5話「友人のデビッドはしつこいのです」
翌日の事だ。
今日の授業を終えた俺は教室を後にし、悩み事解決部の部室へと向かおうとしていた。
どうせ学生風情である俺に悩み事を持ちかける人間なんて居ないだろう、そもそもこの部活の事を知っている人間だって居ないハズだ。
毟ろ、中々良質な勉強環境を手に入れられて運が良かったと考えるべきである。
そう、授業を終え教室を後にするまでの俺はそう考えていた。
見通しが甘かったのか? いや、部の存在は隠していた俺がやるべき事はすべてやった。
何もしてないんだけど。
それは兎も角として、だ。
「よぉ、カイル。面白い部活に入ったんだって?」
俺の隣には友達であるデビッドが居る。
昨日リリアちゃんから部室でぼろ糞に罵倒されていたデビッドが居る。
俺が友達と言える位のコイツは決して悪い奴じゃない。気さくでコミュニケーション能力も高く接していて楽しい。
現に今日の昼休みもコイツとの会話で弾んでいた。
「よぉカイル。今日も部活か? ハッハッハ、頑張るな!」
デビッドにも隠していたはずの部活について何故か話題をふられる。
「部活? 何の事だ? 俺にそんな暇は無いぞ???」
「おいおい、冗談かよ。お前悩み事解決部の部長を始めたんだろ?」
何故かデビッドは的確に俺が所属している部を言い当てた。
こうなると隠し通すのは難しそうだが、さてどうしたものか。
出来ればしらばっくれたい所だけど、このまま部室に入ってしまったら100%ばれてしまう。だから予定を変更して帰路に着くしか無いのだが、その場合多分リリアちゃんから割と怒られると思う。2日目なのに行き成りサボり? 辺りか。じゃあ、一度デビッドと別れる場所まで帰ってからまた学園に戻る? それはそれでめんどくさいから嫌だな。
このまま悩み事相談部の事を明かした場合、そのまま部室に入るだろう。
恐らくリリアちゃんにちょっかいを掛け、物凄い罵倒をされると思う。
いや、デビッドがリリアちゃんから罵倒される様を見るのも悪くないか。
俺は少し悩んだ末、デビッドに真実を話す事にした。
「誰から聞いた?」
「誰? あぁ、コボルドの着ぐるみを着た謎のおっさんが言ってたぜ? よく分からねぇおっさんだったけど嘘言っている様に聞こえなかったな」
デビッドはよく分からねぇおっさんと言った。つまりデビッドはそのおっさんの正体がカオス学長である事を知らない。
どうする? 隠し通せそうな気がして来たぞ。やっぱり隠し通すか?
「ははは、そんな怪しいおっさんのいう事を信用するのかい?」
「まぁな、俺の直感があのおっさんは嘘を言っていないと告げているからな」
この脳筋野郎め!
「うーん、人を信じるなら理論的な根拠があるべきだと思うけど?」
「はっはっは、カイルは相変わらず難しい事考えてんだな! 人を信じるかどうかでこまけぇこと考えたら身が持たない、もっと気楽に構えた方が良いぜ?」
俺に向けサムズアップを見せるデビッドだ。
完全にデビッドのペースに飲まれてしまっていると言うか、こういう時脳筋は強いと言うか何と言うか。
「お前の方こそちゃんと考えないとその内詐欺にでもあうのでは?」
「詐欺? そんな悪い奴いねぇって、カイルは心配し過ぎだぜ?」
ダメだ、コイツに何を言っても無駄だ。
本当に将来誰かに騙される事を心配に思うが、その時に考えるしかないな、こりゃ。
「デビッドの言う通り、悩み事解決部の部長を始めた」
「やっぱりな!」
「まぁ、昨日は誰も来なかったしやる事無いから勉強しただけだけど」
「お、お前に相談して来る人で溢れていたと心配してたが、丁度良いな」
デビッドが俺の肩をポンと叩き、
「丁度良いって何がだよ?」
「俺も悩み事があってな!」
そんな元気よく言われると悩み事がある様には思えないが。
どうせこいつの事だからあったとしても、女性関連の事だろうが。
「意外だな、その悩みは何なんだ?」
「なぁに、部室に着いてから話すぜ、そっちの方が良いだろ?」
妙な気遣いを見せるデビッドだ。
まぁ、俺としても歩きながら話を聞くよりも落ち着いた部室内で聞いた方が良いだろう。
「そうだな。歩きながら話すよりはそっちの方が良いな」
「だろ? そう言えばカイル、親とはどうだ?」
「手紙で連絡している限り特に問題事は聞かない。今回テストの件も連絡しなきゃいけないかな」
セザールタウンから出した手紙は俺の故郷に大体4日後に到達する。
俺が家族に出した手紙の返事を貰えるのは大体10日後と言ったところで、セザール学園に入学してから3カ月しかたっていない今、両親達とはそこまで多くのやり取りをしている訳では無かった。
ただ、お互い元気にしている事が分かるだけでも気持ちは楽になるんだけど。
「それは良い事だな。俺の方も順調何よりだ」
俺と違いデビッドの実家はセザール国内にあり、今も両親と同居しているとの事で家族との接触頻度は高い。
「弟はどうなんだ?」
「アイツか? アイツは厳しいな。セザール学園の入学どころか、レベルの低い学校にしかいけねぇ。アイツにも気合と根性があればいいけどよ。それがねぇからよ。学費が勿体無いから中等学校を卒業したらそのまま働くか冒険者になるかって親から言われているな」
デビッドが言う通り、デビッドの弟は何故だか知らないが彼とは真逆の性格をしている。
ただ、それならばウィザード辺りに向いてそうだと思うんだけど。
「確か、弟は勉強も嫌いだったっけ?」
「ああ、そうだ。だからウィザードやプリーストになる事も出来ねぇ。冒険者と言っても精々ドブさらいや草むしりみたいな地味な依頼しかこなせねぇけど、それでも勉強したり訓練するよりはマシつってやがる。ホント呆れちまうけど、俺の両親は弟がそれで良いならそうさせろって話をしてるから俺にはどうする事も出来ねぇ」
デビッドが悔しそうにしている。
多分出来る事なら、自分が弟を鍛えてやりたいと思って居そうだけど、親が反対してそれもやらせて貰えないのだろう。
俺には姉と妹が居るが、どちらも故郷で暮らしておりセザール国までやってくる話は聞いていない。
両親の事業を手伝い、年頃になったら何処かに嫁ぐのだろう。
俺は偶々魔術の才能等があり、それ等の技能が故郷の中でも優れていたため両親がお金を使ってまでセザール学園に入れさせてくれたのだけど。
「本人にやる気があるなら俺が魔術を教える事も出来なくはないけど」
「そのやる気がねぇからお手上げだな」
デビッドが、はっはっはと高笑いを見せた所で俺達は部室の前へと辿り着いた。