9話
今日は結界を張ったついでに神聖魔法についての勉強をする事にした。
ふむふむ成る程、結界魔法を強化すればまずはゾンビと言った不死属を触れただけで浄化させる事が出来たり更に強化すれば自分よりも弱い魔物も消滅させられる事が出来るのか。
物凄く頑張ればリッチと言った最上位クラスのアンデッドも浄化が可能らしいけど膨大な魔力を消耗するし、そのレベルの結界魔法を扱えるのは大聖女クラスの人だけなんだ。
流石にそこまでの領域は聖女の血筋を引いていない俺には無理そうかな。
「あらあら? 変態様がお寝んねしてますね、この結界に触れたせいみたいです?」
部室の外から女性との声が聞こえた。
どうやら入り口の前で気絶しているデビッドを見付けた様だ。
このままだと誰かに連絡するか本人がデビッドを回復させてしまう。
もう少し誰も気付かないでいて欲しかったが、10分間デビッドの侵攻を阻止出来たことをよしとするか。
「カイル! この声、聖女のルミリナちゃんじゃない!?」
リリアちゃんが作業を中断し、嬉々とした表情で勉強中の俺に声を掛ける。
今までに増して妙に嬉しそうなんだけどどうしてだ?
「あ? そうなのか? 一々人の声何か覚えて無いから分からない」
「アンタねぇ、幾ら何でも女の子に興味無さ過ぎでしょ。聖女よ聖女、学年3位の聖女。可愛くて可憐で美しくって皆の憧れの的。彼女にしたい女生徒最上位クラスのルミリナ様が私達の部室の前に居るのよ! これがどれだけ素敵で素晴らしい事なのか分からないのかしら!?」
下手すればデビッドと匹敵する位の熱量で、物凄く興奮しながら言うリリアちゃんだ。
あーでも、確かに学年3位って言われたら興味持たない方が異常なのかもしれない。
俺ももう少し他の学生に興味を持った方が良いかもな。
「んな事言われても、学年3位って事はカオス学長からこの部に入部しろって言われたんじゃないのか? そこまで興奮する事無いと思うんだけど」
聖女だけあって、神聖魔術の成績は2位である俺を凌駕して圧倒的な1位の成績を収めていたな。
入部してくれれば神聖魔術について色々聞けるかもしれないから有難い事だが。
「アンタ本当にルミリナちゃんに興味無いのね? 本当に興味無いのね? 私が取っちゃっても文句ないよね?」
「は? 今なんて言った? 私が取っても文句無いって聞こえたんだが」
それはつまり、リリアちゃんは女性に興味を示している事に捉えられるが。
いや、待てよ? さっきデビッドに対して大聖女や王女の紹介を提案していたな? 入部させないための無理難題を適当に言っただけと思ったが。
0では無い、万が一に備えて本当に実行した事を考えれば自分が望む何かでなければならない。
「そうよ? 万が一位、百が一かしら? 恋のライバルになるかもしれないじゃない? 今のアナタはルミリナちゃんに興味が無いかもしれない、けれど彼女の優しさに包み込まれた瞬間アナタがルミリナちゃんにベタ惚れしてしまう可能性は有り得るの」
「まぁ、その可能性は否定しないが」
「セザール学園ナンバー1とナンバー3のカップル、そんな乗せ件だって注目するじゃない? ルミリナちゃんの彼氏が他の雑魚なら兎も角、学園ナンバー1のアナタとしたら、それを強引に引き?がそうとすれば私が学園中を敵に回す事になっちゃう。だから後から奪い取る戦法が出来ない」
ルミリナちゃんとの今後の展開について熱弁するリリアちゃん。
デビッドのそれに近い気がするが、デビッドと違ってこんな長々説明はしない、言っても気合だの根性だのって言葉が位だろう。
「いや、その辺取られる隙を作る男が悪いと思うが……」
「アナタが良いとしても世間が許さないのよ」
リリアちゃんが両手で机を叩き立ち上がる。
一体彼女の頭の中ではどれだけヒートアップしているのだろうか。
「そ、そうか。けど、リリアちゃん? 君はれっきとした女の子だよね? ルミリナちゃんも女の子だよね? それで、どうして俺が恋のライバルになるかもしれないと思うのさ?」
「あら? カイル君? 恋愛に男も女も関係無い事はご存じないのかしら? 女の子の柔らかな肉体ってね、女の私でも魅力的なの、それに女の子は男と違って裏切る事が無いの」
つまり、リリアちゃんは過去男から裏切られた事があると言う訳だが。
「聞いた覚えが無い。俺自身恋愛に興味が無いからかもしれないが、だからと言って恋愛は男女でするものとしか思わん」
「恋愛に乏しいアナタに特別教えてあげるわ。アナタの考えは古いのよ、多分一〇〇年位前の考えね。もしかして、セザールタウンでは当たり前だけど、アナタが住んでいた農村部では当たり前じゃなかったのかもしれない。そう、セザールタウンでは女の子と女の子の恋愛は普通なのよ!」
右手で拳を作り熱弁するリリアちゃんだ。
この話が本当か嘘かは兎も角として、恋愛に興味が無い俺にとっては正直どうでも良い事だ。
「ちなみに、男と男の恋愛は」
「有り得ないわね。気持ち悪いモノ。臭い汚い醜い身体が触れ合う様とか見ていて不快だもの」
「だろうな。俺も見たくない」
「そうよ、恋愛は女の子同士だから良いの。ただ、子孫繁栄の為に男と女がくっつかなければダメだからその存在自体否定しないわ」
素敵な持論を持っているリリアちゃんだ。
反論したい気持ちが無くも無いが、反論した所で面倒な事を浴びる程言われそう出し止めておいた方が良いだろう。
「そうか。まぁ、俺がルミリナちゃんに興味を持つ事は億が一位無いと思う。それよりも自己鍛錬と自己研磨の方が大事だ。それを怠ってしまっては学年一位の座を奪われてしまうからな。いや、学年一と言ったってあくまでこの学園だけの話だ。他の大陸には俺より凄い人間が居ても不思議じゃない。それ等の人達にも負けない為鍛錬を怠る訳にはいかない」
「言ったわね? 今の言葉録音させて貰ったからね? もしもルミリナちゃんに手を出した時はこれを皆に言いふらすわ。アイドルの私が皆に言いふらしたらアナタの地位は危うくなるからね」
リリアちゃんが小さな固形物を取り出しながら脅迫をして来たが。
だから俺は女性に興味が無いと言おうとするも、録音と言う言葉が引っかかる。