…分かったよ。持ってけばいいんでしょ?
五千円札は一瞬、風に煽られたのか、頷く様にカサカサと揺れた。
まあ仕方ない。後から通りかかった全く知らない人がこれを拾って、やったー、五千円札だー!と自分のものにされてしまうのはなんだか腹立たしい。
それにそうならなくても風に飛ばされて川にぽちゃん、車に轢かれてズタズタ…も嫌だ。
勝手にこのお金を使ってもバレたらやばい気がする。大体、人様の稼いだお金だし。
そうなるくらいなら少し遠いけど交番に行ってちょっと褒められてきた方がずっと良い。
それじゃ、いってきまーす。
「え?届けに来てくれたの?」
交番に着くと、なんかちょっとびっくりしたような女性警察官に案内されて椅子に座る。
私の他に誰も一般人はいなかった。
変な事したら逮捕!とかになったらどうしよう。
私の格好、痴女みたいになってないよね?
しょうもないことを大真面目に考えながら渡された紙に記入していく。
鈴木あおい。十七歳。20XX年生まれ。
住所は某県某市。
全部記入してから、その後の事について説明を受ける。拾ったお金は一定期間持ち主が現れなければ私が受けってもいいらしい。
ただし、その期間を過ぎると県のものとなるんだとか。…取りに行くの忘れそうだ。
最後に見たそのお札は妙に怪しく輝いて見えた。
やっとの思いで交番から出た私は疲れていたが、一種の達成感で清々しい気分だった。
ふー、久しぶりにいいことしたなぁ。
もう暑さなんて気にならない!足取りも軽やかだ。
さっさと家帰ってゲームでもしようっと!
今の私は何かの漫画の主人公のような万能感で満ち溢れていた。
ちなみにその1年後、私はスマホの広告に出てきたパトカーのイラストを見て、五千円札の存在を思い出したが時すでに遅し。
五千円札は私のモノにはならず、公共のものになってしまったのであった。
(やっぱ取りに行くの忘れたぁ!!)
ちゃんちゃん
最後までご高覧いただきまして有難うございました。