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焔の幽閉者!自由を求めて最強への道を歩む!!  作者: 雷覇


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第29話:焔木家の暗殺者との対峙

岩室の前の樹林がざわついた。

風が揺れ、木々の隙間から黒装束の人影が現れる。


先頭に立っていたのは焔木健太。

鋭い眼光と整えられた黒髪。海人の存在を規律を乱す異物として否定し続けてきた男だった。


「……やはり、ここにいたか」


健太の声は冷えきっていた。その後ろには、いずれも武術に長けた精鋭が並ぶ。

海人は顔色一つ変えずに彼らを見据えた。


「ご苦労なことだな。まさか、島で俺にコテンパンにされたのを忘れたのか?」


健太の眉がぴくりと動く。


「焔木の名を背負わぬ者が、勝手にこの地を拠点とすることは認められない。

 ……貴様はもはや、焔木家にとって害悪そのものだ」


刹那が険しい表情で前へ出る。


「健太……これは命令なの? それとも、あんたの独断?」


健太は無言で腰の刀に手をかけた。


「“落ちこぼれ”がのさばる時代など、俺は許容しない」


ゼロが主の前にすっと立ち、機械的な口調で言った。


「主。戦闘意思を確認。殺傷指示は?」


海人は一歩前へ進み、風を背にして言い放つ。


「殺すつもりはないさ。

 だが、馬鹿には本当の痛みを知ってもらう必要がある」


健太の部隊が一斉に構える。

氣の奔流が爆ぜ、空気がぴりつき始める。


桐生がぽつりと呟いた。


「せっかく見逃してやったのにな。

 これで海人の真価を、あいつらも知ることになるな……」


次の瞬間、十人の影が一斉に突撃してきた。


海人の手に、赤黒い刃――《奪焔神刀》が現れる。

氣を吸い、氣を喰らい、氣を焔へと転化する――災厄の剣が、再び唸りを上げる。

その一閃が、戦士たちの常識を切り裂くまで、あと数秒だった。


 空気が弾ける。

 一番槍の男が吼えながら突進してくる。


 だが、海人はあっさりとその攻撃をかわし軽く斬りつけた。


「っ……なに、だ……!」


 男の瞳が見開かれる。

 彼の全身から、一瞬にして“氣”が抜け落ちたのだ。


「無駄だよ」


 海人の声は静かだった。

 奪焔神刀が男の氣を“吸い”きっていた。


「こ、の……刀……!」


「お前たちが“力”を信じるなら――その力が吸い取られたときの絶望も、知っておけ」


 さらに背後からの奇襲を跳ね返す。

 その反動で吹き飛ばされた男が、木に激突して気を失う。


「これしきで……! 貴様如きに……!」


 激昂した健太が、氣を一点に集中し、渾身の斬撃を放つ。

 剣閃が、空間を割るかのように走る。


 ――だが、海人は微動だにしない。


「……遅い」


 その瞬間。

 海人の背後に現れた炎の氣が、刀を包み込むように揺らめき――


 《焔木流・返し》


 健太の氣ごと、その一撃を「吸収」した上で“倍化”し、返す斬撃が走る。

 衝撃が爆ぜ、健太の身体が宙を舞った。

 ドン、と重い音が地を揺らし、健太は岩肌に叩きつけられ、動かなくなる。


 沈黙が、森を支配していた。

 健太の敗北に残された者たちの動きは止まっている。


 彼らの中にあったのは怒りではない。

 ――“恐れ”だった。


 だが。


「引くな。全員、囲め!」


 一人の男が叫ぶ。

 年若く、激情に任せた突撃。それは敗北者の常套だった。

 彼の一歩と同時に他の者たちも意地を見せたのか、一斉に海人を囲みにかかる。


 その瞬間。

 空気の“質”が変わった。


「……もういい」


 海人が囁くように言った。


それは海人が放った“焔吸”の応用技――


 《焔気絶界えんきぜっかい》。


 領域内にあるあらゆる“氣”を、自動的に吸収し、主に蓄積する。

 攻撃も防御も関係ない。そこに立っているだけで、“氣”は奪われていく。


「な……動か、ない……?」


「体が、重い……!」


 その場にいた全員が、膝をついた。

 彼らの内側にあった“氣”が、まるで熱に溶ける氷のように音もなく抜けていく。


「や、やめろ……っ……!」


「俺たちは……間違ってた……っ……!」


 その懇願に、海人の表情は変わらない。


「わかってる。お前たちも命令で動いただけなんだろう。

 だから殺しはしない。だが――この先、俺に刃を向けることはできなくなる」


 その言葉とともに刀を一閃した。

 八人の戦士は、順に倒れ込んだ。

 氣を失ったわけではない。だが、もはや氣の流れは一切感じられない。


「……氣が、空……」


「何も……感じない……」


「これが……あいつの力……」


 彼らの身体は健在だ。

 だがその中から力”だけが綺麗に抜き取られていた。


 もう、氣を高めることも、術を使うこともできない。

 彼らは“戦士”から“普通の人間”へと還されたのだ。


 ゼロが口元を引き結び、呟く。


「主の吸収……“実質的な処刑”ですね。

 殺さず、ただ存在価値を奪う。これは……残酷です」


 桐生が少し目を細めた。


「だが、これ以上の見せしめもない。

 これまで鍛えたことがすべて無しになったんだからな」


 海人は無言のまま、健太の方に視線を向けた。

 倒れたまま、未だ意識は戻っていない。


「健太のも全部吸っておかないとな。お前たちまた一からやり直すんだな。この瞬間、焔木一族一の役立たずになるんだからな」


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