紅蓮の証明
「やめなさい、二人とも! ここで騒ぎを起こせば問題になりますよ!」
「そうよ、海人! 島から出られなくなってもいいの!?」
瑞穂と刹那が割って入るように声を上げた。
だが、健太の敵意は明らかだった。その目は、海人を排除しようという意志に満ちていた。
「……健太の言ってることも一理ある。俺が守られて三ヶ月生き延びたと思われたら、またこの島に戻されかねない。……それだけは、絶対にごめんだ」
「へぇ、いい度胸だな。俺に勝てたら強くなった証になるぞ。――もっとも、ありえないけどな」
海人は、真正面から健太を見据えた。
かつてなら歯が立たなかった相手だ。だが今の自分なら、問題ない――そう、確信があった。
その間に健太は取り巻きから木刀を受け取っていた。
「木刀か。真剣でも構わないんだぞ?」
「勘違いするな。お前なんか木刀で十分だ。無能を殺したら俺が咎められるしな。好きな武器で好きに踊れよ」
健太はニヤつきながら構えを取る。
明らかに、勝利を疑っていない顔だ。
「――じゃあ俺は、素手でいく」
「は? ふざけてんのか? 本気で殺されたいらしいな」
「自分の好きな武器を使えって言ったのはそっちだろ。俺は素手が好きなんだ」
「……ぶっ潰す!」
怒りに任せて健太が突っ込んできた。
格下だと決めつけていた相手に、プライドを踏みにじられた結果だった。
(遅い……)
海人は冷静だった。健太の斬撃はただの力任せで、予備動作が大きく、単調だ。
木刀は何度も振り下ろされたが、海人はそれを涼しい顔でかわし続けた。
(この程度か……心氣を使うまでもない)
かつての自分なら圧倒されていたはずだ。
だが今の自分は、この島で何度も死線をくぐり抜けてきた――その差が如実に現れていた。
「……刹那。どう思います? あの動き」
「……正直、もう見違えるほどよ。氣の流れが穏やかで、完全に制御されてる。まるで別人みたい」
一族の中でも屈指の戦士である刹那でさえ、海人の成長には目を見張った。
「予想以上の進化ですね……。あの妙なメイドと爺さんにでも、修行を受けたのかしら?」
「……それより、その二人を連れて帰るつもりなの?」
「止めようとすれば、強行突破してきそうな気配はありました」
「……止められそうにないのが怖いわね、あの二人」
瑞穂は困り顔で苦笑しながら、海人の戦いへ視線を戻した。
そこにはもう、以前のような迷いや怯えはなく、むしろ戦いそのものを楽しんでいるような姿があった。
(生きてくれていればいい。それだけで十分だと思っていたのに……こんなにも強くなって帰ってくるなんて)
この先、命令を素直に聞いてくれるかは怪しかったが、それでも護衛としては頼もしさを感じていた。
「ちょこまか逃げ回りやがって!!」
「遅すぎるだけだ。攻撃する気にもなれない。……もう終わりか?」
「舐めるなよ! 俺の焔木の技、見せてやるよ!」
健太の全身から氣が立ち上る。海人はその氣配を受け、わずかに瞳を輝かせた。
(ようやく……試せるか)
「焔木流・朧蓮華!!」
健太の姿が一瞬、歪んだ。
そこに立っているのに、どこか透けて見える――次の瞬間、背後から殺気が迫る。
(後ろだ!)
振り向けば、そこには剣を構えた健太の姿があった。
“朧蓮華”――蜃気楼のように分身を見せ、本体は姿を消して背後から斬りかかる奇襲技。
未熟ながらも、初見殺しには十分だった。
(このままじゃ……)
海人は咄嗟に掌に氣を集中し、振り下ろされた木刀を受け止めた。
「焔木流・焔腕!」
次の瞬間、至近距離で炸裂するような爆発音が鳴り響いた。
「ぐぼぉぉぉおおっ!!?」
焔腕――海人が独自に編み出した技。
掌に集めた氣を一部だけ暴発させ、瞬間的な衝撃で相手を吹き飛ばす。
健太の体は爆風に吹き飛ばされ、地面を転がった。
全身に火傷を負い、顔は黒く焦げ、ピクリと震えている。
「……やっちまった。生きてるよな?」
確認するまでもなく、健太は全身を痙攣させていた。
気絶こそしているが、かろうじて息はある。
「まぁ、生きてるならいいか。これで、俺の勝ちで間違いないな?」




