迎えが到着
焔木瑞穂と焔木刹那は、小舟に揺られながら夢幻島へ向かっていた。
目的はただ一つ――海人を連れ戻すこと。それが叶うのは、彼がまだ生きていればの話だ。
海人の体には特製の呪符が仕込まれており、位置の特定が可能だった。たとえ死体になっていたとしても、回収はできる。
「ついに三ヶ月経ったわね……海人、無事だといいけど」
「大丈夫よ。あいつ、妙にしぶといし」
二人は海人の生還を信じていた。しかし、その信念を面白く思っていない者もいた。焔木健太とその取り巻きたちである。
「はっ、あんな無能、生きてるわけねーだろ。とっくに魔獣の餌さ」
「「そうだそうだ」」
「ほんと、時間のムダ。こんなの、ただの死体回収だろ」
その言葉に刹那は苛立ち、目を吊り上げた。
「文句があるなら来なければいいでしょ!海人が死んだと決まったわけじゃない!」
「当主の命令じゃなきゃ、誰がこんな島に来るかよ。あんな奴が剣だけで生き残れるわけないだろ?」
「それ、あんたが“呪符”を盗んだからでしょ!」
「アイツにはもったいなかったんだよ。俺が使った方がマシってもんだ」
「……アンタねぇ!」
「刹那、もういいわ。相手にする価値もない。それより、見て。島が見えてきた」
瑞穂は穏やかにたしなめながら、視線を前方へと向けた。
夢幻島は霧に包まれ、遠目からでも異様な空気を放っていた。
強力な魔獣が徘徊するこの島への上陸にはリスクが伴う。そのため、武装した焔木一族の若手数名を伴っての遠征となった。健太たちが混じってしまったのは、計算外ではあったが――
(……それほど、一族の中も人手不足なのね)
近年、魔獣の活動が活発化しており、主戦力の多くが別任務に出払っていたのだ。
「ここが夢幻島……初めて来たけど、綺麗な島ね」
「普通の人間は足を踏み入れない場所よ。ここは、“罪人の終着地”だから」
夢幻島は結界で覆われ、魔獣の外部流出を防ぐと同時に、罪人たちを送り込む“捨て島”として扱われてきた。
「……じゃあ、海人の居場所を探りましょう」
瑞穂は懐から呪符を取り出し、低く呟いた。
「……感応しました。かなり近いです。こちらに向かっているみたい」
「生きてるの!?」
「いや、そりゃ食べた魔獣が来てるんじゃ――」
健太の言葉を無視して、瑞穂と刹那は森の奥に目を向けた。
すると、木々の合間から3人分の人影が現れ、砂浜へと歩み出てきた。
「――ようやく迎えが来たか。待ってたぜ」
先頭にいたのは、間違いなく海人だった。
だがその姿は、島に送られた頃とはまるで別人だった。
全身に力がみなぎり、目は燃えるような強さを宿している。
「海人!よかった……本当に無事だったのね!」
「やっぱりね、しぶといわ」
瑞穂と刹那が駆け寄る。
「これで俺も島を出られるんだろ?」
「もちろんよ。……でも、その二人は?」
「20年も島で生き延びてた焔木桐生と、封印されていたメイドのゼロだ。こいつらも一緒に連れていく」
「えっ……焔木桐生? まさか、あの“行方不明になった”桐生さん?」
名前に聞き覚えのあった瑞穂が動揺するのも無理はなかった。
しかし、封印されていた“メイド”という存在には、理解が追いつかなかった。
「よう、嬢ちゃん。俺は海人と行くって決めた。同行させてもらうぜ」
「私もマスターの従者です。反対意見は却下します」
「……ちょっと!勝手に話進めるんじゃないわよ!」
健太が苛立ちを爆発させながら前に出てきた。
生きていただけでなく、訳の分からない2人を連れている海人に、気が立っていた。
「お前らなんかを島から出す気はねぇぞ!どうせその二人に助けてもらって生き延びたんだろ?そんなのズルだ!不正だ!」
「……なんだ、このクソガキ。やっちまっていいか?」
「私がやります。覚悟はできているでしょうね?」
桐生とゼロが殺気を放った瞬間、健太は目に見えて後退した。
彼らが“ただ者ではない”と、直感が告げていた。
「な、なんだお前ら……やる気かよ……?」
「やめとけ。こいつらは……俺でも止められねぇ」
海人が一歩前に出ると、健太は逆に余裕を見せ、にやりと笑う。
「ふん……いい度胸じゃねぇか、海人。かかってこいよ!」
「――言われなくても、行くさ」
海人の足元に氣が集い、空気が震えた。
数ヶ月前とは違う。
もう、彼は過去の自分ではなかった――。




