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1話「悩み事解決部……?」

「やぁやぁカイル君。君は実に素晴らしいではないか。前期試験、全ての科目でトップクラスの成績を収めた上で学年1位の成績を収めるとは実に光栄な事だよ。近接戦闘だけでなく斥候としての能力も高いだけでなく黒魔術も神聖魔術も使いこなすなんてセザール学園始まって以来の逸材だよ!」


 俺をべた褒めしてくれているこの御人はセザール学園の学長、カオス学長だ。

 今から30年程前。セザール国が魔族からの侵略を受けた際、魔族軍の王、即ち魔王を討伐したパーティに所属していたウィザードであり、魔王討伐後は彼の功績を称え英雄とされ、将来再度復活するであろう魔王を討伐出来る人材を育成する為セザール学園の学長の地位が与えられた。

 要は凄い人であり、そんな凄い人からわざわざ学長室に呼び出して貰い直接お褒めの言葉を貰える事は物凄く光栄な事だけども。


「お褒めの言葉有難く受け取らせて頂きます」

 光栄な事と知りつつも、俺は笑いを堪えながら必死に言葉を紡ぎ出す。

 何故かと言われれば、真面目に俺を褒めちぎるカオス学長は、何故かコボルトの着ぐるみを着ている。それだけじゃない。魔法の力で身長100cmの3頭身のおっさんの姿をしているからだ。

 カオス学長曰く大衆を欺く必要があったり外に出る度英雄として賛美される事が面倒だから必要な時以外はこの姿で居るとの事だが。

 だからと言って、自分が使用している机の上に乗り両手を腰に当てながら俺をべた褒めするなんて、わざとやっているとしか思えない訳で。


「君は非常に優秀なんだな。通常の勉学や鍛錬とは別に心を鍛えて欲しいんだな」


 だからと言って笑う訳にもいかず、俺は深呼吸を一つし心を平静に保つ。


「心を鍛える、ですか?」

「うむ。君は学業の成績は非常に優秀であるが、部活動は行っていないだろう?」

「ええ、よりよい成績を収める為の勉学や鍛錬の方が重要と思いますから」

「その成績は十分過ぎる程高いモノを収めた訳だ、己を鍛える為の次なるステップを歩むべきなんだな」


 カオス学長が机の上でくるりと1回転、右手人差し指を突き出し、ポーズを決める。

 カッコ良く決めていると思うのだけど、コボルトの着ぐるみを着た小さなおっさんがその仕草を行った訳で、やっぱり面白可笑しいとしか思えない。


「ズバリ、カイル君には『悩み事解決部』の部長をやって貰いたいんだな」

「え、なにそれ? 凄いめんどくさそうなんで嫌なんですけど」

「セザール学園生徒達が抱く悩み事を解決するだけの簡単な仕事・・なんだな」

「仕事……? 仕事ってあの、給料を貰って作業するあの仕事?」

「そこに気付くとは鋭いんだな」

「はぁ、お金が出るならやらなくもないですが」

「お金は出るけど、部の維持費で飛ぶんだな」

「って、それじゃタダ働きじゃないですか。嫌ですよ、そんな面倒な事、心を鍛えるってなら滝にでも打たれた方がマシですよ」


 俺はため息をつき、学長の話を終わらせようと考えるが、


「仕方ないんだな。学生がお給金を貰う事は有り得ないんだな。カイル君がやる気にならないなら僕にも考えがあるよ」

「考えって?」


 一体何をする気なんだ? まさか学長とタイマンでもしなきゃならないのか? 幾ら俺が1年生の前期試験で1位の成績を収めたからって、昔とは言え魔王を倒した英雄に勝てる訳がない。


 俺は唇を噛み締め身構えるが、


「ふふふ、こういう事なんだな!」


 カオス学長は机から飛びあがり空中で縦方向にクルクルクルと回転しながら俺の真後ろにストンと着地。まずい、背後を取られた! と思い俺は慌てて後ろを振り返ると何やらカオス学長の周囲に煙が立ち込めたかと思うと、


「!?!?!?!?!?」


 俺の目の前にプラチナブロンドヘアーで、どこぞの貴族令嬢かはたまた王族なのだろうかと錯覚してしまう程の美人お姉さんの姿が。

 そのお姉さんの衣服も積極的であり、胸元が開いて目のやり場に困ってしまう程だ。

 言うまでも無くスタイルも素晴らしい訳で、こんな凄いお姉さんを目の前に俺の頭は少々混乱をしてしまう。


「カイル君」


 お姉さんは俺に近付き胸を押し当て、


「ふぁ!? 当たってますよ!?!?!?」


 自分の肩に柔らかな物が当たる感触を覚え、頭が真っ白になる。


「うふ、当てているのよ? ねぇ? カイル君? 『悩み事解決部』の部長になってくれないかしら?」


 俺の耳元にて、透き通る様な綺麗な声で囁くお姉さんだ。

 こんな美人のお姉さんから胸を押し付けて貰え退場、悩み事解決部の部長程度簡単な仕事を断るのは男が廃るって思う!


「ま、任せて下さい!」

「まぁ、頼もしいわね。部室は校舎の3階にあるからね。頑張って」

「はい!」


 俺は学長室に十分響き渡る程の元気な声でお姉さんに返事をし一礼をすると学長室を後にし、まずはその部室へと向かった。

 ………。

 部室に向かう廊下を歩いている途中の事だ。

 あれ? そう言えばカオス学長何処に行ったんだろう? 俺はてっきり実戦形式の模擬試験的な何かをやらされると思ったんだけど???

 えっと、確か学長は変化の魔法でコボルトの着ぐるみを着たおっさんの姿をしているんだよね? つまり、カオス学長は変化の魔法が使える。

 で、コボルトの着ぐるみを着たおっさんの姿をしているカオス学長は突然行方不明になった。

 何故か急に入れ替わるかの様に絶世の美女が俺の目の前に現れた。

 何故か偶然ジャストタイミングで。

 カオス学長は変化の魔法を使える。

 つまり、ここから導かれる仮説と言うモノは……。


「ぎゃああああああああ!?!?!?!?!?!?」


 その仮説を立ち上げた俺は恥ずかしさのあまり、校舎の中であるにも関わらず叫び声をあげてしまう。

 羊の着ぐるみを着たおっさんに胸を押し付けられ見事誘惑されてしまった俺!?

 顔から火が出そうな位はずかしいぃぃぃぃぃぃ!?!?!?!?

 い、いや、大丈夫! カオス学長の本来の姿はナイスミドルと言う言葉が相応しい位歳を重ねても魅力的な男性だから………………。


「大丈夫じゃねぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!」


 俺は間近にあった壁に、自ら数回頭を打ち付け、己の下した決断の愚かさを反省したのであった……。


「くそう……言っちまった以上やるしかねぇ……」


 だからと言って、自分が決断した事実は覆す事が出来ない。

 俺はがっくりと項垂れながらも教えられた部室へ向かったのであった。

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