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焔の幽閉者!自由を求めて最強への道を歩む!!  作者: 雷覇


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限界のその先へ

心氣顕現の修行を始めて、一週間が経過していた。


海人は、ほとんど飲まず食わずの状態で、ひたすら氣の制御に挑み続けていた。

目の下には深い隈ができ、頬もこけていたが、眼差しには鋭さが宿っていた。


「おーい、そろそろ身体が干からびるぞ」


どこか呆れたような声が、修行場の広場に響いた。


声の主は桐生だった。

両肩に巨大な魔獣の死体を担ぎ、血に濡れたままの足取りで現れる。


「……どれくらい経った?」


「まるっと一週間だな。よくまぁここまで没頭できるもんだ。飯くらい食え。獲ってきたぞ」


海人の視線が、桐生の足元に落とされた魔獣へと向く。

それは、頭が二つある狼のような魔獣だった。全身が黒い毛で覆われ、口元からは毒のような粘液が滴っていた。


「……コイツ、食えるのか?」


「案外イケるぞ。クセは強いが、しっかり焼けばタンパク質のかたまりだ。まぁ……ちょっとスジ張ってるがな」


桐生は慣れた手つきで魔獣の皮を剥ぎ、内臓を取り除き、手早く串に刺して火にくべていく。

火がパチパチと音を立て、肉が焼ける香ばしい匂いが広がった。


「なあ桐生。あんたが“心氣顕現”を会得するまで、どれくらいかかった?」


「……十年、だな」


「十年!? ……そんなに?」


「儂の場合は“氣の絶対量”が足りなかったからな。お前と違って、氣を満たすまでに時間がかかった。

だが、お前は違う。お前には、既に十分すぎる氣がある。必要なのは――“きっかけ”だ」


海人は黙って空を見上げた。


(3ヶ月の期限……あと何日残っている?

 力を得なければ、試練に生き残れず……それ以上に――あいつらと向き合う資格すらない)


海人の胸には、焔木一族への不信感が根強く残っていた。

この“試練”が茶番に終わる可能性は十分ある。たとえ生還しても、再び封印される可能性すらある。


(だから、俺は――力を得なきゃならない)


「……守られながら修行するのは、甘えかもしれないな」


「うん? なんか言ったか?」


「いや。……この肉を食ったら、俺はこの場を離れる。島を歩き、己を追い詰めて修行する」


「無茶言うな。今のお前が島を出歩けば、すぐ魔獣の餌だぞ」


「その程度で死ぬなら、それまでの命だったってことだ。俺は、そこまで追い詰めないと変われない」


桐生はしばらく沈黙したあと、焼けた串肉を手渡した。


「……お前、儂と同じくらいイカれてるな」


「俺の人生なんて、どうでもいい過去の連続だった。だから、変えたい。今ここで」


「ふむ……そこまで言うなら、止めはしない」


そう言って桐生は奥から一枚の紙を取り出し、海人に差し出す。


「これは?」


「儂が独自に作った、この島の地図だ。危険地帯も、拠点に適した場所も記してある。餞別だ」


海人は受け取った地図に目を通し、島の中央部に“立入禁止”と記されたエリアがあることに気づく。


「この山のあたりは……?」


「そこには近づくな。儂でも踏み込めん。

この島の中でも別格の魔獣が棲んでいる。下手すれば一瞬で喰われる」


「了解。……行かないさ。今の俺じゃ、まだそいつに挑む資格はない」


海人は荷物をまとめると、桐生に頭を下げた。


「世話になった。生きていれば、また会おう」


「おう、死ぬなよ。海人」



地図を頼りに、海人は島の探索を始めた。

幾度となく魔獣に遭遇しながらも、鍛えた剣術と機転で乗り切っていく。


(……やはり実戦は一番鍛えられる)


そして川沿いを歩いていた海人の目の前に、それは現れた。


――巨大な滝。


岩肌を割って流れ落ちる水流は轟音を響かせ、下流には清らかな水が溜まっている。


「……ここだ。修行の場所は、ここにする」


彼は滝の下に簡易テントを張り、薬草で魔獣除けの煙を焚き、罠を仕掛けて簡易の拠点を築いた。


「……幽閉中に覚えたサバイバル知識が役に立つとはな。

 ほんと、時間だけは腐るほどあったからな」


水を汲もうと川に近づいたとき――


「……綺麗だな。滝なんて、生まれて初めて見た」


思わず見とれたその瞬間――


ググッ


足元に違和感。次の瞬間、強烈な引きにより水中へと引きずり込まれた。


(んぐっ!? なに――!?)


視界に現れたのは、巨大なトカゲのような魔獣。

その尾が足に絡まり、鋭い牙を光らせて迫ってくる。


(くそっ……水中じゃ、力が……!)


懸命に刀を抜いて斬りかかろうとするが、水の抵抗に負けて刃は浅くしか刺さらない。


(……まずい。息ももたない。もう、やるしか――)


海人は両手に力を込めた。


(……心氣顕現――一度でもいい、出ろ!)


イメージ。刀の形。感触。重さ。

今、ここで“形”を得なければ死ぬ。魔獣の牙が肩に食い込む――それでも集中を切らさず、力を込めた。


ズブリッ


手に、赤黒い氣の塊が刀の形を取り、閃いた。


「――っ!」


その刃が魔獣の腹を突き抜け、血が水中に滲んだ。


魔獣は断末魔の叫びを上げ、流れに乗って川下へ消えていった。


(……やった、か……)


だが、喜ぶ間もなかった。

顕現した刀は不安定なまま氣を暴走させ――


ボンッ!!


海人の手の中で爆発。

衝撃波と共に彼の体は川から打ち上げられ、滝の岩盤に叩きつけられた。


「うおぉぉぉぉぉおおおおっ!!!」


そして――海人の意識は、深く、闇の中に沈んでいった。

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